[ マリア=ロドリーゴ ] 生命力 : 0 → 1
[ 三善清次郎 ] 生命力 : 0 → 1
[ 月花 柘榴 ] 生命力 : 0 → 1
イザンナ
それは、自分でも。
何に対してかわからない言葉。
イザンナ
ただ、礼を言わなければならないと、思った。
マリア=ロドリーゴ
膝に力を込め、よろよろと立ち上がる。
三善清次郎
這うように起き上がり、血でぼやけた視界で状況を確認する。
イザンナ
もう二度と、目覚めない様に。
黒い炎でそれを燃やす。
GM
死ぬほどの痛みと苦しみに押しつぶされているはずなのに、彼女はそれでも笑顔を作る。
明くる日の“再誕”
「あー、ちくしょ。人生、これからだったのに」
三善清次郎
そんな体で人間が生きていけるわけがない。
GM
情報⑬:果子の状態
アラミタマは間もなく滅びる。クシミタマが現れようとしている。
腹の中の子供はアラミタマそのものと化しており、アラミタマと共に消える宿命だ。
果子の霊魂もまた、アラミタマの霊力によってアラミタマへと変異しつつある。
たとえこれを引き剥がすことが出来たとしても、今の果子の傷で脆弱な人間の体に戻ることは、もはや死と同義だ。
すでに世界はその因果を正史として認めている。それゆえに、時間を逆流させてもやがて果子はアラミタマへと至る。再誕によって因果が繰り返された事により、アラミタマと二人の霊魂の繋がりは、より一層強まってしまった。
カミガカリに現状を打破する力はない。概念を壊すカミガカリでも、全てを覆す都合の良い舞台装置にはなり得ない。
君たちは、“神”でも“悪魔”でもないのだから。
GM
──3月7日 23:59 コテージ・屋根裏──
三善清次郎
理解する。恨み事を吐く時間はなかった。
三善清次郎
「Verweile doch, Du bist so schön……」
GM
情報⑭:大悪魔との賭け
清次郎の右手、悪魔の指先が触れていた場所。そこに霊力を込めると、うっすらと黒い魔法陣が浮かぶ。
特定の合言葉を鍵として、クシミタマの奇跡を消費した何らかの術を発動する仕組みのようだ。
三善清次郎
日本語ではなく、英語でもなく、フランス語でもなく。
三善清次郎
大悪魔の発したそれとおなじに唇が諳んじる。
GM
来たる日の“恋人”
察知:不要
強度:10
必要人数:なし
消去:なし
対象:地域
特殊ダメージ:なし
ペナルティー:なし
その他の影響
A:なし
B:なし
限定的な状況下でのみ効力を発揮する[法則障害]。
クシミタマとPC⑤の霊力によって、現実に干渉するほどの強力な幻術を生み出し、絆を断ち切り、天使を喚び寄せ、傷を癒やすことができる。
これによってアラミタマの魂の契約を無効化し、喚ばれた天使はアラミタマを連れ去り、癒やしの奇跡によって罪なき母子を死から遠ざける。
つまり、果子と子供を救い、アラミタマだけを安らかに召すことができる。
生命に干渉し、理に干渉し、都合のよい結果だけを招く、悪魔的な黒魔術であるが、術式を記したのは果たして何者なのか。
わかるのは、術者はPC⑤であり、発動に用いられたのはPC⑤の霊力とクシミタマであり、もたらされた奇跡は天使によるものであり、この術式を書いたものは法則障害の発動に関わってはいない──つまり、“自らの力を用いてはいない”という事だけだ。
三善清次郎
彼女の言葉なら、ひとつひとつちゃんと、覚えている。
三善清次郎
――わからなかった。確信は何もなかった。
三善清次郎
相変わらず、彼女のことはなにもわからない。
三善清次郎
所詮はどこまでも勘違い。思いこみ。曲解。そうであるはずで。
マリア=ロドリーゴ
コテージの中、場違いに紡がれた言葉に目を向ける。
メフィスト・フェレス
「おかしいなあ、まさかそんな!」
メフィスト・フェレス
白々しい道化が、心のこもらない悲鳴をあげる。
メフィスト・フェレス
「あたしのメモが……ちょっとした悪戯で組んだだけの式が……」
メフィスト・フェレス
「“偶然にも”誰かに拾われて、“なぜだか”ロックも暴かれて、“勝手に”使われてしまうだなんて!」
天使
「み使よ、天の族よ。
罪びとを赦し、
塵にいのちをあらしむべく
ゆるやかに天翔り来よ。
徐ろに列をなし、
漂い浮びつつ、
なべてのものに、
やさしき痕をとどめよ」
天使
「眼に眩き、
かぐわしき薔薇の花よ。
浮々と漂いて、
密やかに蘇らせ
小枝を翼とし、
蕾より咲き出ずる薔薇の花よ、
急ぎ花咲け。
春よ、紅の花よ、
緑の葉よ、萌え出でよ。
憩える人に楽土を齎せ」
天使
「浄らかなる花と
悦ばしき炎は、
心の求め願う
愛を広めて、
歓楽を生ぜしむ。
真理の詞は、
澄める大気の中に、
不死の群に、
到るところに光明を与う」
天使
「愛の炎よ、
澄み渡る方へ
向えよかし。
真理よ、
おのれを呪う者を救えよかし。
かくてめでたく
悪より逃れて、
ものみなと睦みて、
浄福を享くべく」
天使
「聖なる炎よ。
この炎に取囲まるる者は、
この世にありて善き人と共に、
さきく過ごさむ。
諸共に起ちて、
称えよ。
風は清らかなり、
霊よ、安かれ」
メフィスト・フェレス
「……忌々しい姿を見た。どっこい、なかなかそそる光景だ」
メフィスト・フェレス
「綺麗な顔に、いい尻をしたやつらだ。あの日、あたしに色目を使ってファウストのダンナの霊魂を掠め取ったコソ泥どもだけど」
メフィスト・フェレス
「こうして見ると……憎めない」
メフィスト・フェレス
「主様。どうです。賭けは今回もあたしの勝ちだ」
メフィスト・フェレス
「そいつらの魂は差し上げましょう。そっちで存分にこき使ってやって下さい」
メフィスト・フェレス
「あたしは屍に用などありません。猫が生きた鼠を求め、死んだ鼠に興味がないのと同じです」
GM
遥か彼方、人の目には目視できないほどの遠く。
メフィスト・フェレス
「面倒な縛りですよ。自分の力を使わずに……って」
メフィスト・フェレス
「やれ手助け一つするのにも、えらい手間がかかるもんだ。“機械仕掛けの神様”とやらも楽じゃあない」
メフィスト・フェレス
「まあ、我々の尻拭いとしちゃあ、出来るのはこんなもんでしょう。ダンナ、お疲れ様でした」
メフィスト・フェレス
「まったく。今回はとんだ骨折り損だ」
GM
その姿はアラミタマのそれではなく、体には傷もなく、腹も膨らんではいない、ただの14歳の少女であった。
GM
子供は消えた。あるべき因果に従って、再び訪れる未来、その時にきっと生まれてくるだろう。
マリア=ロドリーゴ
「おいライター、今何しやがった!」
三善清次郎
「わかんない!しらない!けどねえ!俺はなんか!なんか………負けたの!!!」
月花 柘榴
ようやく起きる。身を起こせずに、仰向けになる。
イザンナ
燃えさしになった泥を、放して。
涙のようなものを、拭って。
三善清次郎
「……治すから、治すからちょっと、ちょっと待って……」
辰巳 悠希
果子を抱いて、泣く。
大声で、子供のように。
三善清次郎
あらゆるものがどっと襲いかかってくる。
月花 柘榴
細い触手が伸びて、手足と胴体がつながる。
マリア=ロドリーゴ
抱き合う少年少女──夫婦を一瞥し、
マリア=ロドリーゴ
立つ魔王と三善、それから柘榴と胡桃を見回して。
マリア=ロドリーゴ
「“聖ヴェロニカ”を回収してくる」
マリア=ロドリーゴ
取って返して出ていこうとする。
辰巳果子
悠希に抱かれ、泣く。
大声で、子供のように。
三善清次郎
「辰巳くんをいじめてんだって思ったけど、違ったでしょ」
イザンナ
「我は、面倒な役を押し付けただけであるが。」
月花胡桃
「やっぱり人間には見えないね、ざくろちゃん」
月花胡桃
「でも……お陰でざくろちゃんが生きてて、手足が残ってる」
イザンナ
「ここで不完全なまま死ぬわけにはいかぬのだよ。」
マリア=ロドリーゴ
早足で、同僚を伴ってシスターが戻ってくる。
フェアリー・ブルダン
「……みなさん、すいませんでした。お役に立てず」
三善清次郎
「あっ、おねえさんの頭もくっついてる」
マリア=ロドリーゴ
「次はちゃんと連絡してから行け!」
フェアリー・ブルダン
「はい、ごめんなさい、ごめんなさい」
フェアリー・ブルダン
「いえ……私になにも文句を言う権利などないのです……私が至らないばかりに……」
マリア=ロドリーゴ
「いいか、マジで今度は勝手に抜け出すのは許さねえからな」
マリア=ロドリーゴ
「さっきみたいに縛り付けるぞ」
月花胡桃
「ちゃんと騎士団に戻って、罰を受けなきゃ」
マリア=ロドリーゴ
「詳細な報告はこっちでもする」
マリア=ロドリーゴ
「……したことがしたことだからな」
マリア=ロドリーゴ
「柘榴、お前も来るか。証言はあった方がいいだろう」
月花 柘榴
「くるみのこと、あたしが知らないの、やだもん」
三善清次郎
「……胡桃ちゃんも、柘榴ちゃんが頑張ってたこと、知ってくれてよかったよ」
月花胡桃
「……ざくろちゃんが居てくれるなら、私もうれしい」
イザンナ
「2人に何かあれば、我はこちらにつかねばならぬでな。」
マリア=ロドリーゴ
「“聖イシドールス”には、異界の魔王がついてるとでも言っとくよ」
フェアリー・ブルダン
「……あまりひどい目にあうことはないと思います。騎士団にとっても彼女の力は重要ですから」
マリア=ロドリーゴ
「だからこそ、秘密にしてきたわけだからな」
月花 柘榴
「ちゃんと見るまでは安心できないなー」
月花 柘榴
「なにがなんでも一緒にいってやるからな」
フェアリー・ブルダン
「皆さん、“聖イシドールス”のことはどうか他言無用で」
三善清次郎
「はいはい。でかい組織にゃ逆らいませんて」
マリア=ロドリーゴ
身構えていた女は、一転して怪訝な顔になる。
マリア=ロドリーゴ
「お前の“友人”の定義によるが……」
フェアリー・ブルダン
「わ、私は、マリアがいいなら……」
マリア=ロドリーゴ
「お前のおかげで、今回も助かった。……この馬鹿のこともな」
三善清次郎
「……じゃ、今度ゆっくりお茶でも行きますか」
月花 柘榴
「ひとりじゃ倒せないやつもいるんだよなーって、思った」
辰巳 悠希
「カミガカリの力を使っても、俺の記憶が消えないように」
辰巳 悠希
「親を殺しても、子供を殺しても、こんな姿になっても」
辰巳 悠希
「中学生の時に好きだった、マンガの主人公そっくりなんだ」
辰巳 悠希
「龍の姿は、父親の姿を真似したものだった。
本当はどんな姿にも変身できたのに」
辰巳 悠希
「俺は、人間であろうとする努力をしていなかった」
辰巳 悠希
「自分が人であろうとすることを止めない限り、心は人間なんだ」
辰巳果子
「君の法則障害は、忘れさせるだけじゃない」
辰巳果子
「こいつに大事なことを思い出させてくれたみたいだ」
辰巳果子
「……おなかの中に、ちょっと気配を感じる」
辰巳果子
「アラミタマがいなかったら死んでた子だ」
イザンナ
「……この枯れた霊脈を、大地を。元の清く美しい場所に。」
イザンナ
「モノノケたちが住処を追われぬよう。人がモノノケに脅かされぬよう。」
イザンナ
「お前達家族のコテージが、良い住居に戻るようにな。」
GM
よどんだ空気は僅かに晴れ、弱弱しく霊脈に再び霊力が巡る気配が感じられる。
GM
かつての景色も、やがて取り戻されることだろう。
辰巳果子
「でもって、復調したら遊びに誘っちゃう。来れる奴は来いよ」
メフィスト・フェレス
テーブルに脈絡もなく突如下ろされた、都合のよい結末。
メフィスト・フェレス
人の覚悟を嗤う、デウス・エクス・マキナ。
メフィスト・フェレス
それを為したのは、果たして悪魔らしい気まぐれか、それとも人間らしい情ゆえか。
GM
主と悪魔の悪だくみによって、物語には一つの幕が下ろされた。
三善清次郎
疲れたやら安堵したやら、へろへろと夜道を歩いて自宅に帰り着く。
三善清次郎
内心で毒づきながら、扉を開けて。倒れこむように中へ。
三善清次郎
当然、帰りを待つ者のない、真っ暗な部屋――
GM
部屋の明かりが点く。そこにはメフィストが居る。
三善清次郎
ゆびさす。なんか、わやわやと手が動く。
三善清次郎
言いたいことがたくさんある。いや、そんなにはない。
メフィスト・フェレス
「見てましたよ、ダンナの雄姿」
メフィスト・フェレス
「お気に召していただけましたか?」
三善清次郎
「あのねえ!ほんとに大変だったんだよ!もうほんと、一回マジで死が見えて」
メフィスト・フェレス
「ええ、ええ、見ておりましたとも」
メフィスト・フェレス
「死者に囲まれ倒れたところなど、それはもう最高の見世物で!」
メフィスト・フェレス
「お許しください。賭けもあったんですから」
三善清次郎
「……初めから言っとけ!!とは、言わないけどさあ!」
三善清次郎
「でもなんか、もうちょっと……もうちょっと、あったでしょ、なんか……俺が高みの見物できるような……ないか……」
メフィスト・フェレス
「ダンナがダンナである限り、それは無理でしょう」
三善清次郎
「……そもそもメッフィーちゃん、俺に勝たせる気1ミリもなかったでしょ」
メフィスト・フェレス
「すみませんね。こちらも遠回しな方法を取る以外なかったものですから」
メフィスト・フェレス
「ダンナがわかりやすい方で助かりました」
三善清次郎
「なーにが!あたしは何でも一つ、ダンナの言う事を聞きましょう……だよぉ!」
メフィスト・フェレス
「……しかし葛藤しながらも前へと進んでいく姿、やはりダンナは人間でした」
メフィスト・フェレス
「どうです。まだやれますか」
メフィスト・フェレス
「あたしがあたしである限り、ダンナはお断りにはならないのでは?」
メフィスト・フェレス
「アラミタマの屍で山を築き、その上を歩いてゆく覚悟をなさると」
三善清次郎
「俺の大事なお姫様がその道しか歩けないとおっしゃるので?」
三善清次郎
流石に恥ずかしいこと言ったな。という、間。
三善清次郎
「俺、この賭け勝つつもりだったんだよ」
三善清次郎
「……勝って、お願いしようと思ってた」
三善清次郎
「そしたら、なんか。間に合わなくてもさ」
三善清次郎
「もうちょっとくらいはいけるかなって」
メフィスト・フェレス
「……それはいけませんよ、ダンナ」
メフィスト・フェレス
「なぜいけないか、今回の事でよくお分かりになったでしょう」
メフィスト・フェレス
「いや。もっとずっと前から、ダンナは分かっておられるはずだ」
メフィスト・フェレス
「事の本質は、知性の有無や体質などではないのです」
メフィスト・フェレス
「別のものへと至ろうとすることが、種として既に歪んでいるのですよ」
メフィスト・フェレス
「あたしはいろんなヤツを見てきた。けど、どいつも大抵ろくな末路にはならない」
メフィスト・フェレス
「人が人をやめることも、アラミタマが人へ至ろうとすることも、ばかげた事なんです」
三善清次郎
大悪魔の、笑みの浮かぶ頬をつねる。ちょっと強めに。
三善清次郎
「そのばかげたことを成そうとしている大悪魔のために頑張るばかげた男に、何かご褒美があってもいいんじゃないですか?」
メフィスト・フェレス
「しかし賭けの勝者はあたしです。さて、どうしたものか」
三善清次郎
「そういえば、メッフィーちゃんが勝ったらどうするか訊いてなかったな」
メフィスト・フェレス
「特に何も考えてませんでしたからね。ああ、そうだ」
三善清次郎
つねっていた手を緩めて、むじむじと指先で触れる。
メフィスト・フェレス
郵便ポストに投げ入れられていたチラシを見せる。
メフィスト・フェレス
「ひとつ、デートというのは如何です?」
メフィスト・フェレス
その中の一枚、水族館を指さした。
メフィスト・フェレス
「それではターゲットの情報から行きましょうか!今回もなかなかの強敵でして!」
メフィスト・フェレス
「……アラミタマが出るのは、閉館後とのこと」
メフィスト・フェレス
「それまでのひと時は、ご一緒しようじゃありませんか」
三善清次郎
いや高校生か?という自問が頭を巡ったが、もう考えないものとする。
メフィスト・フェレス
「これからもよろしくお願いしますよ、ダンナ!」
三善清次郎
自分の期待など、それこそばかげたことだ。ずっとそう。
三善清次郎
それでもそのばかげたことを成し遂げようとする目の前の存在に期待をせずにいられない。
三善清次郎
「まあ、間に合わなくても、足しになれるなら頑張るよ」
三善清次郎
「心強い"お友達"もいっぱい出来ましたし~?」
三善清次郎
「前より効率上がるかもね、もしかしたら」
三善清次郎
「メッフィーちゃんのおかげで、優秀なカミガカリも一人死ななくて済むだろうし」
メフィスト・フェレス
「実に心強いお言葉をいただきました」
メフィスト・フェレス
「では狩っていただきましょう。何体も、何十体でも、何百体でも。情報であれば身を粉にしてお持ちして参ります!」
GM
悪魔と人間、アラミタマとカミガカリ、利用する側とされる側。
GM
違う時を生きる二人は、共に命を散らすことはないのだろう。
GM
悪魔はこれからも、人間に危険な仕事を押し付けて、命がけの仕事を続けさせる。
GM
その成果を人間が見る日は、きっと来ないというのに。
GM
そんな関係が今日も続いている。きっと明日も続いている。
GM
そして、また事件が起きればこの悪魔は現れて、「ダンナ」に微笑みかけるのだ。
GM
身体の痛みをこらえながら、イザンナの帰りを待ち続けている。
イザンナ
それから、暫く。
入り口ではなく、部屋の中心に闇が開かれる。
逆月衣織
「なんだったんだ、今日は!戦闘をしていたのか!」
イザンナ
「仕事終わりにモノノケを見つけてなぁ。まあ……いろいろあってアラミタマをな。」
逆月衣織
「……強敵とやりあったと思ったら、アラミタマだと?」
イザンナ
「いや。実はな、ともだちができたのだよ。」
イザンナ
「前に話しただろう?触手の少女と、フリーランスの夫婦と、ヒーラーと……教会の。」
逆月衣織
「あのな……友達っていうのは、対等な付き合いのことだぞ」
逆月衣織
「え?まさか友達って、本当に友達のことか?」
イザンナ
スマートフォンを取り出して、グループメッセージをチラ見せする。
イザンナ
「他音無用のことゆえ、子細は話せぬのだが……」
イザンナ
「ヒトでもないまがい物よ。モノノケにかぶせられた、疑似的な……実態もない、まやかしだ。」
イザンナ
「だがなぁ……アレが初めてよ、ワタシを友としたのは。」
逆月衣織
「この世界に、入れ込んでるんじゃないだろうな?」
逆月衣織
「帰るという話、忘れたわけじゃないだろう」
逆月衣織
「アラミタマを倒したなら、クシミタマはどうなった。何に使った?」
イザンナ
「無論、帰るつもりだ。魔族の侵攻が緩めば、人はまた人同士で争うだろう。」
イザンナ
「……お前の言った通りだ、イオリ。私はすべての上に立つ者。それは、揺るがぬ事実。曲げてはならぬものだ。」
イザンナ
「人とアラミタマ、そしてモノノケについてだ。」
イザンナ
「これは、こちらの世界のもの。しかし、我が世界において全く異なるわけでもない。」
イザンナ
「クシミタマは、枯れた霊脈を癒すのに使ってしまったなぁ」
逆月衣織
「非効率的だ!異界の住人であるお前が、そんなことをして何になる!」
逆月衣織
「クシミタマを使う手が一手遅れるたび、元の世界への帰還も遅れるだろう」
逆月衣織
「その時間で友を作ったり、人とアラミタマとモノノケのことなど調べるくらいならば、とっとと戻って元の世界の情勢でも……」
イザンナ
「元の世界に戻るなら、先にこの繋がりを絶たねば……」
逆月衣織
「……そのためのクシミタマを、霊脈のために使ったんじゃないか」
逆月衣織
「最低でも、あと一回はアラミタマと戦うのか……」
イザンナ
「あやつらが、あまりに必死に戦うものでな。」
イザンナ
「腕がもげても、死者に喰われても、鞭打たれても、切られても。」
イザンナ
「どの程度痛いのだ?ワタシは見たことないからわからぬな。」
逆月衣織
「たぶん、ダメージの内容とリンクしているんだと思う。さっきは強く打たれるような痛みだった」
逆月衣織
「あと、よくあるのが……身体を刺すような痛みとか……」
逆月衣織
「昨日は朝も戦っていただろう。あの時もまた別の痛みだった」
逆月衣織
「だが、 避けられない事だとは理解できる」
逆月衣織
「自力では解決できないという負い目も……ないわけではない」
イザンナ
「我はな、未だにお前が術を行使したことを赦そうとは思えない。」
イザンナ
「お前が我が世界に及ぼした影響は、それこそアラミタマを召喚するよりも重い。」
イザンナ
「…………だからな。その分、何かを得て戻る。それにはお前の……力も必要だ。」
イザンナ
「限定的なものでもいい。つまり、ここと我が世界を一時的に繋げられる空間を構成するのだよ。」
イザンナ
「今の、強引に引き寄せるやり方ではなく、正しい形での召喚、帰還。」
イザンナ
「……なに、別にこちらの世界に何かをしようというわけではない。」
逆月衣織
その事実と成果は、未だ世に送り出されてはいない。
逆月衣織
その失敗で、衣織は自信の未熟を痛感し、そしてその研究に関わる一切を禁じた。
逆月衣織
その解禁が許されたとて、それは決して望ましいニュースではない。
逆月衣織
その先の研究は、もはや衣織自身すら望んでいないことだ。
逆月衣織
「あの理論を見たものに、同じ失敗を繰り返させないためにも」
逆月衣織
「望まぬ異界の犠牲者を、これ以上出させないためにも」
逆月衣織
「迷い込んだ異界の住人への救済の一歩とするためにも」
逆月衣織
「研究は続けよう。すべてを懸けて、やり遂げてみせる」
逆月衣織
「今のままでは何年かかるかわからない。知恵を貸して欲しい」
イザンナ
「異界の知識、魔力、それから助手に、黄金も……お前の研究に捧げよう。」
イザンナ
「ワタシも、痛い思いをさせてすまないな。我慢しておくれ。」
イザンナ
「今のワタシには、以前ほどの力はない。」
イザンナ
「力がないのは不便だなぁ……自分一人も守ることができぬ。」
逆月衣織
「……すべて余すことなく有効に使わせてもらう。目的のために」
逆月衣織
「過ぎたものを手にしても、もう二度と驕りはしない」
逆月衣織
「……友が居るのなら、異界に戻った後も、こちらとの繋がりは欲しいだろうしな」
イザンナ
「今日から我々は協力者(パートナー)だ。」
イザンナ
「さて、ところで……これは提案なのだが。」
逆月衣織
「……………………………………………………」
イザンナ
握った手を緩やかに引いて胸元に抱き込む。
イザンナ
「……そうだ、言おうと思っていたのだった。」
GM
ひとつの愚かな術は、魔王から力と地位を奪い、ひとり異世界へと放り出した。
GM
ひとつの愚かな術は、邪心に力を与え、異世界の少女を刈り取ろうとした。
GM
ひとつの愚かな術は、友を産み、そして凄惨な別れを産んだ。
GM
最初の破滅をもたらした愚かな術は、いつか偉大な術へと変わる日が来るのだろう。
GM
マリアとリサは、川辺教会──聖堂騎士団の久代支部へ。
マリア=ロドリーゴ
「──以上が、この事件の概要です」
テレサ・カラス
「……わかりました。報告ありがとう」
フェアリー・ブルダン
「申し訳ありませんでした……」
マリア=ロドリーゴ
「正しい判断や正しい行動を取らなかったことで、アラミタマだけが斃され」
マリア=ロドリーゴ
「契約者であった胎児と、融合していた母親は無事に済んだ」
マリア=ロドリーゴ
「”聖イシドールス”が法則障害を用いず」
マリア=ロドリーゴ
「”聖ヴェロニカ”が辰巳果子を殺していたら、二人の人間の命が失われていた」
マリア=ロドリーゴ
「──と、いうことになるかと」
テレサ・カラス
「最後の救済など……不可解なところは残るけれど」
テレサ・カラス
「結果だけを見れば、素晴らしい戦果と言えるわね」
マリア=ロドリーゴ
「その追及と、両名の行動の瑕疵を責めるのはまた別の話として」
テレサ・カラス
「“聖イシドールス”を止めることが出来なければ、何も救えずにアラミタマだけが増えるという結果に終わっていたでしょう」
テレサ・カラス
「……この事は、東京支部にも報告します」
テレサ・カラス
「“聖イシドールス”は今は東京支部の管理下」
テレサ・カラス
「少し、彼女にとっては辛い事になるかもしれないわ。あそこの支部長は甘くないから」
マリア=ロドリーゴ
「“聖イシドールス”は私の見たところ、カミガカリになったばかりで」
マリア=ロドリーゴ
「もともと精神的に不安定なところのある少女でした」
マリア=ロドリーゴ
「……彼女をケアをしきれなかったことは、原因のひとつではあるかと」
テレサ・カラス
「彼女を聖堂騎士団内で隔離して、正しく学べる環境を与えられなかった我々の責任は大きい」
テレサ・カラス
「あなたちにも黙っていてごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「”聖イシドールス”の能力は、確かに強大で……特異なものだった」
マリア=ロドリーゴ
「秘匿する理由については分かります。それが例え、肉親や関係者であろうとも」
マリア=ロドリーゴ
「彼女には、姉の月花柘榴が同行する予定です」
テレサ・カラス
「とても強いカミガカリなんですって?」
マリア=ロドリーゴ
「はい。どこにも属さず、単独で戦っていたカミガカリです」
テレサ・カラス
「そんな子が、“聖イシドールス”に同行して聖堂騎士団に……」
フェアリー・ブルダン
「……何事も、ない、ですよね?」
マリア=ロドリーゴ
「言いたいことは、彼女の方にたっぷりあるでしょう」
マリア=ロドリーゴ
「……面倒事を起こさないようには言ってありますがね」
テレサ・カラス
「“聖カタリナ”に同席するよう伝えておきます」
テレサ・カラス
「もしもの時は力になってくれるでしょう」
フェアリー・ブルダン
「……きっと大丈夫だ、とか無責任なことを言ってしまいました……」
テレサ・カラス
「お人よしもいいけれど、“聖ヴェロニカ”」
テレサ・カラス
「一か月間、お疲れ様でした。今はゆっくり休んで」
フェアリー・ブルダン
「あ、はい……ありがとうございます」
テレサ・カラス
「シスター二名を救い出してくれたのはあなた」
マリア=ロドリーゴ
「私だけの力では、叶わなかったことです」
マリア=ロドリーゴ
「“聖イシドールス”も、“聖ヴェロニカ”も」
マリア=ロドリーゴ
「あそこには、なくてはならない存在だった」
マリア=ロドリーゴ
「……良い報告ができたことを嬉しく思います」
テレサ・カラス
「仕事をやり切った後の、酒を飲みながら音楽を聴くひと時は最高よ!」
テレサ・カラス
背中にそんな明るい声をかけて、二人を送り出す。
フェアリー・ブルダン
沈黙が耐えがたい様子で、何かを話そうとしては何も言葉は出ずに。
マリア=ロドリーゴ
唇を引き結んで、教会の入口まで出てくる。
マリア=ロドリーゴ
立ち止まり、視線を向けないまま、
マリア=ロドリーゴ
「首がなかったんだぞ、知らなかった」
フェアリー・ブルダン
「はい……ごめんなさい……」
マリア=ロドリーゴ
「どうしようもないと思ったから、思いっきりやっちまった」
マリア=ロドリーゴ
「身体を切り刻んででも、お前が何で死んだのか」
マリア=ロドリーゴ
「お前を誰が殺したのか、確かめようと思った」
マリア=ロドリーゴ
「…………死んだかと思ったんだ」
フェアリー・ブルダン
「……あなたに書き置きを残すか、迷いました」
フェアリー・ブルダン
「……言ったら怒りませんか」
フェアリー・ブルダン
「あなたの姿がありました。殺される側ではなく、殺す側ですが」
フェアリー・ブルダン
「………………私が黙っていても、あなたはアラミタマと戦う事になるから」
フェアリー・ブルダン
「大局に支障はないと……いえ」
フェアリー・ブルダン
「無駄とわかっていても、予言を覆しはできないかと」
フェアリー・ブルダン
「その場に立ち会わなくて済む未来があったら、と」
マリア=ロドリーゴ
「“お前”が──首のないお前だが」
マリア=ロドリーゴ
「何をしようとしたか分かった、それは正しい判断だった、って」
フェアリー・ブルダン
「……そんな言葉を受け取る権利は……」
マリア=ロドリーゴ
「もし、お前に次いでもう少し早く結界の中に入っていたり」
マリア=ロドリーゴ
「たぶん正しい判断をして木下果子を殺してた」
マリア=ロドリーゴ
「お前の行動も、予言に背くつもりでも」
マリア=ロドリーゴ
「未来に従わされるようなもんなのかもしれない」
マリア=ロドリーゴ
「だから、文句を言うようなことじゃないのかも」
フェアリー・ブルダン
「結果はどうあれ、私はあなたを置き去りにしました」
フェアリー・ブルダン
「それは賢い選択ではなかった。あなたに心配をかけさせて」
フェアリー・ブルダン
「……あなたは必要な時に、必要なことが出来る人です」
フェアリー・ブルダン
「出来る人だから、周りの人は勘違いする」
フェアリー・ブルダン
「あなたがそれをしても平気な人だと思ってしまう」
フェアリー・ブルダン
「あなたの強さに甘えてしまう」
マリア=ロドリーゴ
最初の二言ぐらいまでは、分かってるじゃねえか、とばかりに話を聞いていた女は。
マリア=ロドリーゴ
途中からぽかんとした顔をして、口をさしはさめずに。
マリア=ロドリーゴ
最後まで聞いてから、あなたを見つめる。
フェアリー・ブルダン
「あなただって無理してるんですよ」
フェアリー・ブルダン
「人に言うなら、ちゃんと自分も甘えて下さい」
マリア=ロドリーゴ
「お前が、……お前がなあ、私を…………」
マリア=ロドリーゴ
「逆に心配させてたら意味ねえだろ」
マリア=ロドリーゴ
「急に何も言わずに出ていくから」
マリア=ロドリーゴ
消え入るような声で言葉を紡いで、
フェアリー・ブルダン
「心配をかけて、ごめんなさい」
フェアリー・ブルダン
「心配してくれて、ありがとうございます」
フェアリー・ブルダン
「私だって、あなたを助ける事もできます」
フェアリー・ブルダン
「どんな敵だってなんとかなる」
フェアリー・ブルダン
「無事に生還できました。帰って休みましょう」
フェアリー・ブルダン
「今日は、ゆっくり眠れそうです」
GM
アラミタマを見つけ、押しとどめた騎士がいた。
GM
あの、鼠の女王を守った小さなモノノケの騎士たち。
GM
あの、妹のために戦った、小さくて大きな騎士。
月花 柘榴
なにを願ったらいいか、わかんなかった。
月花 柘榴
「くるみがあんまり怒られすぎませんように」とか、「くるみがあたしにかくしごとをしなくてよくなりますように」とか。
月花 柘榴
たぶんもう決まってることなんだけど、そんなんしか浮かばなくて。
月花 柘榴
ちょっと前なら、「人間になりたい」って願ってたと思うけど、その必要もなくなった。
月花 柘榴
「くるみのことをちゃんと守れますように」って、願った。
月花 柘榴
……なんだか漠然としすぎてて、かみさまにお祈りするみたいだ。
月花 柘榴
そんなやつ、いままで信じたことなかったのにな。
GM
──3月8日 4:10 聖堂騎士団・東京支部前──
月花胡桃
それでよかった。教会は私を守ってくれたから。
上杉睦美
「姉がそうだった貴女なら、よく知っていたと思うけれど」
上杉睦美
「“聖イシドールス”の捜索は難航していた」
上杉睦美
「“聖ヴェロニカ”が消えた時にも、まだ分からなかった。まさかと思って、縁から辿って……あなたの造った、私の人形を見つけた」
上杉睦美
「なんとか、意識を繋いで、人形の見聞きした情報を知覚することができた。状況が分かった時には、あなたは追い詰められて、アラミタマになろうとしていた」
上杉睦美
「あなたのもとへ、“聖モニカ”を向かわせるよう手を回したのは私。あなたが作ろうとしたアラミタマ化の法則障害を、邪魔したのも私」
上杉睦美
「騎士長“聖カタリナ”と名乗った方がわかりやすいかしら?」
月花 柘榴
「じゃあ、アレじゃん。命の恩人じゃん」
上杉睦美
「今、私がここに居るのは、貴女たちのお守り」
上杉睦美
「これから貴女たちは、もう一つの戦いに向かうのだから」
上杉睦美
「行けば分かるわ。どうぞ、いらっしゃい」
GM
権謀術数渦巻くこの町に佇むこの教会は、聖堂騎士団、東京支部。
GM
カミガカリの力を持たない人間の身でありながら、この地位まで上り詰めた交渉の怪物だ。
チェーザレ・アルバーニ
「ようこそ。“聖イシドールス”と、月花柘榴さんですな」
GM
胡桃と柘榴の前には、“聖ガブリエル”チェーザレ・アルバーニが居る。
チェーザレ・アルバーニ
「それでは、ご用向きを伺いましょうか」
月花 柘榴
「…………あやまりに、き……ました……」
月花 柘榴
それに、なんかやらかしたら大変なことになるのはあたしだけじゃない。
チェーザレ・アルバーニ
「姉であるアナタの口からお聞きしたいのですよ」
チェーザレ・アルバーニ
「この事件で、彼女が犯した罪は何とお考えかな?」
月花 柘榴
つないでないもう片方の手が、さまよう。
月花 柘榴
「……連絡をしないで、どっかいったりとか……」
月花 柘榴
「アラミタマになろうとしたり……とか……」
月花 柘榴
「聖…………えっと……………………ブルダン……さんの首を、どっかやったりとか……」
月花 柘榴
「…………あたしたちをたおそうとしたりとか……」
GM
柘榴の口から一つ一つ、罪が語られるたびに、震えは強まっていく。
チェーザレ・アルバーニ
「……どこかへ行った、という言い方は適切ではありませんな」
チェーザレ・アルバーニ
「法則障害を用いて閉じこもったとするのが正しい」
チェーザレ・アルバーニ
「彼女は意図的に我々との連絡を絶ち、霊脈から霊力を剥奪し、混沌のモノノケを産み、人の時間を巻き戻したのですよ」
チェーザレ・アルバーニ
「その中には計画的に行われたものも含まれる」
月花 柘榴
「……あのまま、アラミタマがうまれてたら、くるみは死んでて、」
月花 柘榴
「果子…………アラミタマのかあさんも、死んでた……」
チェーザレ・アルバーニ
「彼らを救ったのは、“聖イシドールス”の術ではありません」
チェーザレ・アルバーニ
「順当にあのまま術が広がっていれば、いたずらに犠牲を増やしたのち、母体も死に、街へも被害が出ていたことでしょう」
チェーザレ・アルバーニ
「偶然、複数名のカミガカリが集った。その偶然に救われたに過ぎません。術を行使した“聖イシドールス”も、予想しなかった結末でしょう」
チェーザレ・アルバーニ
「違いますかな、“聖イシドールス”」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタは犠牲が広がることを承知の上で、これらの術を用いた」
月花 柘榴
「……でも、その偶然が起こるまで、がんばってたんじゃん」
月花 柘榴
「……がんばってくれてなかったら、カミガカリがあつまる前にだめになってた」
チェーザレ・アルバーニ
「頑張っていたわけではない」
月花 柘榴
「……くるみが死なないでくれて、よかった」
チェーザレ・アルバーニ
「結果の話は本質ではないのです」
チェーザレ・アルバーニ
「これらの術が、何の制約もなく、日常的に用られるような事があればどうなるか」
チェーザレ・アルバーニ
「何故、我々は法則障害の大半を一般的に禁術と定めているのか。お分かりですな」
チェーザレ・アルバーニ
「故に我々は、禁術の知識の流布を防ぎ、その行使に制約を定めています」
チェーザレ・アルバーニ
「これは聖堂騎士団のみならず、特対でも、協会でも、連盟でも……そう変わる事ではありません」
チェーザレ・アルバーニ
「制約があるということは、破れば罰則があるという事です」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタの見返り次第でしょうな」
上杉睦美
「交渉の時に、最初から持てる手札の全てを晒しては駄目」
上杉睦美
「騎士団が貴女に求めている事は、貴女の利用価値」
上杉睦美
「そして、純粋なカミガカリとしての戦闘力」
月花胡桃
「ざくろちゃんを差し出して、私だけ助かっても、私、全然嬉しくないよ」
月花 柘榴
「あたしも……くるみといっしょにいたい」
上杉睦美
「……“聖ガブリエル”。私から提案します」
上杉睦美
「月花柘榴の身柄を聖堂騎士団の東京支部へと置くことを、恩赦の条件としては如何でしょうか」
チェーザレ・アルバーニ
「月花柘榴さん、アナタはどう思われますかな」
チェーザレ・アルバーニ
「一緒に置くという確約はできませんな」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”とアナタの適所は違う。別の支部への異動もありえるでしょう」
月花 柘榴
「くるみが、あたしに言えないかくしごとをするのが、たぶん、よくなくて」
月花 柘榴
「……だから、秘密がふえるのは、よくなくて………………」
月花 柘榴
「たしかに、あたしと適所がちがって……戦うのが、あんまり得意じゃない」
月花 柘榴
「……あたしは難しいことはわかんない」
月花 柘榴
「……くるみが、ここにとってめちゃめちゃ大事な人ならさ」
月花 柘榴
「で、なんか気持ちがたいへんになって、今回みたいなことが起きても困るじゃん」
月花 柘榴
「あたしが、くるみと一緒に行動するの、いいと思うんだけど」
月花 柘榴
「…………」でかくて怖い男の顔を見上げる。
チェーザレ・アルバーニ
「そのような朧気な対価になど、大した価値はないのです」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタが“聖イシドールス”の精神的なケアを行ったとて、彼女をコントロールできるわけではないことは既に証明されている」
チェーザレ・アルバーニ
「実力的にも、この教会の中にはアナタより護衛に優れた者が複数名いると付け加えておきましょう」
チェーザレ・アルバーニ
「……条件を吊り上げる必要があるようですな」
チェーザレ・アルバーニ
「神成神器に関わる情報提供を惜しまず、実験に積極的な協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”へ下された任務に無償で同行、協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「聖堂騎士団東京支部の指示に従うこと。他の支部や組織と指示の競合が発生した場合は、必ず東京支部に服従すること」
チェーザレ・アルバーニ
「東京支部の指示に、疑問を持たないこと」
チェーザレ・アルバーニ
「現場の判断を求められたときは、教会の利益を第一に考え、立ち回ること」
チェーザレ・アルバーニ
「以上のことを誓えるのであれば、聖堂騎士団へアナタを迎えましょう」
チェーザレ・アルバーニ
「実験は、生命に関わらず、カミガカリとしての活動に支障を及ぼさないもの」
チェーザレ・アルバーニ
「指示は……騎士団のための仕事です。主にアラミタマや敵対的なカミガカリとの戦闘、“聖イシドールス”の護衛になるでしょうな」
チェーザレ・アルバーニ
「教会の利益とは、多岐に渡ります。理解が難しければ、私情に惑わされず教会のために頑張ると捉えていただければ問題ありませんよ」
月花 柘榴
「おなかのやつのこと、全然わかんないけど、わかることなら言う。……その実験ってのが、くるみを傷付けないやつなら、やる」
月花 柘榴
「くるみの任務に行くやつは、ぜったいやる」
月花 柘榴
「東京支部に……服従? これはあとで考えていい?」
月花 柘榴
「指示に疑問を持たないのも、なんか怖い命令されたときにやだから、ちょっと待って」
月花 柘榴
「教会のためにがんばるのは……やるけど、じゃあ教会がちゃんとみんなのことまもれるような指示を出してほしい」
チェーザレ・アルバーニ
「恐れる事はありませんよ」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタのような明らかに弱点を抱えた人間は、口を割らせやすい」
チェーザレ・アルバーニ
「表沙汰にされて困るような命令をアナタへ下すことは、騎士団としても得策ではありません」
チェーザレ・アルバーニ
「これは、服従を引き受ける理由にはなりませんかな?」
上杉睦美
「……貴女に直接の指示を下すのは、主に私になるわ」
上杉睦美
「“聖ガブリエル”のおっしゃる通り、極端な指令が下される事はないでしょう」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタの条件は、“聖イシドールス”と共に行動すること」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”を傷つけない範囲で、実験への協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”へ下された任務に無償で同行、協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「聖堂騎士団東京支部の指示に従うこと。他の支部や組織と指示の競合が発生した場合は、必ず東京支部に服従すること」
チェーザレ・アルバーニ
「任務の内容については、アナタに自由な意思を持ち、現場にてアナタが信じる最適な判断を行うことを許しましょう」
チェーザレ・アルバーニ
「ただし、アナタ自身の精神もまだ未熟です。実力が祓魔騎士相当のものであることは認めますが、まずは騎士として聖堂騎士以上の者に付き、任務の際はその指示に従うように」
チェーザレ・アルバーニ
「誓約書を渡します。“聖カタリナ”、確認を」
月花 柘榴
変な持ち方でペンを握って書く。きれいではない字。
月花胡桃
「……ざくろちゃんが、聖堂騎士団に……?」
月花 柘榴
「これで、たぶん、いろいろいっしょに行動できる……んだよな?」
月花胡桃
「私、騎士団でも寂しかった。知ってる人がいなくて」
月花胡桃
「でもざくろちゃんが来てくれた。睦美もいる……」
月花胡桃
「……私、頑張る。今度はちゃんと、能力の使い方を間違えない」
上杉睦美
「騎士団に属するからには、素行にも分別が求められる」
上杉睦美
「みっともないわ。続きは家でやりなさい」
チェーザレ・アルバーニ
「さて、では話は以上ですかな」
月花胡桃
「せっかくだし、礼拝堂を見ていかない?」
チェーザレ・アルバーニ
「当初、アナタは言っておられましたな。“聖イシドールス”の処分は、降格が妥当だと」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタはこちらに来てもう二年になるが……」
チェーザレ・アルバーニ
「まだ久代支部のやり方が抜けていないようだ。それに、友人への手心が透けて見える」
チェーザレ・アルバーニ
「もとより処分など、不要なのですよ」
チェーザレ・アルバーニ
「そんな裁定は、何の利益も生みません。“聖イシドールス”にはこれからももっと働いて頂くべきなのです」
チェーザレ・アルバーニ
「彼女の情報が秘匿されていることは、我々にとっても都合がよかった。他へ示しをつける必要がない」
チェーザレ・アルバーニ
「全ては予定通りです。報告書の書き方を、少し工夫するだけです」
チェーザレ・アルバーニ
「アラミタマの発生をいち早く察知した我ら聖堂騎士団は3名の同志を派遣。これによってアラミタマの討伐に『成功』した」
チェーザレ・アルバーニ
「“特対”程度なら、この程度のあらすじで誤魔化せるでしょう」
チェーザレ・アルバーニ
「この程度の詭弁すら通せないのならば、アナタは“騎士長”止まりなのでしょうな」
チェーザレ・アルバーニ
「新たな手駒が入りました。が、あれはこの都市にはあまり向いていないようだ」
チェーザレ・アルバーニ
「外聞のために、地方でモノノケとアラミタマの退治に勤しんでいただきましょう」
月花胡桃
「清浄さっていうのかな。実際、ここには強い結界が張られてるんだって」
月花 柘榴
「……清浄さ……なんか、いていいのか不安になってくるな……」
月花 柘榴
「……そっか、聖堂騎士団入ったから、なんかそういう……祈りとか? 覚えないと……?」
GM
ステンドグラスに囲まれた檀上。柘榴の隣に立つ。
月花 柘榴
「"病めるときも、すこやかなるときも"」
月花 柘榴
「…………なんだったっけ。……貧しいときも? ……えっと、そうじゃないときも」
月花胡桃
「……“富めるときも、貧しきときも”?」
月花 柘榴
「ずっといっしょにいることを、誓います」
GM
二人の手が触れ合う。ステンドグラスから差し込む光が、二人を照らす。
月花 柘榴
「いつかあんたもやるんだよって、言われてて」
月花 柘榴
「好きな人とやるやつだって、教わったから」
月花 柘榴
「いっぱいはなして、いっぱい、いろんなことして」
GM
だが、この力がなければ、彼女は妹を守れなかったのかもしれない。
GM
あるいは、妹に置き去りにされていたのかもしれない。
GM
その力は今では、人に、組織に、世界に、大事な人に肯定されている。
GM
これからは、新たな場所で、二人の幸せのために。
辰巳 悠希
冬も終わりが近づいているとはいえ、この時期は未だ冷え込む。
辰巳 悠希
滑るアスファルトの上を、時折チェーンを巻いた車たちがゆっくりと通り過ぎてゆく。
辰巳 悠希
田舎道に、一台の自販機がぽつんと佇んでいた。
辰巳 悠希
車の通りはまばらで、多くの車たちは、その存在を気にも留めない。
辰巳 悠希
けれど、時折だれかの役に立つ時もある。
辰巳 悠希
ドアを閉じて、財布を取り出しながら自販機に近付く。
辰巳 悠希
これは現金しか使えない自動販売機だ。
何度か利用したことがあるから、知っている。
辰巳 悠希
確か硬貨を持っていない。紙幣を崩さないといけないだろう。
辰巳 悠希
自販機に向き合って、気が付く。
しばらく見ない間に、自販機は電子マネーに対応していた。
辰巳 悠希
変わらないものはないんだな、なんて思いながら、財布をしまいつつスマホをかざす。
辰巳 悠希
蓋を開けて一口、二口。
飲みながら周囲を見る。
辰巳 悠希
車を停めた理由。
モノノケの気配がある。
辰巳 悠希
──悠希は『明くる日の“再誕” 』を倒した後も、カミガカリを続けていた。
フツミタマに願ったことで、もう記憶障害は引き起こされない。
辰巳 悠希
普通の仕事をして、普通の家庭を築き、普通に死ぬことは、夢ではない。
辰巳 悠希
変わることもあれば、変わらないこともある。
辰巳 悠希
自分のような子供を増やしたくない、という気持ちは変わらないし。
辰巳 悠希
柘榴のような子供がいれば、一人にしたくないとも思う。
辰巳 悠希
カミガカリを続けることは、全く嫌ではないのだ。
辰巳 悠希
それに、今更普通の仕事で家族を養っていける自信もない。養育費というのは結構かかるものなのだ。
辰巳 悠希
出血もなく、記憶の喪失もなく、周囲にはモノノケの躯が転がる。
辰巳 悠希
自分は間違いなく人間で、龍脈保有体で。
辰巳 悠希
化け物を滅ぼす者──破神伝承者なのだと。
辰巳 悠希
コテージの駐車場に車が停まる。
悠希は買い物袋を抱えて車を下りた。
GM
エントランスを抜け、扉を開ければ、そこには大きなリビングルームがある。
GM
中の景色は穏やかだった。壁面と床の木目が、部屋に温かみを持たせている。
GM
部屋にはファブリックのソファ。そこで悠希を出迎えたのは……
辰巳 悠希
「途中でモノノケを見かけたから、倒してきた」
辰巳 悠希
「動けるって言っても、人間は死にかけでも結構動けるから……」
辰巳果子
つい先日まで目を見張らんばかりに膨らんでいたお腹も、今ではすっかり凹んで。
辰巳果子
「やばい時はちゃんと頼るっての。今までもそうしてきたろ」
辰巳 悠希
「それはそうだが……」
若干おろおろとしながらも、強くは止めない。
辰巳果子
「お前こそどうなんだよ。モノノケと戦ってきたんだろ」
辰巳果子
「そういうことなら、リビングの掃除でも頼もうかな」
辰巳 悠希
果子の側に行き、手伝おうとスタンバイする。
辰巳 悠希
「自分が人であろうとすることを止めない限り、心は人間なんだ」
辰巳 悠希
「いい言葉じゃないか。恥ずかしがる必要なんてない」
辰巳果子
「死ぬ覚悟キメてたから、全部吐き出すつもりで言ったけど」
辰巳果子
「くっそ。そういうとこは忘れてもいいんだぞ」
辰巳 悠希
「そういうのは絶対に忘れないようにする」
辰巳 悠希
「これからも恥ずかしい言葉は全部忘れないようにしよう」
辰巳果子
「アレからどうにも……弱くなったっつーか」
辰巳果子
「お前の前だと感情が出やすくなっていけねえ」
辰巳果子
「……私だって、いつの悠希も愛してるよ」
辰巳 悠希
落ち着いたら家に招待する、という約束。
辰巳 悠希
果子も大分元気になったので、連絡を取ったのだ。
辰巳果子
「あの時とは道も景色も違うからな。迷わなかった?」
三善清次郎
「ん、だいじょぶだいじょぶ、調べてきたから。でも1年でこんなに綺麗になってるとは思わなかった」
辰巳 悠希
「本当は、別荘地なだけあっていい所なんだ」
三善清次郎
「これはイザンナちゃんのおかげだな~」
逆月衣織
「……直接の縁がないのは、僕ぐらいのものだろう」
イザンナ
1年前と同じ顔。
異なるのは、露出度が減ったくらいだろうか。
辰巳果子
「……直接ここに来るとは思わなかったよ。外の景色まだ見てないだろ」
イザンナ
「おお、そうだ。彼はな、私のパートナーで……」
辰巳 悠希
「いや、イザンナのパートナーなら歓迎だ」
辰巳 悠希
「辰巳悠希です。イザンナには……世話になっています」
三善清次郎
「おにーさんが三善です。よろしくね~」
逆月衣織
「……連盟の理論者、逆月衣織だ。突然押しかけて申し訳ない……」
辰巳 悠希
「いえいえ。なんとなく無理やり連れてこられたのは分かりますから」
三善清次郎
あんなちっちゃくて理論者か~!なるほどな~!
イザンナ
「教会のはまだ来ておらぬのか?……ふむ、少し早く来たからなぁ。」
フェアリー・ブルダン
「ど、どうも、失礼いたします。あ、これはつまらないものですが」
マリア=ロドリーゴ
「…………」腕を組んで立っている。
月花 柘榴
「うわーーーっめちゃめちゃきれーになってる!」
マリア=ロドリーゴ
じろじろと悠希の顔を見ている。
月花胡桃
「……そう、最初はこんなにきれいな家だった……」
月花胡桃
「戻すの、大変だったでしょ。ごめんなさい……」
マリア=ロドリーゴ
「お前は間抜けな顔になったな」
フェアリー・ブルダン
「……皆さん、お元気そうでよかったです」
マリア=ロドリーゴ
「デリカシーはありそうになった」
辰巳 悠希
前そんなにデリカシーなかったかな?
なかった気するな……。
イザンナ
「おう、そっちの赤いのが聖モニカ。大人しそうなのが聖ヴェロニカ。」
フェアリー・ブルダン
マリアと自分の靴を並べて家に上がる
イザンナ
「ああ、そうだ。これはワタシのパートナーのイオリだ。」
フェアリー・ブルダン
「?よろしくおねがいします」
マリア=ロドリーゴ
「おう。前にチラッと聞いたかな……」
月花 柘榴
「パートナー力なら負けないぞ! パートナーバトルでしょうぶだ!」
辰巳果子
「うちのパートナーは強いぞ!最近常識を覚えてきた!」
辰巳 悠希
「ちょっと待て!俺一人だけ大人だろ!」
辰巳果子
「言われてみればそうだ。全然気づかなかった」
マリア=ロドリーゴ
「どういう基準で行われる何なんだよ」
三善清次郎
「イザンナちゃんは大人とか子供とかとちょっと違うからね~」
イザンナ
「なに、子どもあつかいすると怒るでな。」
三善清次郎
「……もしかしてなんか、複雑なやつ?」
三善清次郎
「あんまり……なんか、無茶なことさせちゃだめだよ……」
月花胡桃
「人が多い場所で、ざくろちゃんがこんなに喋るのは珍しい」
辰巳 悠希
客人にソファーを勧めつつ、お茶などを用意している。
三善清次郎
「そういえば柘榴ちゃん、なんか……背、伸びた?」適当を言っている。
月花 柘榴
「…………生死をともにしたやつたちだから……」
マリア=ロドリーゴ
茶を用意する悠希の姿を眺めている。
辰巳 悠希
「そうだな、俺達カミガカリ友達だからな」
月花 柘榴
「くるみとはおなじくらいだとおもう!」
マリア=ロドリーゴ
見たこともないような笑顔だな……
三善清次郎
「のびたのびた。胡桃ちゃんも大きくなった」
マリア=ロドリーゴ
見たこともない笑顔と言えば、柘榴もだが。
月花胡桃
「このまえ測ったら、伸びてなかった…………」
月花 柘榴
「…………健康診断サボったからわかんない……」
三善清次郎
「ほんと、ふたりも元気そうでよかった」
マリア=ロドリーゴ
「あいつ本物もあんな感じなのか?」
月花胡桃
「今、騎士団で私とざくろちゃんの上官してる」
イザンナ
「よかったなぁ。近くに仲間がいることは心強かろう。」
フェアリー・ブルダン
「それって、どういう……?」
三善清次郎
「ムツミちゃんって、……本読んでた子?」
月花胡桃
「これ言って、みんなの反応を後で教えてって言ってた!」
マリア=ロドリーゴ
手をわやわや動かして混乱と感情を表現しようとしている。
マリア=ロドリーゴ
いやまあ……そういうこともあるが……
マリア=ロドリーゴ
というか……姿を見せない情報専門の騎士長が……
マリア=ロドリーゴ
「そういう反応を面白がるために正体を明かすか!?」
フェアリー・ブルダン
「あの人のこと、全然わからなくなってきました……」
三善清次郎
会ってみたいな~、というのは流石にまずいと判断した。大人なので。
イザンナ
「しかし……あれから1年か。変わったものも少しはあろうが……」
イザンナ
「皆が皆のまま集えたことは嬉しいものだなぁ」
マリア=ロドリーゴ
「一年前……ここの上の階でアラミタマと対峙した時は」
マリア=ロドリーゴ
「こういう風にできるとは思ってなかった」
三善清次郎
「うんうん。イザンナちゃん良いこと言うなあ」
辰巳 悠希
「完全に世界の終わりみたいな気持ちになってた」
イザンナ
「あの時はイオリも死にそうになっておったなぁ」
マリア=ロドリーゴ
「お前が苦労してそうってのは分かる」
三善清次郎
「いやあ、1年前もすごかったからな、イザンナちゃんは」
イザンナ
「痛みを和らげてくれたのはそこのミヨシだ。」
逆月衣織
「……元はといえばお前が無茶するから……」
辰巳 悠希
イザンナがパートナーを気遣っている……。
フェアリー・ブルダン
三善さんが逆月さんの痛みを和らげたってどういう意味だろう?
三善清次郎
なんか良く分からないけどお礼言われたから……
イザンナ
「クロイツもよろしくと言っておったな。出す顔はないとも言っていたが……まあ。」
マリア=ロドリーゴ
「…………そういえばあれ喋ってたな」
マリア=ロドリーゴ
そういう……なんか……意志がある感じのものだって認識してなかったな……
辰巳果子
「あー、喋ってた喋ってた。あの時だれかちゃんとツッコミ入れた?」
マリア=ロドリーゴ
「そういう空気じゃなかった……」
フェアリー・ブルダン
しゃがんで二人に視線を合わせる。
辰巳 悠希
何やらリサと胡桃に注目が集まっているので、そちらを見た。
辰巳果子
「ああ、一年前のこと?それで気にしてたんだ?」
イザンナ
「聖モニカなど、穴だらけにしおったぞ?」
フェアリー・ブルダン
「そうですよ。あれが一番痛かったんですから」
イザンナ
「調べた時、それ以外は特に大きな外傷もなかったが?」
フェアリー・ブルダン
「気にしてません。せっかくお呼ばれしたんですから、楽しみましょう」
辰巳 悠希
「そうだな、いじめるために招待したんじゃなくて、仲良くなりたくて招待したんだ」
月花 柘榴
「人生で一番怖かったよね、"聖ガブリエル"」
三善清次郎
ヤバい名前だということだけがはっきりわかる。
辰巳 悠希
ガブリエルって偉い天使じゃなかったか?
三善清次郎
えらい天使だし、めちゃえらい聖人の名前だなあ
イザンナ
「怒られて、そこに立っているという事はな」
イザンナ
「立つことを、許されているという事だ。」
月花 柘榴
「でもおかげでくるみの護衛になれた!」
マリア=ロドリーゴ
「いいようになったんなら、よかった」
月花胡桃
「あのときのざくろちゃん、かっこよかった」
フェアリー・ブルダン
「あああああ、ごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「シスター・テレサが“聖カタリナ”を同席させると言ってたから……」
フェアリー・ブルダン
「すいません……すいません……」
月花 柘榴
「殴り合っても絶対勝てないし、あたしあんま喋るのうまくないから……」
三善清次郎
「……まあ、でも。柘榴ちゃんと胡桃ちゃんが仲良くやれててほんとによかったな」
三善清次郎
「柘榴ちゃん、ずっと胡桃ちゃんのこと心配してたから」
月花 柘榴
「くるみもなでて、ほら、あたしだけだとアレだろ」
イザンナ
「ふたりを苦しめるやつは。力が戻ったら、消し炭にしてくれる!」
辰巳 悠希
胡桃の方を見る。
「撫でても大丈夫か?」
辰巳果子
「あの時は、子供たちの国だったけど……」
辰巳 悠希
柘榴と一緒に胡桃を撫でている。わしゃわしゃ。
辰巳果子
「今となっちゃ、すっかり大人の場所だな」
イザンナ
「おう、ザクロとクルミも大人の仲間入りか?」
三善清次郎
1年前も、2年前も思いつめた顔ばかりしていた柘榴の笑顔に頬が緩む。
マリア=ロドリーゴ
「つっても、子供のために買った家なんだろ」
三善清次郎
「あ、そうだそうだ、じゃあ、これ」辰巳に大きめの紙袋を手渡す。
イザンナ
「ふふん……ワタシも何か作るぞ?何がいい?武器か?」
三善清次郎
無難にふわふわのタオルとか、ブランケットとか、そういうやつの詰め合わせだ。
三善清次郎
「辰巳おにーさんもしっかり家庭守っててえらい!」
三善清次郎
「おっと、ごめんごめん。じゃ、行こうか。お姫様見に」
辰巳 悠希
「イザンナ、とりあえず手を出してくれ」
三善清次郎
大人しく両手を出す。煙草はここ二三日吸ってないぞ。
三善清次郎
「最近はそういうのにも使うらしいね~」
マリア=ロドリーゴ
大人しく消毒されて手を揉んでいる。
逆月衣織
戸惑いつつ続く。「自分も……?」という顔
辰巳 悠希
「どうかな、ちゃんと父親やれてたらいいけど」
辰巳 悠希
2011年3月29日、父の心臓を喰らったあの日から。
辰巳 悠希
こんなに幸福で、心から笑える時が来るとは思わなかった。
辰巳 悠希
ふと窓の外を見ると、はらりと白いものが過る。
辰巳 悠希
──雪は美しいが、災厄しか持ち込まない毒婦だ
辰巳 悠希
以前は冒頭しか思い出せなかったが、今なら全文思い出せる。
辰巳 悠希
子供の頃の、ちょっぴり恥ずかしい思い出。
辰巳 悠希
これは、恋と出会いと、変化の詩だった。
辰巳 悠希
──君の姿が美しいばかりに、僕はこんなにも判断を間違える
辰巳 悠希
自分が望むことを止めない限り、希望はあるから。
GM
だから彼らは、祝福と共に生まれ、祝福と共に死に、人々の明くる日を祝福する。
GM
武装伝記RPG『神我狩』──モノプレイシナリオ『在りし日のリバース、明くる日のリバース』