エンディングフェイズ

調停者
そこは、異空間に向かう前の日常。
調停者
残るのは、夢とは思えぬ鮮明な記憶。
調停者
運命を変えることのできたものたちの身には、あのような事件は起こらない。因果は変わったのです。
調停者
一方、シオンはその存在を跡形もなく消しました。
調停者
いなくなったことを、クヌートだけが知っている。
調停者
あるいは、遠い国の、別の時代の、出会ったこともない人たちが。

ED①花見川隆史

マリナ
「誕生日、おめでと~!!」
マリナ
ホールケーキを囲んで、クラッカーを鳴らすマリナ。
マリナ
本当なら、もう死んでいたはずのマリナだ。
花見川隆史
「うわ……っ、こんな毎年派手にやらなくたっていいのに」
マリナ
「でもうれしそうじゃん~!」
マリナ
「……あれ、嬉しくない?」
花見川隆史
「嬉しい」
花見川隆史
抱き締める。
マリナ
「ちょ、うわっ、急!」
マリナ
「急だよ~愛情表現が!」
花見川隆史
「正直さ」
花見川隆史
「こうなってしまうと、他人とかどうでもよくなっちゃうんだ」
花見川隆史
「正義とか……」
花見川隆史
「嫌われないように、嫌われないように、うまくやってたんだ」
花見川隆史
よくわからない事を言い出す。
マリナ
「うん」
花見川隆史
「そういう事にしたいんだ」
花見川隆史
「してもいいかな……」
花見川隆史
「僕はずるいやつだよ……」
マリナ
「許す!!」
花見川隆史
「マリナ、愛してる」
マリナ
「私が許すよ、全部」
花見川隆史
「愛してる……」
花見川隆史
嗚咽する。
花見川隆史
暖かい。柔らかい。呼吸して、心臓が動いていて。
マリナ
「うれしい」
花見川隆史
子供はこれから三人作る。
マリナ
どんなに辛かったとしても、ここに大切な人がこうして目の前にいて、生きている。
マリナ
それ以上のことはない。
花見川隆史
僕はシオンがいなくなったのを、黒松さんが僕の未来を壊さないでいてくれたのを、
花見川隆史
クヌートさんに生半可な事を言って傷つけたのを、調停者さんに手が届かなかったのを、
花見川隆史
この結末を勝ち取るために行ったことだという事にした。
花見川隆史
しあわせだ。
花見川隆史
しあわせが続いていく。

ED②黒松比折牟

レオ
「うわーーーー!!!」
レオ
隣の実験室から、レオの大声が聞こえてくる。
黒松比折牟
少しのあいだ、呆けていた。
黒松比折牟
なぜレオの声が聞こえるのか、頭の中にあるこの記憶は何か。
黒松比折牟
「なんだ、どうした!」
黒松比折牟
結びつく前に、声を上げる。
レオ
「カップ麺をこぼした」
レオ
白衣が汁まみれになっている。
黒松比折牟
「なんだ……」
レオ
明らかに、測定結果とにらみ合いながら食べていたせいだ。
黒松比折牟
安堵のため息をつく。…安堵のため息を。
黒松比折牟
「変なところにこぼしていないだろうな?」
レオ
「困ったことになった」
レオ
「このせいで……また下着の換えがなくなった」
レオ
「そもそもストックがなさすぎるのが問題なんだよな!」
レオ
笑う。
黒松比折牟
「まったくだ。下着ぐらい、通販でいくらでも買えばいいだろう」
黒松比折牟
「……」
黒松比折牟
そこではたと気づく。そういえば、自分も確か、いま履いている下着が最後だ。
レオ
「ダースで買おう、ダースで」
黒松比折牟
「買うとして……いったん休憩に行くか」
レオ
「おう」
黒松比折牟
「スープ臭い人間の横で実験はしたくない。
 ランドリーに行くなら付き合ってやらんこともないぞ」
レオ
「そうだな!! 太ももがかゆくなってきた」
レオ
スープの塩っ気でな!
黒松比折牟
「ついでにシャワーも浴びろ」
黒松比折牟
なんということのない会話。
黒松比折牟
十数年来の再会などというものはない。
黒松比折牟
昨日も一昨日も、自分たちはともにいた。
レオ
「所長に禁止されるかもなーあそこで食うの」
レオ
いや、まあ、そもそも禁止されてるのだが……。
黒松比折牟
「また赤字でメールが回ってくるかもな」
レオ
「めんどくせ~。あとでちゃんとバレないようにしておかないとな」
レオ
それをいえば寝袋の持ち込みだって近年の情勢からすると許容されていないはず。
黒松比折牟
そんなことは素知らぬ顔で、我々はこんな年齢になってもこんな時間になるまで泊まり込みをしている。
黒松比折牟
「掃除は手伝わんからな。モップからスープがにおわないようにしておけよ」
レオ
「次亜塩素酸の力を信じている」
黒松比折牟
天才である理由がなかった。生きている理由もなかった。
黒松比折牟
人生を送る意味がなかった。
黒松比折牟
すべてが、手元に戻ってきている。
黒松比折牟
そうして何事もなかったかのように、日々が続いていくのだ。
黒松比折牟
──自分が消すことを選んだ人間と、それを大切に思っていた人間を置き去りにして。
黒松比折牟
「……」
レオ
何も知らない。知るよしもない。起きなかった未来を知ることはない。
レオ
もし夢で見たとして、それをありえた未来だとどうして信じられよう。
レオ
UFOに連れ去られるなど。
黒松比折牟
何も知らないでいてくれることを憎らしく思うし、安堵もする。
黒松比折牟
この男にすべてを知られ、どんな反応をされても。
黒松比折牟
そう考えると、冷たい暗黒がひやりと背に忍び寄る思いがするからだ。
黒松比折牟
「で、結果はどうだったんだ」
レオ
「仮説通りの結果が取れた。上出来だな。今回の調整で当面はやっていこうと思う」
黒松比折牟
「なかなか順調だな……なら……」
黒松比折牟
そうして話も思考も、休憩を終えた後に再開する仕事のことに飛んでいく。
黒松比折牟
拭えない後ろめたさだけが対価で。
黒松比折牟
少なすぎると思っても、それ以上のものを支払うことはできないのだった。
黒松比折牟
ただ、取り戻した日常を享受していく。
レオ
それ以上のことはない。
黒松比折牟
それ以上のことはない。

ED③クヌート・ペルレ

GM
キャンプに乾いた風が吹く。外に止められたTOYOTAのピックアップトラックに砂が当たり、からから、ぱらぱら、と音を立てる。
GM
シオンの姿はない。
クヌート・ペルレ
いなくとも、戦場は変わらない。
クヌート・ペルレ
銃の手入れの方法も。行き交うトラックのエンジン音も。
クヌート・ペルレ
流される血も、勝ちも負けも。
GM
ただ、シオンはいない。
GM
いようがいまいが変わらないのなら、いるもいないも同じなのだろうか。
クヌート・ペルレ
あのガキを拾ったことも、過ごした時間も、もうおれの中にしかない。
クヌート・ペルレ
戦線に、シオンのぶんの穴が空くこともない。
クヌート・ペルレ
戦友を失ったことはいくらでもある。
クヌート・ペルレ
どれだけ、どんなことを思っていても、関係ない。
クヌート・ペルレ
だが。
GM
助けた現地民が、翌日になって風に攫われるがごとく殺されることもある。
GM
そうなるとわかっていたなら、助けたことは無駄だっただろうか。
クヌート・ペルレ
いいや。
クヌート・ペルレ
そうではない。
クヌート・ペルレ
そうではないと、信じなければならない。
クヌート・ペルレ
信じなければ、戦えない。
クヌート・ペルレ
戦場に22年。
クヌート・ペルレ
まだ生きているのは、まだ続けているのは、
クヌート・ペルレ
どうしてか。どうしてか。
クヌート・ペルレ
責任、と。あの日言ったことを思い出した。
クヌート・ペルレ
拾って。育てて。……おれが、銃を持たせた。
GM
傭兵でなければ、そもそも死ぬこともなければ、テロリズムに傾倒することもなかったかもしれない。
GM
しかしあらゆる仮定は、仮定にすぎない。
GM
あなたはそうした。
クヌート・ペルレ
そう。それを、覚えている。
GM
それ以上のことはなく、それ以下のことはなく。
クヌート・ペルレ
ただ、覚えている。
GM
マルチジャンル・ホラーTRPGインセイン
GM
『機械仕掛けの未来へ』
GM
《エンディング:B》
GM
おつかれさまでした。
クヌート・ペルレ
おつかれさまでした!
黒松比折牟
お疲れさまでした。
花見川隆史
お疲れ様でした。
花見川隆史
え~ん。
GM
みんなルート確定して、しみったれた感じになってからのエンジンの入り方のほうが普段の味ってかんじでしたね!!!
花見川隆史
まあそれはそう。
クヌート・ペルレ
そうね。
黒松比折牟
しみったれたほうがロールが手馴れている人間たち。
花見川隆史
手慣れているぜ!
クヌート・ペルレ
馴染む~。
GM
このメンバー、多分ベストエンドになるよりこっちのほうが実力出るよ。
黒松比折牟
エーン。でもそうかもしれない。
GM
いろんなエンディングあるんですよこれ。
花見川隆史
見たい。
クヌート・ペルレ
何種類くらい?
GM
5個ですね。
クヌート・ペルレ
結構あるな。
《エンディング:D》
「捩れた棒状の歯車」を破壊した場合のエンディングです。
 すべての歯車が支えを失ったようにバラバラと落下し、藍色の歯車の上に転がります。調停者はその様子を興味深げに眺めていますが……「煌めく青い歯車」が藍色の歯車を突き破った。
瞬間、口から一音を発して固まります。藍色の歯車は砕け散り、PCたちは虚空へと落下し̶̶気がつくと、どこか見覚えのある場所に横たわっています。周囲を見れば、若返ったPCたち(年齢設定によっては幼い子供であるかもしれません)と、人間の赤ん坊ほどの大きさになった調停者がいます。それは調停者にとっても予想外の事態であるらしく、激しい困惑と焦りが見て取れます。どうやら、そこは十数年以上前の世界。三人のPCが、過去、偶然にも交錯したある日のある日時にまで落とされてしまったようです。
 今はまだ、あらゆる事件の始まる前。PCたちは異空間で得た知識を武器に、管理者権限を失ってただのマスコットとなった調停者を引き連れ、待ち受ける運命を変えるべく奮闘することになります。
花見川隆史
かわいすぎる。
GM
おれたちの未来改変はこれからだエンド。
花見川隆史
これになりたい(ならない)
黒松比折牟
コメディーEDだ。
クヌート・ペルレ
ウケる。
黒松比折牟
これもっと過酷で悲壮なEDだと思ったらこんな感じなんだ。
GM
みるきーさんはマスコットに並々ならぬ感情があるから興奮する。
花見川隆史
そうです。
黒松比折牟
興奮を得てる。
GM
いやー、おもしろかったな。どうもありがとうございました。
黒松比折牟
ありがとうございました!
クヌート・ペルレ
ありがとうございました~!
花見川隆史
ありがとうございました!
花見川隆史
勝って負けた犬になれてうれしい。
黒松比折牟
楽しかった。悔しい~。