導入フェイズ

導入①花見川隆史

GM
数年前。
GM
花見川隆史。あなたは病院にいる。
GM
まだ研修医だったあなたの勤める病院だ。
GM
外科医の仕事は多忙を極める。ひっきりなしに患者がやってきて、その対応を求められる。
GM
それでもあなたは、幸福の中にある。
GM
今日はあなたの誕生日だ。
花見川隆史
公私は分けるようにしている。
花見川隆史
それでも心は浮き立つ。
マリナ
『帰ったら、一緒にケーキを食べようね』
マリナ
『せっかくだから、隆史くんの好物も作っちゃおっかな~~』
花見川隆史
『マリナちゃんの作るものだったら、なんだって嬉しいよ』
花見川隆史
そう言うと、彼女は少し拗ねる。
花見川隆史
それでもそう言わずにはいられない程。
花見川隆史
愛している。
花見川隆史
この女を幸福にする為に、僕は生きている。
花見川隆史
睨みを聞かせる先輩の目を掻い潜り、なんとか残業を回避する。
マリナ
『でも酢豚とケーキって食べ合わせ悪いかな? まあいっか!』
花見川隆史
幸運にも、急にけが人が運び込まれる事もなく…
花見川隆史
多忙ななかでも、どちらかと言えば穏やかな日だった。
GM
外科も慣れてきて、多少のことでは動じなくなってきた。
GM
しかし、そんな中に悲惨なニュースが飛び込んできます。
GM
街でトラックが暴走し、多くの死傷者が出たとのこと。
GM
手当を必要とする人は多く、都内の多くの病院に、怪我人が搬送されました。
GM
もちろん、あなたの病院にも怪我人が送り込まれてきます。
花見川隆史
白衣を今まさに脱ごうとしていた時だった。
そのニュースを目にしたのは。
花見川隆史
街でトラックが暴走し、多くの死傷者が出たとのこと。
花見川隆史
携帯を手にする事もできずに、修羅場に投下される。
花見川隆史
マリナちゃん、ごめん今日は遅くなる。
花見川隆史
怒ってたらどうしよう。
花見川隆史
電話を入れてやる事もできない。
花見川隆史
どうしたんだろう。
GM
一人でも多く受け入れるため、現場は戦場さながらの慌ただしさです。
花見川隆史
すごく嫌な予感がする。
花見川隆史
乱れたシャツと白衣でも、ナースに怒られる事はなかった。
花見川隆史
それだけ、院内は荒れていた。
GM
呼び声、悲鳴、電話の鳴る音。医療器の電子音、ストレッチャーが駆け込む音。
花見川隆史
公私は分けなければ。不安を押し込めて、仕事に当たる。
花見川隆史
回避した筈の残業。
GM
テキパキと指示が飛び交い、研修医であろうとも、丁寧に手続きを教える先輩はいません。
GM
今この場で、一人の医師として、すべきことをする。
GM
それが求められています。
花見川隆史
ひどい有様だった。
花見川隆史
これだけ多くの、重症者がいる状況に当たるのは初めてだ。
GM
あなたの勤める病院は、事故現場からほど近い場所にある。
花見川隆史
指示に従う。応急的な処置からなにまで。これでも僕は医者だ。
花見川隆史
救える命は全て救って見せる。
GM
トリアージⅠ。
GM
優先順位が最も高い、赤いタグのつけられた重傷者。
GM
最優先治療群(重症群)。生命を救うため、直ちに処置を必要とする者。
GM
あなたはマリナと再会する。
GM
ストレッチャーに横たえられた、重傷者としてのマリナと。
花見川隆史
目を瞠る。
花見川隆史
そんなまさか。
花見川隆史
まさか、など。惑っている時間は医療現場にはない。
花見川隆史
「マリナちゃん……マリナ!」
GM
意識不明の重傷者に、繰り返し呼びかけることは正しい処置。
花見川隆史
「マリナ、マリナちゃん。マリナちゃん。聞こえる?」
GM
雨に濡れ、血にまみれた姿。かろうじて息はありますが、あなたの声に反応はありません。
花見川隆史
必死に呼びかけながら、必要な処置をする。
花見川隆史
今ここでできる事。
花見川隆史
あまりにも多く、あまりにも少ない。
GM
心電図が示すバイタルが、電子音と共に更新されていく。
GM
値は無慈悲に低下していく。
花見川隆史
「頑張って。僕が助ける。頑張って。もう少し持ち堪えるんだ」
GM
それは命が潰えるカウントダウンのように、容赦なく、甲斐なく、生命が失われていくのを知らしめる。
花見川隆史
時間が足りない。設備が十分に行き渡らない。
花見川隆史
血の匂いはあたりに広がっていて、あなたのものかすらわからない。
GM
大事故で大勢が同時にケガをしたことに加え、新型コロナウイルスの影響下で、どの病院も逼迫している状態にあったことも災いしている。
花見川隆史
わかってしまう。
花見川隆史
このまま行けば死ぬ。
GM
人体は理屈で機能していて、何がどうすれば生きていて、どうなれば壊れてしまうのか。生かすためには何が必要で、そして今何ができるのか。
GM
何ができないのか。
花見川隆史
分かってしまう。
GM
このままでは。
花見川隆史
諦めることはしない。
花見川隆史
「愛してる。マリナちゃん、愛してるよ」
花見川隆史
隣でマリナの名前を呼びかけていた看護師が、驚いて一瞬手を止める。
花見川隆史
お揃いの指輪。安物の婚約指輪。
花見川隆史
どちらの手にも光っている、それ。
GM
どちらも赤く濡れている。
花見川隆史
「愛してるよ。愛してる、マリナちゃん。
戻ってきて。戻ってきて…」
花見川隆史
返事をしてくれないか。
花見川隆史
酢豚とケーキの組み合わせを楽しみにしてるんだ。
GM
かけ続ける言葉に甲斐なく、重ねる処置が功を奏すことはなく。
花見川隆史
味噌汁と中華スープどっちでもいいし。
花見川隆史
どっちでも愛してるのに。
GM
その返事は、心停止を示す電子音。
花見川隆史
心臓マッサージ。
花見川隆史
繰り返すと、
もとより折れていた肋骨がべきべきと
砕けていく。
花見川隆史
汗だくだった。マスクの中も蒸れていた。
花見川隆史
繰り返す。繰り返す。繰り返す。
花見川隆史
繰り返す。繰り返す。繰り返す。
GM
「花見川さん」
GM
呼びかけるのは、共に治療に当たっていた看護師だ。
GM
首を横に振る。
花見川隆史
「はあッ、はあッ、はあッ、はあッ」
花見川隆史
繰り返す。
GM
「花見川さん!!」
GM
まるで時間が一瞬で過ぎ去っていたかのように、もう心停止から、おおいに時間が経っていた。
花見川隆史
「……あ……」
花見川隆史
手を止める。
花見川隆史
真っ赤に染まった自分と、愛する人。
花見川隆史
「……どうして」
花見川隆史
「どうして……」
花見川隆史
うわ言のように呟いた。
GM
あなたにはわかる。
GM
人体は理屈で機能していて、何がどうすれば生きていて、どうなれば壊れてしまうのか。
GM
あなたにはわからない。
GM
人生は不条理にできていて、何故、このような悲劇が降りかかるのか。
GM
――事故現場。
GM
大型トラックが歩道に乗り上げ、商店に突っ込んでいる。
GM
冷たい雨も、夥しい血を洗い流しきることは出来ずに、アスファルトは黒く、黒く、黒く。
GM
その傍らに、一つ。
GM
ぐしゃりと潰れたケーキの箱と、
GM
いつもより高い豚肉や、タマネギ、にんじん――スーパーの袋が落ちている。
GM
誰にも省みられることなく、雨に打たれている。

導入②黒松比折牟

GM
十数年前。
GM
黒松比折牟。あなたはさる研究所にいる。
黒松比折牟
あの頃は、すべてが輝いて見えた。
黒松比折牟
取り組むべき案件はたくさんあって、やくざな勤務時間も気にならなくて、
むしろ自分から泊まり込みをしたりもした。
GM
レオ――あなたのライバルとも言える、同僚の科学者もよく同じように泊まり込みをしていた。
黒松比折牟
負けたくなかった。
黒松比折牟
例えお互い正しく、同じ結論に達するとしても、奴より一刻も早くそれに辿り着きたかった。
黒松比折牟
まったく違う事項に取り組んでいたとしても、自分のほうが優れていると証明し、主張せずにはいられなかった。
GM
最近はワークライフバランスだとかなんとかで、不要不急な泊まり込みは禁止されていたが、二人とも知ったことかと無視を決め込んでいた。
黒松比折牟
実験には時間も金もかかるし、それが夜遅くになることもある。
黒松比折牟
いまから実験を始めたら、朝までには何かが分かるかもしれない──
黒松比折牟
そうなれば、やらない理由はなかった。
GM
レオも勿論そのつもりで、装置のセットアップをしている。
レオ
「あー、やべえ」
黒松比折牟
ちらりと見てからすぐ自分の実験に戻るつもりで、ぴたりと動きが止まる。
レオ
「パンツの替えが切れたわ」
黒松比折牟
なんだそんなことか、とため息をつく。
黒松比折牟
「ランドリーに行ったらどうだ。いい息抜きになるぞ」
黒松比折牟
まあむろん、そのあいだに私が先んじてやるがな、などと笑う。
レオ
「あ~? パンツ洗ってる間にどうこうできると思ってんのか~?」
レオ
笑う。
黒松比折牟
「そう思うならやってみればいい、私は天才だからなあ!」
黒松比折牟
レオの言う通り、どうこうできるとは思っていない。
黒松比折牟
それでこいつが少しでも躊躇うなら愉快だと思った程度のことだ。
レオ
「ははは、どっちが真の天才かすぐに解らせてやるよ」
黒松比折牟
「ふん、言っていろ」
黒松比折牟
鼻で笑って、実験に戻る。
レオ
「ぜってー現象を解明して、レオ・ピオリム理論って名前にしてやるからな」
黒松比折牟
「はあ!? 私の名前が先だろうが! 五十音順的にはそちらが正しい!」
レオ
「先に理論を打ち立てた方が先になるに決まってるだろ!」
黒松比折牟
「それもむろん、私が先にやる!」
黒松比折牟
「ええい、いいから早く行ってこい。洗ってないパンツで私の横で実験をするなど許さんからな」
黒松比折牟
実験の邪魔だとばかりにしっしと手を振る。
レオ
「いいや、こいつを先に仕掛けてからやるぞ!」
レオ
「あと4時間くらいかかるけどな!」
黒松比折牟
「チッ!」
黒松比折牟
これ見よがしに舌打ちしてやる。
レオ
「……この研究の結果次第じゃ、きっと世界が変わるぞ」
黒松比折牟
「そうだな……」
黒松比折牟
「まだ、どうなるかは分からんが」
黒松比折牟
自分とレオがかかわっているから当然──などという自信過剰な言い方は鳴りを潜めて、抑えた声で首肯する。
レオ
「絶対にものにしよう」
黒松比折牟
「……」
黒松比折牟
「ああ」
レオ
「そしてレオ・ピオリム理論でノーベル賞を取る」
黒松比折牟
「ピオリム・レオ理論だ」
レオ
「ははは!」
黒松比折牟
「はは」
レオ
ひとしきり笑った後、
SEMと呼ばれる測定装置
走査電子顕微鏡のこと。電子線を試料に当てて表面を観察する装置であり、元素分析などを行う。
に試料をセットしていく。
黒松比折牟
そうなればもう、あとは集中の時間だ。
黒松比折牟
この男が隣にいることが。
黒松比折牟
同じ視座で話し、時には上回ってくることが、いけ好かず、そして心地よかった。
レオ
研究所は静かだ。黙ってしまえば、機械の駆動する音だけが鳴っていて、それはいっそう沈黙を、集中を際立たせる。
レオ
静かな熱狂があった。呼気に温度があった。
黒松比折牟
すべてが輝いて見えた。
レオ
頭はいつもフル回転していて、ああでもないこうでもないと、理屈やひらめきを弄くり倒している。
黒松比折牟
わずかな糸口から道が拓け、視界が広がった時のあの爽快感と言ったらなかった!
レオ
今自分が世界の最先端にいて、俺たち以外に誰も知らないことを知っている。
黒松比折牟
誇らしかった。
黒松比折牟
自分たちであれば、かつて先人たちが解明してきたその先へ向かえる。
レオ
きっと成し遂げる。その手応えがある。
黒松比折牟
そして、わずかな差であっても、このレオという男に背を見せつけてやるという気持ちが、情熱の炎を燃やしていた。
黒松比折牟
この男は、この勝負は、私にとって何よりも価値のあるものだった。
レオ
ワークライフバランスなど知ったことか。このワークがライフだった。生活で、人生だ。
黒松比折牟
眠ることや食うことすら煩わしくなるほどに。
レオ
俺たちはまさしく、没頭していた。
GM
――数時間後。
GM
レオの装置から、測定終了を報せる電子音が鳴り響いている。
黒松比折牟
一瞬ハッとしたような顔をしてから、レオのほうへ視線を向ける。
GM
いない。
黒松比折牟
「……?」
GM
席についてないし、寝袋も空になっている。
GM
食べかけのカップ麺には割り箸が刺さっている。
黒松比折牟
トイレ、ランドリー、空腹に耐えかねて買い物?
黒松比折牟
ぼんやりと可能性を考えるが、どれも違和感がある。
黒松比折牟
測定を放りだして、離席など。
GM
その違和感は的中する。
GM
ランドリーに向かえば、乾燥機に掛けられたままの下着が残されている。
GM
書きかけのレポートは、セーブされずに開きっぱなしだった。
GM
そもそも、退所した時間は自動的に記録されるはずだが、それも残ってはいなかった。
GM
記録上はまだ研究所にいるはずだが、その姿はない。
黒松比折牟
忽然と──という言葉があまりにもしっくりくる。
黒松比折牟
失踪ではなくて、消滅したのではないか、と思えるほどに。
GM
研究所は静かだった。
GM
話し相手がいなければ、黙る他ない。機械の駆動する音だけが鳴っていて、いっそうその沈黙を際立たせる。
黒松比折牟
静かななかにあった熱狂も、呼気にこもっていた熱も。
黒松比折牟
何もかもが消え失せている。
黒松比折牟
静かである以上に、ひどく冷えていた。
GM
あなたが今一人でいることを際立たせる。
黒松比折牟
私は──
黒松比折牟
私はそうして、人生で一番価値のあるものを失ったのだ。
GM
研究所の壁は白く平坦で、蛍光灯の青白い光を照り返している。
GM
白々しい光の中で、あなたは暗黒にいる。

導入③クヌート・ペルレ

GM
数日前。
GM
クヌート・ペルレ。あなたは某国のキャンプにいる。
クヌート・ペルレ
風が何処かから、消し切ることのできない硝煙のにおいをつれてくる。
GM
不安定な情勢。長く紛争を繰り返しており、この国に平穏というものは久しく訪れていない。
GM
だからこそ、二人はここにいる。
GM
それが傭兵という職業だからだ。
クヌート・ペルレ
終わることのない、局所的な勝ちと負け。
クヌート・ペルレ
今日の勝利が、すべての決着にはあまりにも遠い遠いひとつでしかないことを知りながら。
クヌート・ペルレ
装備をバラし、手入れするひととき。
シオン
シオンもまた、同様に装備を手入れしている。
シオン
初めは見よう見まねだったが、もうすっかり板についている。
シオン
磨かれ、黒光りするパーツが硬い音を立てながら組み立てられていく。
シオン
カチリ、というラッチ音を一つ一つ確かめ、スライドの手触りを繰り返し試して。
シオン
わずかな万が一が死に繋がるというのを、よく知っている。
クヌート・ペルレ
それを教えてきた。言葉にして、あるいは血を流すその経験に。
シオン
「正義って、なんだと思いますかね」
クヌート・ペルレ
「……どうした、急に」
シオン
「戦場で飛び交う銃弾って、どれも同じじゃないですか」
シオン
「拳銃なら9ミリ、ライフルなら556。45ACP……」
シオン
「種類はあれど、どれも規格品で、そこに特別な違いはないじゃないですか」
クヌート・ペルレ
黙って耳を傾けている。
シオン
「死ぬかもしれない、死んだら終わりだってわかりながら、銃を握ってそんな弾を撒き散らしに行く」
シオン
「そりゃ、もう逃げ場のないって奴は当然銃を持ちますよ」
シオン
「でも、何かを信じて戦場にわざわざ行くって奴もいる」
クヌート・ペルレ
「……そうだな」
シオン
「何かを信じているから、紛争をするんですかね」
シオン
「正義があるから、紛争を?」
クヌート・ペルレ
「正義を信じていれば銃を取っていい、ということはない、……必ずしも」
クヌート・ペルレ
「何を旗に掲げようと、そこにできるのは、大概は人死にの山だ」
クヌート・ペルレ
「それってのは、お偉い『正義』とやらに適うものかね」
シオン
「適う、と思うから、銃をとるんじゃないですか」
シオン
「より多くの人を助けるために、それよりは幾分少ない人を殺す」
シオン
「そんな『算数』だって、ある種の正義でしょう」
クヌート・ペルレ
手元から目を上げて、シオンを見る。
クヌート・ペルレ
「そんな算数を正義と呼びたいのならな」
シオン
「じゃあ、逆に。誰かを大切に思ったり、子供を育てたり、弱い人を生かしたり……」
シオン
「それは正義と呼んでも?」
クヌート・ペルレ
「それを、正義と呼びたいのなら」 繰り返す。
シオン
「あんたが戦争孤児だった僕を育てたことは……」
シオン
「ひどい栄養失調で、目も見えなくなってるくらいの僕に、飯を恵んでくれたのは……」
シオン
「僕は感謝している」
シオン
「あんたは、どうしてそうしたんだろう」
クヌート・ペルレ
「…………、」
クヌート・ペルレ
「……責任、だろうかな……」 わずかに目を逸らして。
クヌート・ペルレ
拾ったのも、育てたのも。
クヌート・ペルレ
その仔細を一から順に詳らかにしてやれば、シオンは納得するのだろうか。
クヌート・ペルレ
「お前には……本当は、もっと違う人生を用意してやれたのかもしれないが」
クヌート・ペルレ
「……銃を取らない生き方を」
クヌート・ペルレ
「させてやることが、……まあ、できただろう。おそらくは」
シオン
「それでも、きっと僕は傭兵になった気がするよ」
シオン
「だったら、あんたがセンセイでよかったですよ」
シオン
「撃つも撃たないも、どっちの方が、よりマシなのか。判断しながら人は生きている」
シオン
「ちょっとでも、マシだと思うようにやるしかない。自分なりに……」
シオン
「そういうことを、僕はあんたから学んだと思っています」
クヌート・ペルレ
「……そうか。…………、」
クヌート・ペルレ
言い淀んで、それから、ふと息をつく。
クヌート・ペルレ
「……おれに、後悔させるなよ。……お前に、銃を取らせたことを」
シオン
「努力します」
シオン
「……数日、いや……数週間になるかな……」
シオン
「ちょっと、空けます。友達に会いに行くので」
クヌート・ペルレ
「……ああ。わかった」
クヌート・ペルレ
「気をつけろよ」
クヌート・ペルレ
通り一遍の言葉。けれどそこに、どこか、親の言うそれのような色。
シオン
「ははは、大丈夫ですよ。ここほど危なくはないですから」
クヌート・ペルレ
じ、と見つめる。
クヌート・ペルレ
いつも同じ、あなたを見る目。
クヌート・ペルレ
信頼と、気掛かりとが綯い交ぜになって、その奥にかすかな情が滲むまなざし。
シオン
それを笑顔で受け止める。
シオン
その明るい表情を取り戻したのは、まさしくあなたの手によるもの。
シオン
芯のある視線もまた、あなたとの日々によって培われたしたたかさだ。
シオン
――数日後。
GM
シオンの向かった村が紛争に巻き込まれたことを、あなたはニュースで知ります。
GM
傭兵をしているあなたにとって、多少の惨事は、人よりは慣れている。
GM
そんな経験をもってしても、その村で起きたことは、惨いの一言に尽きるでしょう。
GM
村は焼き尽くされ、住民は虐殺に遭い、一人として生存者は確認されていないとのこと。
クヌート・ペルレ
長い従軍経験の中でも、滅多に見聞きすることのない惨状。
クヌート・ペルレ
村ひとつ、生存者なし。
クヌート・ペルレ
その中で。
クヌート・ペルレ
きり、と歯噛みする。
クヌート・ペルレ
……止めればよかったのだろうか、……いや。
クヌート・ペルレ
ずっと手元に置いておかなければならないほど、子供ではなかった。もう。
クヌート・ペルレ
だが一方で。
クヌート・ペルレ
いつまでも、子供だった。おれにとっては。
クヌート・ペルレ
「…………」
クヌート・ペルレ
戦友を失ったことはいくらでもある。
クヌート・ペルレ
どれだけ親しくとも、弾丸一発はそれを頓着してくれない。
クヌート・ペルレ
どれだけ、どんなことを、思っていても。
クヌート・ペルレ
関係ない。
GM
どの銃弾も等しく銃弾であり、それ以上もそれ以下もなく。
GM
のちにあなたは、シオンは最後まで立ち向かって戦死したことを知ります。
GM
それでも、シオンは死にました。
GM
あるいはシオンとの関係、交流、日常のなかに、わずかにでも悦びさえ抱かなければ。
GM
数ある無数の死の一つとして、忘れ去ることができたでしょうか。

導入④***

GM
現在。
GM
花見川隆史。あなたは一人きりの誕生日を迎えている。
花見川隆史
帰路を自転車で走っている。
花見川隆史
この多忙で2日ほど洗っていない頭が、ヘルメットでムレて痒い。
GM
あなたを祝う人もなく、待つものもなく。
花見川隆史
マリナがふざけて登録したカレンダーの通知で、今日がその日だと気付く。
GM
一括の機能で、300年分登録されている。
花見川隆史
自転車を降り、通知を確認し、そのままとぼとぼと歩いた。
花見川隆史
不貞腐れている。ずっと。
花見川隆史
自分が不幸のただなかにいるような顔をして生きている。ずっと。
花見川隆史
あれから。
花見川隆史
「うう…」
花見川隆史
「グスッ……グスッ……」
花見川隆史
「なんで死んじゃったんだよぉ……マリナちゃあん……!」
GM
あなたはマリナを人生の中心に置いた。彼女がいなくなってからも、それを埋め切ることはできずにいる。
GM
まるでドーナツのように、マリナとの生活の周辺にあったものだけで、今の暮らしは出来ている。
花見川隆史
「こんなのおかしいだろーー!!」
花見川隆史
「今年も酢豚とケーキ食べたかったんだよーー!! こんなのって無いよーー!!」
花見川隆史
夜道に成人男性の叫びが響き渡る。
GM
現在。
GM
黒松比折牟。あなたは研究所にいる。
GM
あれから、レオが戻ることはなかった。
黒松比折牟
測定装置に、試料をセットする。慣れた手つきで、どこか上の空に。
黒松比折牟
ミスをすることはない。そんなへまをするような自分ではない。
黒松比折牟
そう自分に言い聞かせることで、何かを保とうとしていたが、いつもどこか空虚だった。
黒松比折牟
自分という人間が探求よりも、レオという男一人を重視しているように思えて羞じていた。
GM
エレガントな、天才的な、跳躍的な、奇跡的な。そんな閃きがなくても、何を調べて何を考えるべきで、そして答えを導くことはできる。
黒松比折牟
可能であることと、そこに手ごたえを覚えることは全く別であった。
黒松比折牟
それを──思い知らされていた。正確には、思い出していた。
黒松比折牟
自分はなんと、あの男に出会うまで、ずっと空っぽであったのだ。
黒松比折牟
そんな風にすら思うほどだった。プライドも、羞も見栄も、いくら己を𠮟咤しようと、情熱はどこからも戻ってこなかった。
GM
あなたの内心とは裏腹に、あなたの研究を受けて、あなたを天才と呼ぶひとは沢山いる。あなたの論文はいくらでも引用された。
黒松比折牟
当然だ。
黒松比折牟
自分は天才だった。
黒松比折牟
だが、天才である必要が、理由が、ない。
黒松比折牟
ただ一言さえ残していってくれれば、あるいは何か違ったのかもしれない。
黒松比折牟
そうなっていない以上は、無意味な想定だった。
GM
ありえなかったことを思っても意味はない。
GM
しかし同時に、天才である意味もなかった。
GM
すべてがあって、すべてがなかった。
黒松比折牟
自分はいったい、ここでなにをしているのか。
黒松比折牟
答えの明らかな問いを己に投げかけながら、装置をねめつける。
黒松比折牟
結果が出るまではまだしばらく待たねばならなかった。
GM
あなたはふと気付く。
GM
換えの下着を切らしている。
黒松比折牟
「…………これはやばいな」
黒松比折牟
そんな声を漏らしたところで、答えるものはいない。
GM
独り言はいっそう沈黙を際立たせる。
GM
研究所の壁はやはり白々しく、あなたは暗黒にいる。
GM
現在。
GM
クヌート・ペルレ。あなたはまだキャンプにいる。
クヌート・ペルレ
当然だ。契約に穴はあけられない。
GM
惨事のニュースはまだ生々しく、情勢に大きく影響を与えている。
GM
辺りは緊張した空気で満ちており、予断は許されない状況だった。
クヌート・ペルレ
バラした装備を手入れする。あの日と同じように。
クヌート・ペルレ
まだシオンがいた日と同じく。あるいはシオンを拾うよりも、ずっと前の日と同じく。
GM
それでも、同じ日は二度と来ないことを知っている。
クヌート・ペルレ
同じように日が過ぎても。
クヌート・ペルレ
型の同じ銃弾が、撃ち出されればもはや同じものとしては戻らないように。
GM
取り返しのつくものなど何一つないことを、誰よりも知るのが傭兵という職業。
GM
硝煙の臭いを含む風が吹く。
GM
遠くに銃声。炸薬の爆ぜる音。
GM
誰かが死んだり、生き残ったり。
GM
とりかえしのつかないことだけが、今日も起きている。
GM
ふと、突然。
GM
あなたは、あなたたちは。
GM
花見川隆史、黒松比折牟、クヌート・ペルレの3人は。
GM
奇妙な空間にいることに気付きます。
GM
周囲はプラネタリウムのような満天の星空。
黒松比折牟
「…………あ?」
クヌート・ペルレ
「……なんだ……?」
黒松比折牟
間の抜けた声を漏らし、慌てて周囲を見回す。
黒松比折牟
「は!?」
花見川隆史
「な……なんだ!? 君たちは!?」
GM
見知らぬ2人の人物がいる。
GM
自転車の男と、白衣の男と、武装をした男。
クヌート・ペルレ
フル装備に銃火器を担いでいる。
黒松比折牟
私がいちばんまともな恰好ではないか!? いや、それはともかく……
花見川隆史
「僕はとうとう頭がおかしくなってしまったのかな……」
花見川隆史
インフルエンザの時見る夢みたいだ……
花見川隆史
チリンチリンと自転車のベルを鳴らす。確かな手応え。
花見川隆史
チリンチリーン。
花見川隆史
「夢じゃない……!?」
クヌート・ペルレ
ゴーグルの奥から、視線が花見川を見る。
黒松比折牟
「そんな確かめ方があるか! せめて自分に痛みのある方法でやれ!」
花見川隆史
いつでも心因性の胸痛があるから……
黒松比折牟
お大事に。
クヌート・ペルレ
次いで、黒松を。
黒松比折牟
思わず、相手が銃を構えてもいないのに両腕を上げる。
GM
足元はゆっくりと回転する巨大な藍色の歯車で、動けばかすかにぐらりと傾く。
花見川隆史
「ウワーーッ! なんなんだこれ? そうだわかったぞ! 武装した人と白衣の人どちらかが黒幕なんだな!? マリナちゃん!」
黒松比折牟
誰?
クヌート・ペルレ
あー、と、何語ともつかない声を上げたあと、
クヌート・ペルレ
話される言葉に、
クヌート・ペルレ
「アー……Japaneseか」
クヌート・ペルレ
日本語を選んだ。
黒松比折牟
「……む」
黒松比折牟
「お前たち……」
花見川隆史
「……そうだ。僕は花見川隆史」
花見川隆史
咳払いをして冷静になろうと努力します。
黒松比折牟
問いを投げかける前に名乗られて、言葉が止まる。目が泳ぐ。
黒松比折牟
「黒松比折牟だ」
クヌート・ペルレ
「……クヌート・ペルレ」
黒松比折牟
「お前たち、もしや……気が付いたら前触れもなくここにいたか?」
黒松比折牟
問う声はどこか上擦っている。
花見川隆史
「そう。相棒の自転車と帰り道の途中だった」
花見川隆史
ヘルメットを外す。蒸れるため。
クヌート・ペルレ
肩を竦める。
クヌート・ペルレ
動揺しているかどうかは、装備に隠れて伺えない。
黒松比折牟
「そうか……」
黒松比折牟
「そうか、そうか! なるほど!」
黒松比折牟
「ははは、はははははは!」
花見川隆史
うわっ!
花見川隆史
こ、怖い!
GM
何かに納得する人だ。
黒松比折牟
何かに納得して大笑いしています。
クヌート・ペルレ
こいつなんなんだ?
花見川隆史
「こいつが黒幕だよ! マリナちゃん!」
黒松比折牟
「誰だマリナちゃんとは! 自転車の名前か!?」
花見川隆史
「違うよぉ! マリナちゃんは僕の婚約者! マイスイートハニーだよ!」
花見川隆史
婚約指輪を見せつける。
GM
このままだとクヌートさんにJapaneseというものを誤解されてしまう。
黒松比折牟
「まあいい! 私は気分がいい! ここがどこかは分からんが帰りたいなら調査が必要だろう協力しろ! 私は天才だから何とかなる!」
黒松比折牟
めちゃくちゃ早口で言って意気揚々としている。
花見川隆史
怖い怖い怖い~。
花見川隆史
まさかこの期に及んで僕よりおかしい人と遭遇するとは思わなかったなマリナちゃん。
黒松比折牟
私はいたってまともで冷静で天才だ!
クヌート・ペルレ
早口に捲し立てられる言葉に若干聞き取りに難がある中、
クヌート・ペルレ
「……戻らなければならんのは、そうだが」
黒松比折牟
「そうだろう、そうだろう。我々は同じ穴の貉だ」
クヌート・ペルレ
「……アー……ムジナ?」
花見川隆史
「協力しましょうって事を言いたいんだね」
黒松比折牟
「そういうことだ。ちなみにムジナは……タヌキやアナグマなどを指す日本語だ」
花見川隆史
「小難しく協力しようって言ってるだけだよ」
クヌート・ペルレ
「なるほど」
黒松比折牟
「協力しない理由はあるまい? ここがどこかも分からんのだから」
花見川隆史
「そう……だけど……」
花見川隆史
チリーン…
クヌート・ペルレ
「まあいいだろう」
花見川隆史
「積極的に家に帰る理由はないかな。
 マリナちゃんがもういない世界で生きていける気がしないし」
クヌート・ペルレ
二人とも、どう見ても自分よりも荒事向きではない。
花見川隆史
「君たちが帰りたいなら協力はするけど……僕は黒松さん程モチベーションはないよ」
花見川隆史
怪奇現象。最初は面食らったけど、ちょうどいいかもしれない。
黒松比折牟
死んでるんだな…マイスウィートハニー…という情報を今ようやく得た。
GM
この人なんで
人より正気度高い
装備アビリティの【大胆】で正気度の最大値が1点増えている。
のかわからなくなってきたな。
GM
大胆ではある。
花見川隆史
大胆ではある。
黒松比折牟
大胆ではあるな。
クヌート・ペルレ
大胆ではある。
GM
では、三人ともお友達になったところでですね……。
クヌート・ペルレ
お友達?
黒松比折牟
友達…?
GM
頭上からギシギシという音が聞こえてきて、何かがゆっくりと降下してくる。
GM
それは、幾つもの大きな歯車を組み合わせたオブジェのような物体。
黒松比折牟
むっ!?
花見川隆史
な、なんだーっ!?
クヌート・ペルレ
反射的にサイドアームを抜いた。
花見川隆史
これが見たことのない種類のトラックだったら許せないかもしれない。
黒松比折牟
仕掛け時計の時報か?
GM
色とりどりの歯車は、それぞれ異なった材質をしているようです。
GM
しかし、軋んだ音を立てるばかりで、どれ一つとして動いてはいません。
花見川隆史
トラックか……!?
黒松比折牟
「……なんだ?」
花見川隆史
車輪があってデカい音を立てている!
クヌート・ペルレ
「ギア……?」
GM
回るものは、あなた方が足元にしている、巨大な藍色の歯車のみ。
黒松比折牟
「止まっているようだな。……単なる飾りか?」
花見川隆史
「これ急にこっちに向かって超スピードで激突したりしないよね?」
GM
ふと、あなたがたは最も高いところに位置する青色の歯車に、少女が腰掛けているのに気付きます。
黒松比折牟
「するなら激突ではなく回転ではないか……?」
黒松比折牟
はっ……
花見川隆史
「ハァッハァッ……おや?」
花見川隆史
あそこにいるのは……
調停者
そう、私です!
花見川隆史
そういうキャラなんだ。
調停者
「わ~~!!!! じゃじゃじゃーん、おめでとうございます~~!!!」
花見川隆史
そういうキャラなんだ!?
黒松比折牟
そういうキャラなんだ。
クヌート・ペルレ
おもてたんと違う。
花見川隆史
チ、チリーン!?(驚きのチリン)
黒松比折牟
「おめでとうございます……?」
花見川隆史
「お知り合いですか?」
黒松比折牟
「いや、まったく……」
調停者
少女が大げさに拍手すると、ひらひらと沢山の色紙がわーっっと降り注ぎます。
クヌート・ペルレ
うわっ。
花見川隆史
すげえすげえすげえ!
花見川隆史
あーっ!自転車のカゴに!
黒松比折牟
白衣が色とりどりになってしまう。
花見川隆史
あ~~~っ!! 大量に! 網目に! 挟まり! あ~~っ!!
黒松比折牟
あとで払え。あとで。
調停者
「なんと、なんとなんと、みなさん選ばれたのです!!」
クヌート・ペルレ
「は?」
黒松比折牟
「……」
花見川隆史
「選ばれ……? 僕たちがですか?」
調停者
「すごい、超お得!! 今ならみなさんお三方だけ!!! なんと、過去を変えることができちゃいます!!!!」
調停者
「ほら、拍手~~~~!!!」
調停者
拍手をすると、また色紙が降り注ぐ。
クヌート・ペルレ
凄まじく胡乱なものを見る目。
花見川隆史
「えーーーっ!! 嘘じゃないんですか!?!? やりますやりますやります!!」
花見川隆史
手が痛くなる程拍手をする。
黒松比折牟
めちゃくちゃ拍手してるなあいつ。
花見川隆史
チリンチリン♪ チリンチリン♪
調停者
「おっ! お兄さんいいぞ~~!」
花見川隆史
「やるしかないだろこんなの!!」
花見川隆史
「よくわかんないけどもうやります! やるやる! やる!!」
調停者
「この世界では! 『失われた可能性を取り戻す』ことが出来ちゃうんですね~~~!! これってすっごいことなんですよ!」
花見川隆史
「はぁはぁ……興奮してきて心臓が……」
黒松比折牟
お大事に。
クヌート・ペルレ
落ち着け。
花見川隆史
スーハースーハー……
調停者
「覆水盆に返らずって言うじゃないですか。あれ、実は嘘なんですよ! この世界では!」
花見川隆史
スハッ……スハッ……スッスッ……
調停者
「覆水盆に返りまくりキャンペーン!」
黒松比折牟
どこかにドッキリのカメラがあるのではと探したくなるが……
クヌート・ペルレ
「クロマツ。あれは何を言ってるんだ」
クヌート・ペルレ
格言のたぐいは知らない。
黒松比折牟
「取り返しのつかないはずのことを取り返せると言っている」
花見川隆史
「じゃあマリナちゃんを蘇生してこの世のトラックというトラックを粉砕する事も可能なんだね!?」
黒松比折牟
「過去の改変ができるというわけだ。つまりこの怪奇自転車男は死んだ婚約者を蘇らせられると大興奮している……このように」
調停者
「そうで~す!! 粉砕粉砕!」
クヌート・ペルレ
少女と花見川の間を視線が往復する。
花見川隆史
「絶対信じられないけど信じるしかない~~~絶対信じられないけど信じるしかないよ~~~!! 怪しげな壺とか買いまくるよ~~!! エ~~ン!!!」
花見川隆史
泣いています。
クヌート・ペルレ
若干引いています。
黒松比折牟
感情の迸りがすごい。
花見川隆史
涙に色紙がベチョベチョつきます。
黒松比折牟
濡れるとそうなるよな。
黒松比折牟
「……おい、女」
調停者
「はーい!」
黒松比折牟
「特別に我々三人と言っていたが、この世界ではそのような催しを何度もしているのか」
黒松比折牟
別に、自分が気づいたらここにいたから、レオも同じようにここに、と安易に結び付けているわけではない。
黒松比折牟
ただ、人間が急に消える現象が起こりうる、という事実を確認したのは大事なことだ。そして、レオがここに以前に来た可能性を否定するものではない。
調停者
「そ、れ、は~」
黒松比折牟
「それは」
調停者
「それは、本ゲームを進めていけば、もしかしたらわかるかもしれませんね~」
黒松比折牟
「……ゲームだと?」
花見川隆史
「やっぱり詐欺じゃないか~~~!!!」
花見川隆史
「やるけど~~~!!!」
調停者
「遅ればせながら、女こと、調停者と申しまーす」
花見川隆史
名前すっげ!
花見川隆史
超かっけえ!
黒松比折牟
純真な感想。
クヌート・ペルレ
「調停。……何の?」
調停者
「世界のです!」
黒松比折牟
「大きく出たな」
黒松比折牟
いや、延々と大きく出ているが……
調停者
「とにかく、皆さんが『失われた可能性を取り戻す』お手伝いをさせてもらいますよ~」
調停者
「それに、詐欺とかなんだとか、私を疑っているみたいですけどお~」
花見川隆史
やべえ!
花見川隆史
靴舐めようかな。今から。
調停者
「このわけわかんないすっごい世界を見て、それでも疑うんですか?」
黒松比折牟
外を見る。
黒松比折牟
満天の星空に、足元の巨大な歯車。
花見川隆史
「人間、25歳を過ぎると純真さは失われていくから簡単にものは信じられないんだけど世界はたしかにすっごいね」
調停者
「なんか、スペシャルで、すっごい、なんか非現実的で、とんでもないことが起きてるぞ~~感をね」
調停者
「そういう感じの感を出すために、わざわざこういう世界をね、提供させてもらってるわけですよ」
黒松比折牟
避けがたい必要があってこのような見た目であるわけではないのか……
花見川隆史
「どっ、どうしましょうか……黒松さん、クヌートさん」
花見川隆史
「詐欺じゃないと思いますか? 詐欺だとしても僕はこの話、乗りますが……」
花見川隆史
どうしましょうもない。
クヌート・ペルレ
「……幻覚だとして、私の幻覚に日本人二人と奇抜な女が出てくる余地はない気がするが……」
調停者
だってたかだか人間が作った歯車なんてもので実際の世界が動いてたりしたらおかしいじゃないですか?
調停者
思い上がるな人類!
花見川隆史
は、はい……
黒松比折牟
「たとえばだ」
黒松比折牟
「この世界は単なるセットで」
黒松比折牟
「我々は急にここに来たように錯覚しているが、単に薬品で眠らされ記憶が曖昧になっているだけで」
黒松比折牟
「この女は詐欺師と仮定してもいいが……」
クヌート・ペルレ
星空を仰ぐ。
黒松比折牟
「だとしたら、その目的は?」
黒松比折牟
信じたい気持ちがあるからこそ、疑ってみせている、と感じる。
調停者
「ふふふ、当然、疑問はたくさんあると思います!」
調停者
「まあまあまあ、みなさんにやりやすくね、ゲーム仕立てにしたんですよ」
調停者
「だから、まずはここにある、歯車を調べてもらえば、わっかるかな~」
調停者
そんな感じで、メインフェイズに入っていきますよ。
黒松比折牟
「機械仕掛けの世界からの脱出」といった感じだ。