GM
遠くの方に、いちばん星が見えるぐらいには。
オレンジ色の空が夜の青にうっすら染まりかけている。
GM
あの2人で笑い合った雨の日の夕暮れのような空。
野々村大翔
帰路へ着く人々の中を、男が走っていく。
野々村大翔
汗だくで、パレードの衣装は着っぱなし。
野々村大翔
息を切らせて走りながら、探す相手を見つけて、大きく手を振る。
相模 邦晃
エントランスから入ったところに男はいた。
相模 邦晃
上から下までびしょびしょに雨に濡れている。
濃い色のスーツは、もっと濃く。
元の色が何色だったかすらわからない。
相模 邦晃
濡れて落ちてくる前髪をあげて、向き合う。
野々村大翔
そりゃそうだ! おれだってびしょ濡れだもんな。
野々村大翔
目の前で立ち止まって、俯いてぜえぜえと息をつくと、顔を上げた。
野々村大翔
相手の上から下まで何かを確かめるようにじろじろと眺めてから、
野々村大翔
「もらってないか、もらってないな? もらってたら交換な」
野々村大翔
差し出したのは、パレードの入りに踊り子たちが配っていた赤い花。
相模 邦晃
あの日、走り出したときと同じほど遅れて。
野々村大翔
汗だくのびしゃびしゃに濡れた手で握って、上下に振るシェイクハンド。
相模 邦晃
差し出した左手を、違わず握り合っている。
野々村大翔
そんなびしょ濡れになるまで見てくれてたんだもんな。
野々村大翔
「絶対いいパレードになったと思うんだけど、それでもやっぱ緊張してさ」
野々村大翔
「滑ってたらどうしようかと思ったんだよ!」
相模 邦晃
「私の方から言いたかった言葉だ、それは」
相模 邦晃
言うべき言葉と、普段なら言っていたところを。
野々村大翔
「そっか、うんうん!」肩を揺らして笑う。
野々村大翔
びしょ濡れの衣装。遠目には鮮やかだった色は水を吸って重たくなり。
野々村大翔
相手の笑顔を、眩しそうに眺めて、ちょっと生返事。
野々村大翔
「……前に、タオルとかで拭いたほうがいいか。持ってくるの忘れたな」
相模 邦晃
「生憎、私のハンカチも使い物にならない」
野々村大翔
笑いながら、パレードの熱狂から、バケノカワの想いから、
野々村大翔
…ゆっくりと気持ちが浮き上がって、あらためて目の前の人を見つめる。
野々村大翔
今はびしょ濡れで、自分の差し出した赤い薔薇を持っている。
野々村大翔
このあと食事かなんかに誘って、そこで改めて話したりするんだろう。
野々村大翔
「お前のためのパレードなら、何回だってしてやるからさ」
相模 邦晃
「仕事だろう。そんなことが許可されるものか、」
相模 邦晃
「私はまだパレードしか見ていないからな」
相模 邦晃
「お前みたいに体力が有り余っているわけじゃなし、」
野々村大翔
「じゃあ、まあ、ゆっくり歩いて、見て回れる限り」
野々村大翔
「案内するよ、けっこうほかのパビリオンにも詳しくなったんだぜ、おれ」
野々村大翔
バケノカワになった人の望みは、周囲の人を悲しませないこと。
野々村大翔
おれたちカイブツの命題は、人間たちに笑って楽しんでもらうこと。
野々村大翔
おれの野々村大翔の部分は、まだまだほっとけない、なんて言ってる。
野々村大翔
考えながら、口は勝手に明るく喋りだしている。
野々村大翔
そうして、邦晃の笑顔を見て、嬉しいなんて思っている。
河上 マオ/レオ
「うわ~! コウハイ、未だにびしょぬれ!」
鈴村 舞姫
「そんな格好でお客様を案内するやつがあるか!」
河上 マオ/レオ
とか言いながら連なって、うんうん。
鈴村 舞姫
ふたりぶんのタオルと、ワンダーランドの派手なシャツに、サンダルなんかの着替えを渡す。
野々村大翔
ワンダーランドの先輩で、今回のパレードにも協力してくれて、なんて邦晃に説明している。
河上 マオ/レオ
「風邪ひいちゃ、せっかくの気分も台無しですからねえ!」
鈴村 舞姫
「お客様、本日大変混雑しております。退園には時間がかかると思われますので……」
鈴村 舞姫
「閉園時間より、30分くらい遅れてゲートに向かうことをおすすめいたします!」
河上 マオ/レオ
「うっかり迷って、帰り道を忘れちゃっても安心ですね~!」
鈴村 舞姫
「そうそう、ワンダーランドは広いので、迷子にはお気をつけくださいね!」
鈴村 舞姫
「それと野々村!お前は今日もう上がっていいぞ!!」
鈴村 舞姫
本当はお客様を見送ったりするのがあるけど……まぁ今日はな!
河上 マオ/レオ
まあ、そうそう。うちの優秀なコウハイがついてますからねえ。
河上 マオ/レオ
このお客様も、迷子にはならないでしょう。
野々村大翔
ありがとうございます!と言いながら、こっちはもう脱いで派手派手のシャツに着替え、靴もサンダルに履き替えている。
鈴村 舞姫
ショッピングバックを渡して着替えを入れさせて、じゃあな、なんて言ってまた走ってゆく。
野々村大翔
追加のにわか雨のように去っていった先輩たちを、半ば呆然と見送っている。
河上 マオ/レオ
ツケておきますからね~! なんて去り際に言って。
相模 邦晃
あとでトイレで着替えます。
と、丁寧に礼を述べて去っていく姿を見送った。
相模 邦晃
「まるで嵐のように、いろいろなものを手渡されるなここは……」
野々村大翔
理由にもなっていないことを言って、先導する。
相模 邦晃
あの日の続きを少しだけするために歩き出す。
野々村大翔
アロハの胸元をちょっと引っ張って整えながら、笑った。
GM
But, there’s something, just as inevitable as death.
And that’s life.
GM
しかし、死と同じように避けられないものもある。それが人生さ、生きることさ。
GM
誰かのために成り代わる
バケノカワ
『My Dear.』