エンディング

[ マリア=ロドリーゴ ] 生命力 : 0 → 1
[ 三善清次郎 ] 生命力 : 0 → 1
[ 月花 柘榴 ] 生命力 : 0 → 1
イザンナ
「…………ありがとう」
マリア=ロドリーゴ
「ッは……」
GM
魔境の景色が砕けた。
GM
果子もまた、ぐったりと壁にもたれかかった。
三善清次郎
「っ、えほっ、は……おぇっ、」
イザンナ
それは、自分でも。
何に対してかわからない言葉。
辰巳 悠希
「果子!」
辰巳 悠希
駆け寄る。
イザンナ
ただ、礼を言わなければならないと、思った。
明くる日の“再誕”
「……お疲れ、みんな」
月花胡桃
「みんな!」
辰巳 悠希
「果子、果子……」
三善清次郎
呼吸が戻る。酸素を求めて喘ぐ。
マリア=ロドリーゴ
膝に力を込め、よろよろと立ち上がる。
明くる日の“再誕”
「……はー…………」
イザンナ
膝をつき、崩れ落ちた泥を掬って。
三善清次郎
這うように起き上がり、血でぼやけた視界で状況を確認する。
イザンナ
もう二度と、目覚めない様に。
黒い炎でそれを燃やす。
明くる日の“再誕”
「大丈夫、生きてるよ」
GM
ふう、と息を吐き出す。
GM
死ぬほどの痛みと苦しみに押しつぶされているはずなのに、彼女はそれでも笑顔を作る。
三善清次郎
保つわけがない。
明くる日の“再誕”
「あー、ちくしょ。人生、これからだったのに」
辰巳 悠希
「果子……」
GM
その笑顔は歪み。
明くる日の“再誕”
「生きたかったなあ……」
辰巳 悠希
「死ぬな、果子」
明くる日の“再誕”
頬から、涙が溢れる。
マリア=ロドリーゴ
「……」
三善清次郎
そんな体で人間が生きていけるわけがない。
GM
情報⑬:果子の状態
アラミタマは間もなく滅びる。クシミタマが現れようとしている。
腹の中の子供はアラミタマそのものと化しており、アラミタマと共に消える宿命だ。
果子の霊魂もまた、アラミタマの霊力によってアラミタマへと変異しつつある。
たとえこれを引き剥がすことが出来たとしても、今の果子の傷で脆弱な人間の体に戻ることは、もはや死と同義だ。
すでに世界はその因果を正史として認めている。それゆえに、時間を逆流させてもやがて果子はアラミタマへと至る。再誕によって因果が繰り返された事により、アラミタマと二人の霊魂の繋がりは、より一層強まってしまった。
カミガカリに現状を打破する力はない。概念を壊すカミガカリでも、全てを覆す都合の良い舞台装置にはなり得ない。
君たちは、“神”でも“悪魔”でもないのだから。
イザンナ
「う……うう…………」
GM
──3月7日 23:59 コテージ・屋根裏──
GM
清次郎の手に、霊紋が見える。
GM
クシミタマが現れた。
三善清次郎
理解する。恨み事を吐く時間はなかった。
三善清次郎
「Verweile doch, Du bist so schön……」
GM
情報⑭:大悪魔との賭け
清次郎の右手、悪魔の指先が触れていた場所。そこに霊力を込めると、うっすらと黒い魔法陣が浮かぶ。
特定の合言葉を鍵として、クシミタマの奇跡を消費した何らかの術を発動する仕組みのようだ。
三善清次郎
一言一句。
三善清次郎
日本語ではなく、英語でもなく、フランス語でもなく。
三善清次郎
大悪魔の発したそれとおなじに唇が諳んじる。
GM
来たる日の“恋人”
察知:不要
強度:10
必要人数:なし
消去:なし
対象:地域
特殊ダメージ:なし
ペナルティー:なし
その他の影響
A:なし
B:なし
限定的な状況下でのみ効力を発揮する[法則障害]。
クシミタマとPC⑤の霊力によって、現実に干渉するほどの強力な幻術を生み出し、絆を断ち切り、天使を喚び寄せ、傷を癒やすことができる。
これによってアラミタマの魂の契約を無効化し、喚ばれた天使はアラミタマを連れ去り、癒やしの奇跡によって罪なき母子を死から遠ざける。
つまり、果子と子供を救い、アラミタマだけを安らかに召すことができる。
生命に干渉し、理に干渉し、都合のよい結果だけを招く、悪魔的な黒魔術であるが、術式を記したのは果たして何者なのか。
わかるのは、術者はPC⑤であり、発動に用いられたのはPC⑤の霊力とクシミタマであり、もたらされた奇跡は天使によるものであり、この術式を書いたものは法則障害の発動に関わってはいない──つまり、“自らの力を用いてはいない”という事だけだ。
三善清次郎
彼女の言葉なら、ひとつひとつちゃんと、覚えている。
三善清次郎
――わからなかった。確信は何もなかった。
三善清次郎
相変わらず、彼女のことはなにもわからない。
三善清次郎
意図も意味も、わかりゃしない。
三善清次郎
所詮はどこまでも勘違い。思いこみ。曲解。そうであるはずで。
三善清次郎
……だからこれは、やっぱり、期待。
三善清次郎
「…………」
マリア=ロドリーゴ
コテージの中、場違いに紡がれた言葉に目を向ける。
GM
その言葉と同時に、魔法陣が光り輝く。
マリア=ロドリーゴ
「おい、ライター、今──」
GM
歌声と共に、空から舞い降りたのは──
GM
げに美しき、天使たちであった。
GM
──3月7日 23:59 コテージ付近──
メフィスト・フェレス
「おや、おやおやおやあ?」
メフィスト・フェレス
「おかしいなあ、まさかそんな!」
メフィスト・フェレス
白々しい道化が、心のこもらない悲鳴をあげる。
メフィスト・フェレス
「あたしのメモが……ちょっとした悪戯で組んだだけの式が……」
メフィスト・フェレス
「“偶然にも”誰かに拾われて、“なぜだか”ロックも暴かれて、“勝手に”使われてしまうだなんて!」
GM
悪魔が空を見上げ、頭を抱える。
GM
コテージへと白い光が降りてゆくのが見えた。
天使
「み使よ、天の族よ。
罪びとを赦し、
塵にいのちをあらしむべく
ゆるやかに天翔り来よ。
徐ろに列をなし、
漂い浮びつつ、
なべてのものに、
やさしき痕をとどめよ」
天使
「眼に眩き、
かぐわしき薔薇の花よ。
浮々と漂いて、
密やかに蘇らせ
小枝を翼とし、
蕾より咲き出ずる薔薇の花よ、
急ぎ花咲け。
春よ、紅の花よ、
緑の葉よ、萌え出でよ。
憩える人に楽土を齎せ」
天使
「浄らかなる花と
悦ばしき炎は、
心の求め願う
愛を広めて、
歓楽を生ぜしむ。
真理の詞は、
澄める大気の中に、
不死の群に、
到るところに光明を与う」
天使
「愛の炎よ、
澄み渡る方へ
向えよかし。
真理よ、
おのれを呪う者を救えよかし。
かくてめでたく
悪より逃れて、
ものみなと睦みて、
浄福を享くべく」
天使
「聖なる炎よ。
この炎に取囲まるる者は、
この世にありて善き人と共に、
さきく過ごさむ。
諸共に起ちて、
称えよ。
風は清らかなり、
霊よ、安かれ」
メフィスト・フェレス
「……忌々しい姿を見た。どっこい、なかなかそそる光景だ」
メフィスト・フェレス
「綺麗な顔に、いい尻をしたやつらだ。あの日、あたしに色目を使ってファウストのダンナの霊魂を掠め取ったコソ泥どもだけど」
メフィスト・フェレス
「こうして見ると……憎めない」
メフィスト・フェレス
「主様。どうです。賭けは今回もあたしの勝ちだ」
メフィスト・フェレス
「そいつらの魂は差し上げましょう。そっちで存分にこき使ってやって下さい」
メフィスト・フェレス
「あたしは屍に用などありません。猫が生きた鼠を求め、死んだ鼠に興味がないのと同じです」
GM
遥か彼方、人の目には目視できないほどの遠く。
GM
メフィストは高い高い天を見上げている。
メフィスト・フェレス
「……にしても」
メフィスト・フェレス
「面倒な縛りですよ。自分の力を使わずに……って」
メフィスト・フェレス
「やれ手助け一つするのにも、えらい手間がかかるもんだ。“機械仕掛けの神様”とやらも楽じゃあない」
メフィスト・フェレス
「まあ、我々の尻拭いとしちゃあ、出来るのはこんなもんでしょう。ダンナ、お疲れ様でした」
メフィスト・フェレス
「まったく。今回はとんだ骨折り損だ」
GM
GM
GM
GM
果子は倒れる。
GM
その姿はアラミタマのそれではなく、体には傷もなく、腹も膨らんではいない、ただの14歳の少女であった。
GM
子供は消えた。あるべき因果に従って、再び訪れる未来、その時にきっと生まれてくるだろう。
辰巳 悠希
「果子……」
辰巳 悠希
「果子、果子……」
辰巳 悠希
その体を抱きしめる。
辰巳果子
「……っ」
辰巳果子
「なにが、あった……?」
マリア=ロドリーゴ
「こいつは……」
三善清次郎
「……わっかんない」
マリア=ロドリーゴ
「おいライター、今何しやがった!」
マリア=ロドリーゴ
襟首を掴む。
月花 柘榴
「…………っ、う」
辰巳果子
「……わかんねえ」
辰巳果子
「わかんねえ、けどっ」
辰巳果子
「……生きてる……!!」
辰巳 悠希
「生きてる、生きてる!」
三善清次郎
「わかんない!しらない!けどねえ!俺はなんか!なんか………負けたの!!!」
辰巳 悠希
「果子が、生きてる!」
辰巳果子
「…………ううっ」
辰巳果子
「…………怖かった」
マリア=ロドリーゴ
「ああっ? 何言って……」
辰巳 悠希
「うん」
イザンナ
「…………」
辰巳果子
「怖かったぁ~~~~!!!!!」
月花 柘榴
ようやく起きる。身を起こせずに、仰向けになる。
辰巳 悠希
「俺も、怖かった……」
マリア=ロドリーゴ
手を離した。
月花 柘榴
「…………生き、てる」
月花胡桃
「ざくろちゃん!ざくろちゃん!」
月花 柘榴
「……よかった」
イザンナ
燃えさしになった泥を、放して。
涙のようなものを、拭って。
月花胡桃
「今、なおすから、なおすからっ」
月花 柘榴
「は、……あはは」
月花 柘榴
「さすがに、死ぬかと思った……」
月花胡桃
「うああ~~~ん!」
三善清次郎
「……治すから、治すからちょっと、ちょっと待って……」
イザンナ
「……まったく。」
月花胡桃
「手、手足……とってこなきゃ……」
イザンナ
「騒がしくてならんなぁ。」
月花 柘榴
「あー」
月花 柘榴
「だいじょうぶ」
辰巳 悠希
果子を抱いて、泣く。
大声で、子供のように。
三善清次郎
あらゆるものがどっと襲いかかってくる。
月花 柘榴
細い触手が伸びて、手足と胴体がつながる。
マリア=ロドリーゴ
抱き合う少年少女──夫婦を一瞥し、
マリア=ロドリーゴ
立つ魔王と三善、それから柘榴と胡桃を見回して。
イザンナ
指輪を拾ってはめる。
三善清次郎
指輪を拾ったイザンナの背中を叩く。
イザンナ
「なんだ?」
マリア=ロドリーゴ
「“聖ヴェロニカ”を回収してくる」
マリア=ロドリーゴ
取って返して出ていこうとする。
三善清次郎
「危うく騙されるとこだった」
イザンナ
「うむ、この場は任せろよ。」
辰巳果子
悠希に抱かれ、泣く。
大声で、子供のように。
イザンナ
「何がだ?」
月花胡桃
「ざくろちゃん」
三善清次郎
「辰巳くんをいじめてんだって思ったけど、違ったでしょ」
イザンナ
「……ん?」
イザンナ
「我は、面倒な役を押し付けただけであるが。」
月花胡桃
「やっぱり人間には見えないね、ざくろちゃん」
月花 柘榴
「……うん」
三善清次郎
「なーにが”ワタシの為に”だよ」
月花胡桃
「でも……お陰でざくろちゃんが生きてて、手足が残ってる」
月花胡桃
「ざくろちゃんが“こう”で、よかった」
月花胡桃
「ありがとう、助けてくれて」
イザンナ
「皆が帰りを待っておるでなぁ」
イザンナ
「ここで不完全なまま死ぬわけにはいかぬのだよ。」
月花 柘榴
「……でも、あたしは人間だって」
三善清次郎
肩を竦める。
月花 柘榴
「果子が」
月花胡桃
「うん」
月花 柘榴
「……でも、そうだな」
マリア=ロドリーゴ
早足で、同僚を伴ってシスターが戻ってくる。
月花 柘榴
「姿が醜くても、力がある」
月花 柘榴
「だから」
月花 柘榴
「これで、よかった」
月花胡桃
「うん!」
フェアリー・ブルダン
「……みなさん、すいませんでした。お役に立てず」
マリア=ロドリーゴ
背中を乱暴に叩く。
イザンナ
「よいよい。」
三善清次郎
「あっ、おねえさんの頭もくっついてる」
フェアリー・ブルダン
「痛い!」
マリア=ロドリーゴ
「次はちゃんと連絡してから行け!」
イザンナ
「あちこち触ってすまなかったなぁ」
三善清次郎
「よかったよかった」
フェアリー・ブルダン
「はい、ごめんなさい、ごめんなさい」
月花 柘榴
「よかった」
月花 柘榴
「毒でめちゃくちゃにしてごめん」
マリア=ロドリーゴ
「それぐらいいい薬だ」
フェアリー・ブルダン
「いえ……私になにも文句を言う権利などないのです……私が至らないばかりに……」
マリア=ロドリーゴ
「いいか、マジで今度は勝手に抜け出すのは許さねえからな」
フェアリー・ブルダン
「はい」
マリア=ロドリーゴ
「さっきみたいに縛り付けるぞ」
イザンナ
「ヒヒヒ」
フェアリー・ブルダン
「は、はい……」
月花胡桃
「……わたしも」
月花胡桃
「ちゃんと騎士団に戻って、罰を受けなきゃ」
月花胡桃
「みんな、ほんとにごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「ああ」
イザンナ
「うむうむ。」
イザンナ
「友は大事にしろよ。」
月花胡桃
「…………うん」
マリア=ロドリーゴ
「詳細な報告はこっちでもする」
マリア=ロドリーゴ
「……したことがしたことだからな」
マリア=ロドリーゴ
「どうなるかは分からないが」
イザンナ
「あまり責めてくれるなよ。」
マリア=ロドリーゴ
「柘榴、お前も来るか。証言はあった方がいいだろう」
月花 柘榴
「行きたい」
マリア=ロドリーゴ
「おう」
月花 柘榴
「くるみのこと、あたしが知らないの、やだもん」
三善清次郎
「……胡桃ちゃんも、柘榴ちゃんが頑張ってたこと、知ってくれてよかったよ」
月花胡桃
「……ざくろちゃんが居てくれるなら、私もうれしい」
イザンナ
「2人に何かあれば、我はこちらにつかねばならぬでな。」
マリア=ロドリーゴ
「“聖イシドールス”には、異界の魔王がついてるとでも言っとくよ」
イザンナ
「ヒヒヒ」
フェアリー・ブルダン
「……あまりひどい目にあうことはないと思います。騎士団にとっても彼女の力は重要ですから」
三善清次郎
「それ大丈夫なやつ……?」
マリア=ロドリーゴ
「だからこそ、秘密にしてきたわけだからな」
月花 柘榴
「ちゃんと見るまでは安心できないなー」
月花 柘榴
「なにがなんでも一緒にいってやるからな」
月花胡桃
「……うん」
フェアリー・ブルダン
「皆さん、“聖イシドールス”のことはどうか他言無用で」
マリア=ロドリーゴ
「そうだぞ」
イザンナ
「……なれば、なぁ。」
イザンナ
「我にも対価をよこせよ。」
月花 柘榴
「なにがほしいの?」
三善清次郎
「はいはい。でかい組織にゃ逆らいませんて」
イザンナ
「友達になろう。」
マリア=ロドリーゴ
「あ?」
フェアリー・ブルダン
「!」
イザンナ
「難しい事じゃないだろう?」
マリア=ロドリーゴ
身構えていた女は、一転して怪訝な顔になる。
イザンナ
「ふふん」
マリア=ロドリーゴ
「お前の“友人”の定義によるが……」
月花胡桃
「私も?」
イザンナ
「うむ」
三善清次郎
「俺は?」
イザンナ
「うむうむ」
月花胡桃
「あんなにひどいことしたのに?」
イザンナ
「そうだ。」
月花胡桃
「……じゃあ、うん」
月花胡桃
「ともだち」
月花 柘榴
「……ともだち」
イザンナ
「……友達だ。」
マリア=ロドリーゴ
両手を上げた。
マリア=ロドリーゴ
「他言無用だからな」
イザンナ
「友の頼みだ。聞こうではないか。」
フェアリー・ブルダン
「わ、私は、マリアがいいなら……」
イザンナ
「代わりに……」
マリア=ロドリーゴ
脇腹をつついた。
イザンナ
「手が必要な時は、呼べよな。」
月花 柘榴
「……ん」
フェアリー・ブルダン
「ひゃ!」
マリア=ロドリーゴ
「ああ」
マリア=ロドリーゴ
「お前のおかげで、今回も助かった。……この馬鹿のこともな」
マリア=ロドリーゴ
脇腹をつついている。
イザンナ
「ヒヒヒヒ」
三善清次郎
「……じゃ、今度ゆっくりお茶でも行きますか」
月花 柘榴
「ひとりじゃ倒せないやつもいるんだよなーって、思った」
月花 柘榴
「だから」
月花 柘榴
「やばそーなとき、呼ぶな」
月花 柘榴
「ちゃんと連絡する」
マリア=ロドリーゴ
「そうしろ」
イザンナ
「偉いぞ、ザクロ。」
辰巳果子
「……くくっ」
辰巳果子
「あははは!」
辰巳果子
「だってよ、悠希」
辰巳 悠希
「はは」
辰巳 悠希
「友達が増えたな」
辰巳果子
「嬉しいな」
辰巳 悠希
「ああ」
辰巳果子
「クシミタマ、何願う?」
辰巳 悠希
「もう決めてる」
辰巳果子
「聞かせて」
辰巳 悠希
一度柘榴の方を見て、微笑む。
辰巳 悠希
「カミガカリの力を使っても、俺の記憶が消えないように」
辰巳 悠希
「俺は人間だ」
辰巳 悠希
「親を殺しても、子供を殺しても、こんな姿になっても」
辰巳 悠希
「龍ではなく、人に近いこの姿」
辰巳 悠希
「中学生の時に好きだった、マンガの主人公そっくりなんだ」
辰巳 悠希
「龍の姿は、父親の姿を真似したものだった。
本当はどんな姿にも変身できたのに」
辰巳 悠希
「俺は、人間であろうとする努力をしていなかった」
辰巳 悠希
「自分が人であろうとすることを止めない限り、心は人間なんだ」
辰巳果子
「……そいつはいい。最高だ」
辰巳果子
「胡桃ちゃん」
辰巳果子
「君の法則障害は、忘れさせるだけじゃない」
辰巳果子
「こいつに大事なことを思い出させてくれたみたいだ」
月花胡桃
「…………うん」
月花 柘榴
「くるみはすごい!」
辰巳果子
「術が完全に解けるのはいつごろ?」
月花胡桃
「わからない……でも、きっと近い未来」
辰巳果子
「そっか」
辰巳果子
「……おなかの中に、ちょっと気配を感じる」
辰巳果子
「女の子だったら、悠果だったか?」
辰巳果子
「いい名前だ」
辰巳果子
「アラミタマがいなかったら死んでた子だ」
辰巳果子
「アラミタマが……繋いでくれた命だ」
辰巳 悠希
「え」
辰巳 悠希
「ええ!?」
辰巳果子
「これからも宜しく。私の旦那様」
辰巳果子
「この子と一緒に……幸せになろうな!」
辰巳 悠希
「……はは」
辰巳 悠希
「あはははは」
辰巳 悠希
「こちらこそよろしく。俺の奥さん」
辰巳 悠希
「この子と一緒に、幸せになろう」
イザンナ
「……ほう、よかったなぁ。」
イザンナ
「ならば……そうだなぁ。」
イザンナ
クシミタマに願う。
イザンナ
「……この枯れた霊脈を、大地を。元の清く美しい場所に。」
イザンナ
「モノノケたちが住処を追われぬよう。人がモノノケに脅かされぬよう。」
イザンナ
「皆が穏やかに暮らせるように。」
イザンナ
辰巳夫妻を見る。
イザンナ
「お前達家族のコテージが、良い住居に戻るようにな。」
辰巳 悠希
「ありがとう、イザンナ」
辰巳果子
「……マジで、ありがとう」
GM
クシミタマは応える。
イザンナ
「うむうむ。生まれたら連絡しろよな。」
辰巳 悠希
「全員に連絡する」
GM
よどんだ空気は僅かに晴れ、弱弱しく霊脈に再び霊力が巡る気配が感じられる。
GM
枯れた景色はすぐには戻らないが。
GM
かつての景色も、やがて取り戻されることだろう。
辰巳果子
「改めて、全員で連絡先交換だな」
辰巳果子
「でもって、復調したら遊びに誘っちゃう。来れる奴は来いよ」
辰巳 悠希
「ああ、ぜひ来てくれ」
三善清次郎
「もちろん、お祝い持ってくよ」
マリア=ロドリーゴ
「ああ……考えとく」
イザンナ
「うむ。」
月花 柘榴
「うん」
辰巳 悠希
「胡桃とブルダンもな」
フェアリー・ブルダン
「……はい」
月花胡桃
「う、うん」
メフィスト・フェレス
遠くで、一人の悪魔が笑う。
メフィスト・フェレス
テーブルに脈絡もなく突如下ろされた、都合のよい結末。
メフィスト・フェレス
人の覚悟を嗤う、デウス・エクス・マキナ。
メフィスト・フェレス
それを為したのは、果たして悪魔らしい気まぐれか、それとも人間らしい情ゆえか。
GM
主と悪魔の悪だくみによって、物語には一つの幕が下ろされた。
GM
GM
──3月8日 1:15 三善家──
GM
長い一日が終わった。
三善清次郎
疲れたやら安堵したやら、へろへろと夜道を歩いて自宅に帰り着く。
三善清次郎
――あの大悪魔。
三善清次郎
内心で毒づきながら、扉を開けて。倒れこむように中へ。
三善清次郎
当然、帰りを待つ者のない、真っ暗な部屋――
三善清次郎
の、はずなのだが。
メフィスト・フェレス
「おかえりなさい、ダンナ」
GM
部屋の明かりが点く。そこにはメフィストが居る。
三善清次郎
「おわっ!!!!!!!!!」
三善清次郎
ゆびさす。なんか、わやわやと手が動く。
三善清次郎
言いたいことがたくさんある。いや、そんなにはない。
三善清次郎
「きっ……み、おま、……」
メフィスト・フェレス
「見てましたよ、ダンナの雄姿」
三善清次郎
へなへなと玄関先に座りこむ。
三善清次郎
「ほんっと……」
三善清次郎
「悪魔みたいなことする……」
三善清次郎
顔を覆って。
メフィスト・フェレス
「お気に召していただけましたか?」
三善清次郎
「あのねえ!ほんとに大変だったんだよ!もうほんと、一回マジで死が見えて」
三善清次郎
「……」
メフィスト・フェレス
「ええ、ええ、見ておりましたとも」
三善清次郎
「酷い目に遭った……」
メフィスト・フェレス
「死者に囲まれ倒れたところなど、それはもう最高の見世物で!」
三善清次郎
「あああああああああ」
三善清次郎
「見せたくなかった!!!最悪!!!」
メフィスト・フェレス
「お許しください。賭けもあったんですから」
三善清次郎
「……初めから言っとけ!!とは、言わないけどさあ!」
三善清次郎
「でもなんか、もうちょっと……もうちょっと、あったでしょ、なんか……俺が高みの見物できるような……ないか……」
メフィスト・フェレス
「ダンナがダンナである限り、それは無理でしょう」
三善清次郎
「ああああ」
三善清次郎
「……そもそもメッフィーちゃん、俺に勝たせる気1ミリもなかったでしょ」
メフィスト・フェレス
「はい」
メフィスト・フェレス
「すみませんね。こちらも遠回しな方法を取る以外なかったものですから」
メフィスト・フェレス
「ダンナがわかりやすい方で助かりました」
三善清次郎
「なーにが!あたしは何でも一つ、ダンナの言う事を聞きましょう……だよぉ!」
三善清次郎
「ほんとにひどい!鬼!悪魔!」
メフィスト・フェレス
「あははは!」
メフィスト・フェレス
「……しかし葛藤しながらも前へと進んでいく姿、やはりダンナは人間でした」
メフィスト・フェレス
「どうです。まだやれますか」
三善清次郎
「……」
三善清次郎
「やれないって言うと思う?」
メフィスト・フェレス
「いいえ」
メフィスト・フェレス
「あたしがあたしである限り、ダンナはお断りにはならないのでは?」
三善清次郎
「分かってるなら訊くなよな~」
メフィスト・フェレス
「茨の道ですね」
メフィスト・フェレス
「アラミタマの屍で山を築き、その上を歩いてゆく覚悟をなさると」
三善清次郎
「俺の大事なお姫様がその道しか歩けないとおっしゃるので?」
三善清次郎
……
三善清次郎
流石に恥ずかしいこと言ったな。という、間。
メフィスト・フェレス
「……1000体ですよ」
メフィスト・フェレス
「間に合うと思いますか?」
三善清次郎
「ぜーんぜん」
三善清次郎
「ていうかさ」
三善清次郎
「俺、この賭け勝つつもりだったんだよ」
メフィスト・フェレス
「ええ」
三善清次郎
「……勝って、お願いしようと思ってた」
三善清次郎
「俺を人間じゃないものにして、って」
三善清次郎
「そしたら、なんか。間に合わなくてもさ」
三善清次郎
「もうちょっとくらいはいけるかなって」
メフィスト・フェレス
「……それはいけませんよ、ダンナ」
メフィスト・フェレス
「なぜいけないか、今回の事でよくお分かりになったでしょう」
メフィスト・フェレス
「いや。もっとずっと前から、ダンナは分かっておられるはずだ」
三善清次郎
溜息。
三善清次郎
「かなわないなァ」
メフィスト・フェレス
「事の本質は、知性の有無や体質などではないのです」
メフィスト・フェレス
「別のものへと至ろうとすることが、種として既に歪んでいるのですよ」
メフィスト・フェレス
「あたしはいろんなヤツを見てきた。けど、どいつも大抵ろくな末路にはならない」
三善清次郎
視線を上げる。……悪魔の笑みを見る。
メフィスト・フェレス
「人が人をやめることも、アラミタマが人へ至ろうとすることも、ばかげた事なんです」
三善清次郎
大悪魔の、笑みの浮かぶ頬をつねる。ちょっと強めに。
メフィスト・フェレス
「おわ」
メフィスト・フェレス
「ダンナ、何を」
三善清次郎
「そのばかげたことを成そうとしている大悪魔のために頑張るばかげた男に、何かご褒美があってもいいんじゃないですか?」
メフィスト・フェレス
「……」
メフィスト・フェレス
「そう、ですねえ……」
メフィスト・フェレス
「しかし賭けの勝者はあたしです。さて、どうしたものか」
三善清次郎
「そういえば、メッフィーちゃんが勝ったらどうするか訊いてなかったな」
メフィスト・フェレス
「特に何も考えてませんでしたからね。ああ、そうだ」
三善清次郎
つねっていた手を緩めて、むじむじと指先で触れる。
メフィスト・フェレス
郵便ポストに投げ入れられていたチラシを見せる。
メフィスト・フェレス
「ひとつ、デートというのは如何です?」
メフィスト・フェレス
その中の一枚、水族館を指さした。
三善清次郎
「……次のアラミタマ情報?」
メフィスト・フェレス
「…………」
メフィスト・フェレス
「それではターゲットの情報から行きましょうか!今回もなかなかの強敵でして!」
三善清次郎
「ああああああああああああ!!!!」
三善清次郎
両手を上げてお手上げのポーズ。
メフィスト・フェレス
「ですがね、ダンナ」
メフィスト・フェレス
「……アラミタマが出るのは、閉館後とのこと」
メフィスト・フェレス
「それまでのひと時は、ご一緒しようじゃありませんか」
三善清次郎
「……えっと」
三善清次郎
「…………」
三善清次郎
「……はい」
三善清次郎
いや高校生か?という自問が頭を巡ったが、もう考えないものとする。
三善清次郎
「ご一緒させていただきます……」
メフィスト・フェレス
「嬉しいお返事です」
メフィスト・フェレス
「これからもよろしくお願いしますよ、ダンナ!」
三善清次郎
「俺でよければ、喜んで」
三善清次郎
敵わない。叶わない。適わない。
三善清次郎
自分の期待など、それこそばかげたことだ。ずっとそう。
三善清次郎
それでもそのばかげたことを成し遂げようとする目の前の存在に期待をせずにいられない。
三善清次郎
「まあ、間に合わなくても、足しになれるなら頑張るよ」
三善清次郎
「心強い"お友達"もいっぱい出来ましたし~?」
三善清次郎
「前より効率上がるかもね、もしかしたら」
三善清次郎
「メッフィーちゃんのおかげで、優秀なカミガカリも一人死ななくて済むだろうし」
三善清次郎
「……ありがとね」
メフィスト・フェレス
「はて、何のことやら」
メフィスト・フェレス
「実に心強いお言葉をいただきました」
メフィスト・フェレス
「では狩っていただきましょう。何体も、何十体でも、何百体でも。情報であれば身を粉にしてお持ちして参ります!」
GM
これは、人に憧れた邪神たちの話。
GM
人間になりたい悪魔がいた。
GM
その悪魔には、お気に入りの人間がいた。
GM
有能な人間。
GM
愚かで、動かしやすい人間。
GM
……アラミタマなどに入れ込む、変な人間。
GM
悪魔と人間、アラミタマとカミガカリ、利用する側とされる側。
GM
薄氷の上の、危うい関係だった。
GM
違う時を生きる二人は、共に命を散らすことはないのだろう。
GM
悪魔はこれからも、人間に危険な仕事を押し付けて、命がけの仕事を続けさせる。
GM
その成果を人間が見る日は、きっと来ないというのに。
GM
離れられず、しかし近付きすぎれば破滅。
GM
そんな関係が今日も続いている。きっと明日も続いている。
GM
そして、また事件が起きればこの悪魔は現れて、「ダンナ」に微笑みかけるのだ。
GM
GM
◆エピローグ②:イザンナ◆
GM
──3月8日 1:32 工房──
逆月衣織
「……うぐ……」
GM
戦闘が終わったらしい。
GM
身体の痛みをこらえながら、イザンナの帰りを待ち続けている。
イザンナ
それから、暫く。
入り口ではなく、部屋の中心に闇が開かれる。
イザンナ
「もど……」
逆月衣織
「おい!」
イザンナ
「おう。」
逆月衣織
「なんだったんだ、今日は!戦闘をしていたのか!」
イザンナ
「ああ、そうか……うむ。」
イザンナ
「仕事終わりにモノノケを見つけてなぁ。まあ……いろいろあってアラミタマをな。」
逆月衣織
「……強敵とやりあったと思ったら、アラミタマだと?」
イザンナ
歩みより、腰を曲げて顔を見る。
イザンナ
「顔色が悪いな。」
逆月衣織
「当たり前だ。無茶苦茶をして」
イザンナ
「すまなかった。」
逆月衣織
「……?」
逆月衣織
「何か、あったのか?」
イザンナ
「…………いろいろなぁ。」
逆月衣織
「……本当に、どうした?」
イザンナ
「…………。」
イザンナ
「いや。実はな、ともだちができたのだよ。」
逆月衣織
「? 新しい下僕か?」
イザンナ
「ともだちと言っておろうが。」
イザンナ
「前に話しただろう?触手の少女と、フリーランスの夫婦と、ヒーラーと……教会の。」
逆月衣織
「……まさか、また彼らと?」
イザンナ
「奇妙な縁よなぁ」
逆月衣織
「それと友達にだと?」
逆月衣織
「あのな……友達っていうのは、対等な付き合いのことだぞ」
イザンナ
「そうだが?」
逆月衣織
「…………」
逆月衣織
「え?まさか友達って、本当に友達のことか?」
イザンナ
「なんだ、そんなに信じられぬのか?」
イザンナ
スマートフォンを取り出して、グループメッセージをチラ見せする。
イザンナ
「ほれほれ、ともだちぞ?」
逆月衣織
「……信じられない」
逆月衣織
「絶対君主と言っていたじゃないか」
逆月衣織
「すべての上に立つ者だと」
イザンナ
「…………イオリ?」
逆月衣織
「どういう心境の変化だ」
イザンナ
「…………。」
イザンナ
「他音無用のことゆえ、子細は話せぬのだが……」
イザンナ
「初めてできた友が、死んでなぁ」
逆月衣織
「!? ……」
イザンナ
「いや……死んだというのも変な話だ。」
イザンナ
「ヒトでもないまがい物よ。モノノケにかぶせられた、疑似的な……実態もない、まやかしだ。」
イザンナ
「だがなぁ……アレが初めてよ、ワタシを友としたのは。」
逆月衣織
「………………お前……」
逆月衣織
「まさかとは思うが」
逆月衣織
「この世界に、入れ込んでるんじゃないだろうな?」
イザンナ
「…………いや。」
逆月衣織
「……元の世界はどうした」
逆月衣織
「帰るという話、忘れたわけじゃないだろう」
逆月衣織
「アラミタマを倒したなら、クシミタマはどうなった。何に使った?」
イザンナ
「無論、帰るつもりだ。魔族の侵攻が緩めば、人はまた人同士で争うだろう。」
イザンナ
「そうはさせぬ。」
イザンナ
「しかしなぁ……」
イザンナ
「……お前の言った通りだ、イオリ。私はすべての上に立つ者。それは、揺るがぬ事実。曲げてはならぬものだ。」
逆月衣織
「では、なぜ」
イザンナ
「私も、知りたいことが増えた。」
逆月衣織
「今更なにを知りたがる」
イザンナ
「人とアラミタマ、そしてモノノケについてだ。」
逆月衣織
「なんだって?」
イザンナ
「これは、こちらの世界のもの。しかし、我が世界において全く異なるわけでもない。」
イザンナ
「故に……」
イザンナ
「クシミタマは、枯れた霊脈を癒すのに使ってしまったなぁ」
イザンナ
「ヒヒヒ」
逆月衣織
「な!」
逆月衣織
「非効率的だ!異界の住人であるお前が、そんなことをして何になる!」
逆月衣織
「クシミタマを使う手が一手遅れるたび、元の世界への帰還も遅れるだろう」
イザンナ
ぽん、と頭の上に手を置く。
逆月衣織
「その時間で友を作ったり、人とアラミタマとモノノケのことなど調べるくらいならば、とっとと戻って元の世界の情勢でも……」
逆月衣織
「……なんだ」
イザンナ
「元の世界に戻るなら、先にこの繋がりを絶たねば……」
イザンナ
「共に連れていくことになろうよ。」
イザンナ
「ワタシはそれでもかまわぬが。」
逆月衣織
「……そのためのクシミタマを、霊脈のために使ったんじゃないか」
イザンナ
「うむ、そうだったな。」
イザンナ
「イオリは賢いなぁ」
逆月衣織
「馬鹿にするな」
イザンナ
「馬鹿になどしておらぬよ」
逆月衣織
「最低でも、あと一回はアラミタマと戦うのか……」
逆月衣織
「……また味わうのか、アレを」
イザンナ
「…………」
イザンナ
「ああ、そうか」
イザンナ
頭を撫でる
イザンナ
「忘れていたよ」
逆月衣織
「……何を」
イザンナ
「いや、わかっていなかった」
逆月衣織
「?」
イザンナ
「あやつらが、あまりに必死に戦うものでな。」
イザンナ
「腕がもげても、死者に喰われても、鞭打たれても、切られても。」
逆月衣織
「……うわ」
イザンナ
「前にすすむものだから。」
イザンナ
「イオリは、そうではなかったな。」
イザンナ
「しかし……実際。」
イザンナ
「どの程度痛いのだ?ワタシは見たことないからわからぬな。」
逆月衣織
「……わからない」
逆月衣織
「たぶん、ダメージの内容とリンクしているんだと思う。さっきは強く打たれるような痛みだった」
逆月衣織
「あと、よくあるのが……身体を刺すような痛みとか……」
逆月衣織
「昨日は朝も戦っていただろう。あの時もまた別の痛みだった」
イザンナ
「…………怖いか。」
逆月衣織
「当たり前だ」
逆月衣織
「いつ襲われるかもわからない痛みだぞ」
イザンナ
「…………」
イザンナ
「そうか……」
逆月衣織
「だが、 避けられない事だとは理解できる」
逆月衣織
「自力では解決できないという負い目も……ないわけではない」
逆月衣織
「何より、お前が死ぬとは思ってない」
逆月衣織
「だから……少しなら我慢できる」
逆月衣織
「少しの間だ!少しの間だけだぞ!」
イザンナ
「ヒヒ……いいこだなぁ」
逆月衣織
「子供扱いをするなというんだ!」
イザンナ
「我はな、未だにお前が術を行使したことを赦そうとは思えない。」
逆月衣織
「!……」
イザンナ
「お前が我が世界に及ぼした影響は、それこそアラミタマを召喚するよりも重い。」
逆月衣織
「それ、は……」
イザンナ
「…………だからな。その分、何かを得て戻る。それにはお前の……力も必要だ。」
逆月衣織
「……どうしろと、いうんだ」
イザンナ
「『マレビト召喚理論』」
逆月衣織
「…………っ……」
イザンナ
「完成させろ。」
逆月衣織
「……!?」
イザンナ
「限定的なものでもいい。つまり、ここと我が世界を一時的に繋げられる空間を構成するのだよ。」
イザンナ
「今の、強引に引き寄せるやり方ではなく、正しい形での召喚、帰還。」
イザンナ
「……なに、別にこちらの世界に何かをしようというわけではない。」
イザンナ
「できるか?」
逆月衣織
「……」
逆月衣織
それは、かつて衣織が残した研究成果。
逆月衣織
しかし、それは未完に終わっている。
逆月衣織
理論の続きは、実際に衣織が試みて……
逆月衣織
……そして、失敗に終わったのだ。
逆月衣織
その事実と成果は、未だ世に送り出されてはいない。
逆月衣織
その失敗で、衣織は自信の未熟を痛感し、そしてその研究に関わる一切を禁じた。
逆月衣織
その解禁が許されたとて、それは決して望ましいニュースではない。
逆月衣織
その先の研究は、もはや衣織自身すら望んでいないことだ。
逆月衣織
いなかったことだ。
逆月衣織
だが。だからこそ。
逆月衣織
「……わかった」
逆月衣織
「あの理論を見たものに、同じ失敗を繰り返させないためにも」
逆月衣織
「望まぬ異界の犠牲者を、これ以上出させないためにも」
逆月衣織
「迷い込んだ異界の住人への救済の一歩とするためにも」
逆月衣織
「研究は続けよう。すべてを懸けて、やり遂げてみせる」
逆月衣織
「お前をもとの世界に返すのは……」
逆月衣織
「……僕の研究であるべきだ」
イザンナ
満足そうに微笑む。
イザンナ
「よくぞ言った。」
逆月衣織
「今のままでは何年かかるかわからない。知恵を貸して欲しい」
逆月衣織
頭を下げる。
イザンナ
「ヒヒ……」
逆月衣織
「……すまなかった……」
イザンナ
「…………うむ。」
イザンナ
「異界の知識、魔力、それから助手に、黄金も……お前の研究に捧げよう。」
イザンナ
「ワタシも、痛い思いをさせてすまないな。我慢しておくれ。」
イザンナ
「今のワタシには、以前ほどの力はない。」
イザンナ
「力がないのは不便だなぁ……自分一人も守ることができぬ。」
逆月衣織
「……すべて余すことなく有効に使わせてもらう。目的のために」
逆月衣織
「過ぎたものを手にしても、もう二度と驕りはしない」
逆月衣織
「研究の成果を以て、助力の礼としよう」
逆月衣織
「……友が居るのなら、異界に戻った後も、こちらとの繋がりは欲しいだろうしな」
イザンナ
「ヒヒヒ。嬉しいなぁ……では。」
イザンナ
「今日から我々は協力者(パートナー)だ。」
イザンナ
「よろしくなぁ、イオリ。」
逆月衣織
「!……」
イザンナ
手を差し出す。
逆月衣織
「対等な付き合いということか……?」
イザンナ
「うむ。」
逆月衣織
おそるおそる手を差し出し、そして握る。
逆月衣織
「慣れない」
イザンナ
「光栄に思えよな」
イザンナ
「さて、ところで……これは提案なのだが。」
イザンナ
「腹は減っていないか?」
逆月衣織
「…………それって」
逆月衣織
「…………………………」
逆月衣織
「……………………………………………………」
逆月衣織
「……………………………………知るか」
逆月衣織
「好きに、受け取ればいい」
イザンナ
「よいよい、そうしよう。ヒヒヒヒヒ。」
イザンナ
握った手を緩やかに引いて胸元に抱き込む。
イザンナ
「……そうだ、言おうと思っていたのだった。」
イザンナ
耳の少し上から降ってくる声。
イザンナ
「いつも、ありがとうなぁ。」
イザンナ
「……ただいま。」
GM
異界の魔王が居た。
GM
魔王は愚かな術によって、全てを狂わされた。
GM
ひとつの愚かな術は、魔王から力と地位を奪い、ひとり異世界へと放り出した。
GM
ひとつの愚かな術は、邪心に力を与え、異世界の少女を刈り取ろうとした。
GM
ひとつの愚かな術は、友を産み、そして凄惨な別れを産んだ。
GM
だが、そのうちの一つ。
GM
最初の破滅をもたらした愚かな術は、いつか偉大な術へと変わる日が来るのだろう。
GM
GM
◆エピローグ③:マリア=ロドリーゴ◆
GM
──3月8日 3:28 川辺教会──
GM
マリアとリサは、川辺教会──聖堂騎士団の久代支部へ。
GM
二人でことの顛末を報告した。
マリア=ロドリーゴ
「──以上が、この事件の概要です」
テレサ・カラス
「……わかりました。報告ありがとう」
フェアリー・ブルダン
「申し訳ありませんでした……」
マリア=ロドリーゴ
「結果的に……」
マリア=ロドリーゴ
「正しい判断や正しい行動を取らなかったことで、アラミタマだけが斃され」
マリア=ロドリーゴ
「契約者であった胎児と、融合していた母親は無事に済んだ」
マリア=ロドリーゴ
「”聖イシドールス”が法則障害を用いず」
マリア=ロドリーゴ
「”聖ヴェロニカ”が辰巳果子を殺していたら、二人の人間の命が失われていた」
マリア=ロドリーゴ
「──と、いうことになるかと」
テレサ・カラス
「最後の救済など……不可解なところは残るけれど」
テレサ・カラス
「結果だけを見れば、素晴らしい戦果と言えるわね」
マリア=ロドリーゴ
「その追及と、両名の行動の瑕疵を責めるのはまた別の話として」
マリア=ロドリーゴ
「私も、そのように思います」
マリア=ロドリーゴ
「…………」
テレサ・カラス
「……けれど、それは結果論だわ」
テレサ・カラス
「“聖イシドールス”を止めることが出来なければ、何も救えずにアラミタマだけが増えるという結果に終わっていたでしょう」
マリア=ロドリーゴ
「はい」
テレサ・カラス
「……この事は、東京支部にも報告します」
テレサ・カラス
「“聖イシドールス”は今は東京支部の管理下」
テレサ・カラス
「少し、彼女にとっては辛い事になるかもしれないわ。あそこの支部長は甘くないから」
フェアリー・ブルダン
「…………」
マリア=ロドリーゴ
「“聖イシドールス”は私の見たところ、カミガカリになったばかりで」
マリア=ロドリーゴ
「もともと精神的に不安定なところのある少女でした」
マリア=ロドリーゴ
「……彼女をケアをしきれなかったことは、原因のひとつではあるかと」
テレサ・カラス
「……そうね」
テレサ・カラス
「彼女を聖堂騎士団内で隔離して、正しく学べる環境を与えられなかった我々の責任は大きい」
テレサ・カラス
「あなたちにも黙っていてごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「いえ……」
マリア=ロドリーゴ
「”聖イシドールス”の能力は、確かに強大で……特異なものだった」
マリア=ロドリーゴ
「秘匿する理由については分かります。それが例え、肉親や関係者であろうとも」
マリア=ロドリーゴ
「……」
マリア=ロドリーゴ
「彼女には、姉の月花柘榴が同行する予定です」
テレサ・カラス
「……」
テレサ・カラス
「とても強いカミガカリなんですって?」
マリア=ロドリーゴ
「はい。どこにも属さず、単独で戦っていたカミガカリです」
テレサ・カラス
「そんな子が、“聖イシドールス”に同行して聖堂騎士団に……」
フェアリー・ブルダン
「……何事も、ない、ですよね?」
マリア=ロドリーゴ
「言いたいことは、彼女の方にたっぷりあるでしょう」
マリア=ロドリーゴ
「……面倒事を起こさないようには言ってありますがね」
テレサ・カラス
「……わかったわ」
テレサ・カラス
「“聖カタリナ”に同席するよう伝えておきます」
テレサ・カラス
「もしもの時は力になってくれるでしょう」
マリア=ロドリーゴ
「ありがとうございます」
フェアリー・ブルダン
「……きっと大丈夫だ、とか無責任なことを言ってしまいました……」
マリア=ロドリーゴ
じろっと目を向けている。
テレサ・カラス
「お人よしもいいけれど、“聖ヴェロニカ”」
テレサ・カラス
「あなたの仕事は終わったのよ」
テレサ・カラス
「一か月間、お疲れ様でした。今はゆっくり休んで」
フェアリー・ブルダン
「えっ、あ」
フェアリー・ブルダン
マリアの方を見て
フェアリー・ブルダン
「あ、はい……ありがとうございます」
フェアリー・ブルダン
テレサへと頭を下げる。
マリア=ロドリーゴ
同じように、頭を下げる。
テレサ・カラス
「ありがとう、“聖モニカ”」
テレサ・カラス
「シスター二名を救い出してくれたのはあなた」
マリア=ロドリーゴ
「……いえ」
マリア=ロドリーゴ
「私だけの力では、叶わなかったことです」
マリア=ロドリーゴ
「“聖イシドールス”も、“聖ヴェロニカ”も」
マリア=ロドリーゴ
「あそこには、なくてはならない存在だった」
マリア=ロドリーゴ
「……良い報告ができたことを嬉しく思います」
テレサ・カラス
「ええ。お疲れ様」
テレサ・カラス
「今日は帰ってゆっくり休んで」
マリア=ロドリーゴ
「ありがとうございます」
マリア=ロドリーゴ
「……それでは、失礼します」
テレサ・カラス
「仕事をやり切った後の、酒を飲みながら音楽を聴くひと時は最高よ!」
テレサ・カラス
背中にそんな明るい声をかけて、二人を送り出す。
フェアリー・ブルダン
「……うう」
フェアリー・ブルダン
マリアの横を歩きながら
フェアリー・ブルダン
「不甲斐ないです」
フェアリー・ブルダン
溜息交じりに。
マリア=ロドリーゴ
「ああ、ほんとにな」
フェアリー・ブルダン
「うう……」
マリア=ロドリーゴ
視線も向けず、横を歩く。
マリア=ロドリーゴ
沈黙が落ちる。
フェアリー・ブルダン
「…………」
マリア=ロドリーゴ
「…………」
フェアリー・ブルダン
沈黙が耐えがたい様子で、何かを話そうとしては何も言葉は出ずに。
マリア=ロドリーゴ
唇を引き結んで、教会の入口まで出てくる。
マリア=ロドリーゴ
立ち止まり、視線を向けないまま、
マリア=ロドリーゴ
「言いたいことがありすぎる」
フェアリー・ブルダン
「はい」
マリア=ロドリーゴ
「死んだかと思った」
フェアリー・ブルダン
「……はい」
マリア=ロドリーゴ
「首がなかったんだぞ、知らなかった」
フェアリー・ブルダン
「はい……ごめんなさい……」
マリア=ロドリーゴ
「どうしようもないと思ったから、思いっきりやっちまった」
マリア=ロドリーゴ
「身体を切り刻んででも、お前が何で死んだのか」
マリア=ロドリーゴ
「お前を誰が殺したのか、確かめようと思った」
フェアリー・ブルダン
「……痛かったです」
マリア=ロドリーゴ
「いい気味だ」
フェアリー・ブルダン
「はい」
マリア=ロドリーゴ
「…………死んだかと思ったんだ」
マリア=ロドリーゴ
「お前が黙って出ていくから」
フェアリー・ブルダン
「……あなたに書き置きを残すか、迷いました」
マリア=ロドリーゴ
「残せよ」
フェアリー・ブルダン
「はい」
マリア=ロドリーゴ
「何で迷った?」
フェアリー・ブルダン
「……言ったら怒りませんか」
マリア=ロドリーゴ
「怒る」
マリア=ロドリーゴ
「言え」
フェアリー・ブルダン
「はい……」
フェアリー・ブルダン
「……予言です」
フェアリー・ブルダン
「あなたの姿がありました。殺される側ではなく、殺す側ですが」
マリア=ロドリーゴ
「アラミタマを倒す姿か?」
フェアリー・ブルダン
「はい」
フェアリー・ブルダン
「………………私が黙っていても、あなたはアラミタマと戦う事になるから」
フェアリー・ブルダン
「大局に支障はないと……いえ」
フェアリー・ブルダン
「無駄とわかっていても、予言を覆しはできないかと」
フェアリー・ブルダン
「その場に立ち会わなくて済む未来があったら、と」
マリア=ロドリーゴ
「……」
マリア=ロドリーゴ
「何だそれ」
フェアリー・ブルダン
「ごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「私が……」
マリア=ロドリーゴ
「……」
マリア=ロドリーゴ
「…………」
マリア=ロドリーゴ
ため息をつく。
マリア=ロドリーゴ
「果子が」
マリア=ロドリーゴ
「“お前”が──首のないお前だが」
マリア=ロドリーゴ
「何をしようとしたか分かった、それは正しい判断だった、って」
マリア=ロドリーゴ
「あの時言っててよ」
フェアリー・ブルダン
「……そんな言葉を受け取る権利は……」
マリア=ロドリーゴ
「私だったら同じ判断をした」
マリア=ロドリーゴ
「もし、お前に次いでもう少し早く結界の中に入っていたり」
マリア=ロドリーゴ
「お前に同行していたら」
マリア=ロドリーゴ
「たぶん正しい判断をして木下果子を殺してた」
フェアリー・ブルダン
「…………」
マリア=ロドリーゴ
「お前の予言は覆せない」
マリア=ロドリーゴ
「お前の行動も、予言に背くつもりでも」
マリア=ロドリーゴ
「未来に従わされるようなもんなのかもしれない」
マリア=ロドリーゴ
「だから、文句を言うようなことじゃないのかも」
フェアリー・ブルダン
「……いえ」
フェアリー・ブルダン
「結果はどうあれ、私はあなたを置き去りにしました」
フェアリー・ブルダン
「それは賢い選択ではなかった。あなたに心配をかけさせて」
フェアリー・ブルダン
「……あなたは必要な時に、必要なことが出来る人です」
フェアリー・ブルダン
「出来る人だから、周りの人は勘違いする」
フェアリー・ブルダン
「あなたがそれをしても平気な人だと思ってしまう」
フェアリー・ブルダン
「あなたの強さに甘えてしまう」
フェアリー・ブルダン
「私は、それが嫌でした」
マリア=ロドリーゴ
「……………」
マリア=ロドリーゴ
最初の二言ぐらいまでは、分かってるじゃねえか、とばかりに話を聞いていた女は。
マリア=ロドリーゴ
「……は?」
マリア=ロドリーゴ
途中からぽかんとした顔をして、口をさしはさめずに。
マリア=ロドリーゴ
最後まで聞いてから、あなたを見つめる。
マリア=ロドリーゴ
「……………」
マリア=ロドリーゴ
「は?」
マリア=ロドリーゴ
「あ?」
フェアリー・ブルダン
「“聖モニカ”」
フェアリー・ブルダン
「あなただって無理してるんですよ」
フェアリー・ブルダン
「人に言うなら、ちゃんと自分も甘えて下さい」
マリア=ロドリーゴ
「……、それは」
マリア=ロドリーゴ
「いや…………」
マリア=ロドリーゴ
「お前が、……お前がなあ、私を…………」
マリア=ロドリーゴ
「………………」
マリア=ロドリーゴ
「………………だからってよ」
マリア=ロドリーゴ
「逆に心配させてたら意味ねえだろ」
マリア=ロドリーゴ
顔を覆って、言葉を吐き出す。
フェアリー・ブルダン
「それは、ごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「死んだかと思ったんだ」
マリア=ロドリーゴ
「嫌な予感がしてた」
フェアリー・ブルダン
「生きてます」
マリア=ロドリーゴ
「急に何も言わずに出ていくから」
マリア=ロドリーゴ
「………」
フェアリー・ブルダン
「私は、生きてますよ」
マリア=ロドリーゴ
「…………ああ」
マリア=ロドリーゴ
「生きててよかった…………」
マリア=ロドリーゴ
消え入るような声で言葉を紡いで、
マリア=ロドリーゴ
黙り込む。
フェアリー・ブルダン
「……“聖モニカ”」
フェアリー・ブルダン
「心配をかけて、ごめんなさい」
フェアリー・ブルダン
「心配してくれて、ありがとうございます」
マリア=ロドリーゴ
「…………ああ」
フェアリー・ブルダン
「これからも共に戦えます」
マリア=ロドリーゴ
「ああ」
フェアリー・ブルダン
「共にです」
マリア=ロドリーゴ
「そうだ」
フェアリー・ブルダン
「私だって、あなたを助ける事もできます」
マリア=ロドリーゴ
「お前と私がいれば──」
マリア=ロドリーゴ
「倒せない敵なんていない」
フェアリー・ブルダン
「どんな敵だってなんとかなる」
フェアリー・ブルダン
「無事に生還できました。帰って休みましょう」
マリア=ロドリーゴ
「ああ──」
フェアリー・ブルダン
「今日は、ゆっくり眠れそうです」
マリア=ロドリーゴ
「よかった」
マリア=ロドリーゴ
「…………おかえり、リサ」
マリア=ロドリーゴ
「ゆっくり休もう」
フェアリー・ブルダン
「うん」
フェアリー・ブルダン
「ただいま、マリア」
フェアリー・ブルダン
「ゆっくり休もう!」
GM
これは、騎士たちの話。
GM
アラミタマを見つけ、押しとどめた騎士がいた。
GM
それを追いかけ、迷い込んだ騎士がいた。
GM
それを探し出し、救い出した騎士がいた。
GM
“聖イシドールス”。
GM
“聖ヴェロニカ”
GM
そして、“聖モニカ”。
GM
多くの騎士たちが居た。
GM
みな、戦っていた。
GM
あの、おぞましい人形の騎士。
GM
あの、鼠の女王を守った小さなモノノケの騎士たち。
GM
あの、妹のために戦った、小さくて大きな騎士。
GM
そして────────
GM
GM
◆エピローグ④:月花柘榴◆
月花 柘榴
なにを願ったらいいか、わかんなかった。
月花 柘榴
「くるみがあんまり怒られすぎませんように」とか、「くるみがあたしにかくしごとをしなくてよくなりますように」とか。
月花 柘榴
たぶんもう決まってることなんだけど、そんなんしか浮かばなくて。
月花 柘榴
ちょっと前なら、「人間になりたい」って願ってたと思うけど、その必要もなくなった。
月花 柘榴
だから、迷って。
月花 柘榴
「くるみのことをちゃんと守れますように」って、願った。
月花 柘榴
……なんだか漠然としすぎてて、かみさまにお祈りするみたいだ。
月花 柘榴
そんなやつ、いままで信じたことなかったのにな。
月花 柘榴
…………
GM
──3月8日 4:10  聖堂騎士団・東京支部前──
月花胡桃
「……ここだよ、ざくろちゃん」
月花胡桃
大きな教会がある。
月花 柘榴
「え、うわ、やべー」
月花胡桃
ちょっと威圧的な、怖い教会。
月花 柘榴
「マジで?」
月花胡桃
私はここで隔離されて、管理されてきた。
月花胡桃
それでよかった。教会は私を守ってくれたから。
月花胡桃
大きな入口。
月花胡桃
そこに人影が見える。
月花 柘榴
「でっっっか……」
月花胡桃
「……」
月花胡桃
「…………!?」
月花胡桃
目を疑った。
月花胡桃
何度も目を擦って、その姿を見る。
月花胡桃
間違いない。
月花胡桃
そこに居たのは、居るはずのない人。
上杉睦美
「……遅かったわね」
月花 柘榴
「え、……えっ」
月花胡桃
「睦、美……!?」
上杉睦美
「超常存在は、意外と身近に居るものよ」
上杉睦美
「姉がそうだった貴女なら、よく知っていたと思うけれど」
月花胡桃
「…………ウソ、でしょ」
上杉睦美
「“聖イシドールス”の捜索は難航していた」
上杉睦美
「“聖ヴェロニカ”が消えた時にも、まだ分からなかった。まさかと思って、縁から辿って……あなたの造った、私の人形を見つけた」
上杉睦美
「なんとか、意識を繋いで、人形の見聞きした情報を知覚することができた。状況が分かった時には、あなたは追い詰められて、アラミタマになろうとしていた」
月花胡桃
「…………」
上杉睦美
「遅れてごめんなさい」
上杉睦美
「あなたのもとへ、“聖モニカ”を向かわせるよう手を回したのは私。あなたが作ろうとしたアラミタマ化の法則障害を、邪魔したのも私」
上杉睦美
「騎士長“聖カタリナ”と名乗った方がわかりやすいかしら?」
月花 柘榴
「…………騎士……長?」
月花胡桃
「………………………………」
月花 柘榴
「…………わかんねーけど」
月花 柘榴
「じゃあ、アレじゃん。命の恩人じゃん」
月花 柘榴
「……ありがとう」
上杉睦美
「大した事ではないわ」
上杉睦美
「今、私がここに居るのは、貴女たちのお守り」
上杉睦美
「これから貴女たちは、もう一つの戦いに向かうのだから」
月花 柘榴
「…………」
月花 柘榴
「……そんなにやばいの?」
上杉睦美
「行けば分かるわ。どうぞ、いらっしゃい」
月花 柘榴
「……うん」
月花 柘榴
「おじゃまします……?」
GM
ここは、神魔都市、東京。
GM
権謀術数渦巻くこの町に佇むこの教会は、聖堂騎士団、東京支部。
GM
そこの副長は、“聖ガブリエル”と呼ばれる。
GM
カミガカリの力を持たない人間の身でありながら、この地位まで上り詰めた交渉の怪物だ。
GM
チェーザレ・アルバーニ
「ようこそ。“聖イシドールス”と、月花柘榴さんですな」
GM
通されたのは、聖堂隣の小部屋。
GM
胡桃と柘榴の前には、“聖ガブリエル”チェーザレ・アルバーニが居る。
チェーザレ・アルバーニ
「それでは、ご用向きを伺いましょうか」
月花 柘榴
「…………え、っと」
月花胡桃
「ざくろちゃん……」
月花胡桃
不安そうに、柘榴の服を掴む。
月花 柘榴
「…………」
月花 柘榴
手をつなぐ。
月花 柘榴
超怖い。
月花 柘榴
「…………あやまりに、き……ました……」
チェーザレ・アルバーニ
「ほう。何をですかな」
月花 柘榴
「…………う……」
月花 柘榴
「えっと…………」
月花 柘榴
「くるみの……………………」
月花 柘榴
マジで本当に怖い。
月花 柘榴
あんまりしゃべるのは得意じゃないし。
月花 柘榴
敬語とかぜんぜんだめだし。
月花 柘榴
それに、なんかやらかしたら大変なことになるのはあたしだけじゃない。
月花 柘榴
「…………えっと……」
月花 柘榴
顔を見るのが怖すぎる。
月花 柘榴
殴って勝てたら楽なのにな。
月花 柘榴
「………………ごめんなさい…………」
月花 柘榴
ぎゅっとくるみの手をにぎる。
チェーザレ・アルバーニ
「姉であるアナタの口からお聞きしたいのですよ」
チェーザレ・アルバーニ
「この事件で、彼女が犯した罪は何とお考えかな?」
月花 柘榴
「………………………………」
月花 柘榴
つないでないもう片方の手が、さまよう。
月花 柘榴
「……連絡をしないで、どっかいったりとか……」
月花 柘榴
「霊脈を……枯らしたりとか」
月花 柘榴
「アラミタマになろうとしたり……とか……」
月花 柘榴
「…………」
月花 柘榴
「……モノノケつくったりとか……」
月花 柘榴
「聖…………えっと……………………ブルダン……さんの首を、どっかやったりとか……」
月花 柘榴
「…………あたしたちをたおそうとしたりとか……」
月花胡桃
「………」
月花 柘榴
「…………ごめんなさい……」
GM
柘榴の口から一つ一つ、罪が語られるたびに、震えは強まっていく。
月花胡桃
「ひ、う……」
チェーザレ・アルバーニ
「……どこかへ行った、という言い方は適切ではありませんな」
チェーザレ・アルバーニ
「法則障害を用いて閉じこもったとするのが正しい」
チェーザレ・アルバーニ
「彼女は意図的に我々との連絡を絶ち、霊脈から霊力を剥奪し、混沌のモノノケを産み、人の時間を巻き戻したのですよ」
チェーザレ・アルバーニ
「その中には計画的に行われたものも含まれる」
月花 柘榴
「………………」
月花 柘榴
「……でも、」
月花 柘榴
「……あのまま、アラミタマがうまれてたら、くるみは死んでて、」
月花 柘榴
「街の人もいっぱい巻き込んでて」
月花 柘榴
「果子…………アラミタマのかあさんも、死んでた……」
チェーザレ・アルバーニ
「彼らを救ったのは、“聖イシドールス”の術ではありません」
チェーザレ・アルバーニ
「ただの偶然です」
チェーザレ・アルバーニ
「順当にあのまま術が広がっていれば、いたずらに犠牲を増やしたのち、母体も死に、街へも被害が出ていたことでしょう」
チェーザレ・アルバーニ
「偶然、複数名のカミガカリが集った。その偶然に救われたに過ぎません。術を行使した“聖イシドールス”も、予想しなかった結末でしょう」
チェーザレ・アルバーニ
「違いますかな、“聖イシドールス”」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタは犠牲が広がることを承知の上で、これらの術を用いた」
月花胡桃
「……ひっ……ぐっ……」
月花胡桃
「ごめ、ごめんな、さ…………」
月花 柘榴
「……でも、その偶然が起こるまで、がんばってたんじゃん」
月花 柘榴
「いっかげつ、」
月花 柘榴
「……がんばってくれてなかったら、カミガカリがあつまる前にだめになってた」
上杉睦美
「…………」
チェーザレ・アルバーニ
「頑張っていたわけではない」
チェーザレ・アルバーニ
「ただの逃避です」
月花 柘榴
「…………逃避かもしれないけどさ」
月花 柘榴
「あたしは、それでも……」
月花 柘榴
「……くるみが死なないでくれて、よかった」
チェーザレ・アルバーニ
「結果の話は本質ではないのです」
チェーザレ・アルバーニ
「これらの術が、何の制約もなく、日常的に用られるような事があればどうなるか」
チェーザレ・アルバーニ
「何故、我々は法則障害の大半を一般的に禁術と定めているのか。お分かりですな」
チェーザレ・アルバーニ
「故に我々は、禁術の知識の流布を防ぎ、その行使に制約を定めています」
チェーザレ・アルバーニ
「これは聖堂騎士団のみならず、特対でも、協会でも、連盟でも……そう変わる事ではありません」
チェーザレ・アルバーニ
「制約があるということは、破れば罰則があるという事です」
月花 柘榴
「………………」
月花 柘榴
「罰則って、どんな……」
チェーザレ・アルバーニ
「それはまあ……」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタの見返り次第でしょうな」
月花 柘榴
「……みかえり」
月花 柘榴
「…………なんでもするよ」
チェーザレ・アルバーニ
「…………ほう」
上杉睦美
「月花柘榴」
上杉睦美
「撤回しなさい」
月花 柘榴
「…………」
上杉睦美
「交渉の時に、最初から持てる手札の全てを晒しては駄目」
月花 柘榴
「…………はい……」
上杉睦美
「騎士団が貴女に求めている事は、貴女の利用価値」
月花 柘榴
「……利用価値」
上杉睦美
「貴女のその、神成神器を宿した身体」
上杉睦美
「そして、純粋なカミガカリとしての戦闘力」
月花胡桃
「ざくろちゃん」
月花胡桃
「ざくろちゃんを差し出して、私だけ助かっても、私、全然嬉しくないよ」
月花胡桃
「私、ざくろちゃんと一緒に居たいよ」
月花 柘榴
「…………う、」
月花 柘榴
「うん」
月花 柘榴
「あたしも……くるみといっしょにいたい」
上杉睦美
「……“聖ガブリエル”。私から提案します」
上杉睦美
「月花柘榴の身柄を聖堂騎士団の東京支部へと置くことを、恩赦の条件としては如何でしょうか」
チェーザレ・アルバーニ
「……」
チェーザレ・アルバーニ
「月花柘榴さん、アナタはどう思われますかな」
月花 柘榴
「………………」
月花 柘榴
「……くるみと、いっしょなら」
月花 柘榴
「…………」こくりとうなずく。
チェーザレ・アルバーニ
「一緒に置くという確約はできませんな」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”とアナタの適所は違う。別の支部への異動もありえるでしょう」
月花 柘榴
「…………それ、は、」
月花 柘榴
「いや、です……」
月花 柘榴
「……………………」
月花 柘榴
「…………そもそも」
月花 柘榴
「くるみが、あたしに言えないかくしごとをするのが、たぶん、よくなくて」
月花 柘榴
「……だから、秘密がふえるのは、よくなくて………………」
月花 柘榴
「…………」
月花 柘榴
「……くるみは」
月花 柘榴
「たしかに、あたしと適所がちがって……戦うのが、あんまり得意じゃない」
月花 柘榴
「……あたしは難しいことはわかんない」
月花 柘榴
「でも、」
月花 柘榴
思い出す。願ったこと。
月花 柘榴
「まもることは、できると思う」
月花 柘榴
「……くるみが、ここにとってめちゃめちゃ大事な人ならさ」
月花 柘榴
「死なれると困るわけじゃん」
月花 柘榴
「で、なんか気持ちがたいへんになって、今回みたいなことが起きても困るじゃん」
月花 柘榴
くるみの手をつよく握る。
月花 柘榴
「だから」
月花胡桃
「……」
月花 柘榴
「あたしが、くるみと一緒に行動するの、いいと思うんだけど」
月花 柘榴
「…………」でかくて怖い男の顔を見上げる。
チェーザレ・アルバーニ
「そのような朧気な対価になど、大した価値はないのです」
チェーザレ・アルバーニ
ぴしゃりと言い放つ。
チェーザレ・アルバーニ
「アナタが“聖イシドールス”の精神的なケアを行ったとて、彼女をコントロールできるわけではないことは既に証明されている」
チェーザレ・アルバーニ
「実力的にも、この教会の中にはアナタより護衛に優れた者が複数名いると付け加えておきましょう」
チェーザレ・アルバーニ
「……条件を吊り上げる必要があるようですな」
チェーザレ・アルバーニ
「神成神器に関わる情報提供を惜しまず、実験に積極的な協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”へ下された任務に無償で同行、協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「聖堂騎士団東京支部の指示に従うこと。他の支部や組織と指示の競合が発生した場合は、必ず東京支部に服従すること」
チェーザレ・アルバーニ
「東京支部の指示に、疑問を持たないこと」
チェーザレ・アルバーニ
「現場の判断を求められたときは、教会の利益を第一に考え、立ち回ること」
チェーザレ・アルバーニ
「以上のことを誓えるのであれば、聖堂騎士団へアナタを迎えましょう」
チェーザレ・アルバーニ
「如何かな?」
月花胡桃
「……!」
月花胡桃
不安げに睦美を見る。
月花 柘榴
「……………………」
上杉睦美
「…………」
月花 柘榴
「……実験って、なにすんの」
月花 柘榴
「指示って……どんな」
月花 柘榴
「教会の利益って、なに」
チェーザレ・アルバーニ
「実験は、生命に関わらず、カミガカリとしての活動に支障を及ぼさないもの」
チェーザレ・アルバーニ
「指示は……騎士団のための仕事です。主にアラミタマや敵対的なカミガカリとの戦闘、“聖イシドールス”の護衛になるでしょうな」
チェーザレ・アルバーニ
「教会の利益とは、多岐に渡ります。理解が難しければ、私情に惑わされず教会のために頑張ると捉えていただければ問題ありませんよ」
月花 柘榴
「……………………」
月花 柘榴
「おなかのやつのこと、全然わかんないけど、わかることなら言う。……その実験ってのが、くるみを傷付けないやつなら、やる」
月花 柘榴
「くるみの任務に行くやつは、ぜったいやる」
月花 柘榴
「東京支部に……服従? これはあとで考えていい?」
月花 柘榴
「指示に疑問を持たないのも、なんか怖い命令されたときにやだから、ちょっと待って」
月花 柘榴
「教会のためにがんばるのは……やるけど、じゃあ教会がちゃんとみんなのことまもれるような指示を出してほしい」
月花 柘榴
「…………」
月花 柘榴
「……これで、どう」
チェーザレ・アルバーニ
「恐れる事はありませんよ」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタのような明らかに弱点を抱えた人間は、口を割らせやすい」
チェーザレ・アルバーニ
「表沙汰にされて困るような命令をアナタへ下すことは、騎士団としても得策ではありません」
チェーザレ・アルバーニ
「これは、服従を引き受ける理由にはなりませんかな?」
月花 柘榴
「…………」睦美のほうをみる。
上杉睦美
「……貴女に直接の指示を下すのは、主に私になるわ」
上杉睦美
「“聖ガブリエル”のおっしゃる通り、極端な指令が下される事はないでしょう」
上杉睦美
「もしもの時は、私が守るわ」
月花 柘榴
「…………、……あり、がとう」
月花 柘榴
「……じゃあ、うん」
チェーザレ・アルバーニ
「よろしい」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタの条件は、“聖イシドールス”と共に行動すること」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”を傷つけない範囲で、実験への協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖イシドールス”へ下された任務に無償で同行、協力を行うこと」
チェーザレ・アルバーニ
「聖堂騎士団東京支部の指示に従うこと。他の支部や組織と指示の競合が発生した場合は、必ず東京支部に服従すること」
月花 柘榴
「……うん」
チェーザレ・アルバーニ
「任務の内容については、アナタに自由な意思を持ち、現場にてアナタが信じる最適な判断を行うことを許しましょう」
チェーザレ・アルバーニ
「ただし、アナタ自身の精神もまだ未熟です。実力が祓魔騎士相当のものであることは認めますが、まずは騎士として聖堂騎士以上の者に付き、任務の際はその指示に従うように」
月花 柘榴
「…………はい」
チェーザレ・アルバーニ
「誓約書を渡します。“聖カタリナ”、確認を」
上杉睦美
「…………」
上杉睦美
「はい、問題ありません」
上杉睦美
「月花柘榴。こちらに名前を書いて」
月花 柘榴
「…………うん」
月花 柘榴
変な持ち方でペンを握って書く。きれいではない字。
月花 柘榴
「…………これでだいじょうぶ?」
上杉睦美
「ええ。ありがとう」
上杉睦美
「ようこそ。聖堂騎士団へ」
上杉睦美
「月花柘榴。貴女を歓迎するわ」
月花胡桃
「……ざくろちゃんが、聖堂騎士団に……?」
月花 柘榴
「…………おおー……」
月花 柘榴
「……うん」
月花 柘榴
「よかった」
月花 柘榴
「これで、たぶん、いろいろいっしょに行動できる……んだよな?」
月花胡桃
「……うん」
月花胡桃
「うん、うん、うん」
月花胡桃
「私、騎士団でも寂しかった。知ってる人がいなくて」
月花胡桃
「でもざくろちゃんが来てくれた。睦美もいる……」
月花 柘榴
「……うん」
月花胡桃
「……私、頑張る。今度はちゃんと、能力の使い方を間違えない」
月花胡桃
「ざくろちゃんのことも、頼る……」
月花 柘榴
「…………うん、」
月花 柘榴
「よかった」
月花 柘榴
「どうなるかと、おもって」
月花 柘榴
「こわくて」
月花 柘榴
「……こわ、かったあ……」
月花 柘榴
ぼろぼろと涙をこぼす。
月花胡桃
「うん、こわかった」
月花胡桃
「こわかった……」
月花 柘榴
ぎゅっとだきしめる。
月花胡桃
だきしめ返して、泣く。
上杉睦美
「……」
上杉睦美
「騎士団に属するからには、素行にも分別が求められる」
上杉睦美
「みっともないわ。続きは家でやりなさい」
チェーザレ・アルバーニ
「さて、では話は以上ですかな」
月花 柘榴
「…………っ、…………は、い……」
月花胡桃
「……ざくろちゃん」
月花胡桃
「せっかくだし、礼拝堂を見ていかない?」
月花 柘榴
「……れいはいどう」
月花 柘榴
「……うん」
上杉睦美
「さようなら。また会いましょう」
月花胡桃
「……うん」
月花 柘榴
「うん」
月花 柘榴
「……これから、よろしく」
GM
上杉睦美
「……取引による恩赦ですか」
チェーザレ・アルバーニ
「“聖カタリナ”」
チェーザレ・アルバーニ
「当初、アナタは言っておられましたな。“聖イシドールス”の処分は、降格が妥当だと」
上杉睦美
「……はい」
チェーザレ・アルバーニ
「甘い」
上杉睦美
「……?」
チェーザレ・アルバーニ
「アナタはこちらに来てもう二年になるが……」
チェーザレ・アルバーニ
「まだ久代支部のやり方が抜けていないようだ。それに、友人への手心が透けて見える」
上杉睦美
「…………」
チェーザレ・アルバーニ
「もとより処分など、不要なのですよ」
チェーザレ・アルバーニ
「そんな裁定は、何の利益も生みません。“聖イシドールス”にはこれからももっと働いて頂くべきなのです」
チェーザレ・アルバーニ
「彼女の情報が秘匿されていることは、我々にとっても都合がよかった。他へ示しをつける必要がない」
上杉睦美
「……」
チェーザレ・アルバーニ
「全ては予定通りです。報告書の書き方を、少し工夫するだけです」
チェーザレ・アルバーニ
「アラミタマの発生をいち早く察知した我ら聖堂騎士団は3名の同志を派遣。これによってアラミタマの討伐に『成功』した」
チェーザレ・アルバーニ
「“特対”程度なら、この程度のあらすじで誤魔化せるでしょう」
上杉睦美
「……そのような詭弁を、通せますか」
チェーザレ・アルバーニ
「この程度の詭弁すら通せないのならば、アナタは“騎士長”止まりなのでしょうな」
上杉睦美
「……」
チェーザレ・アルバーニ
「さて」
チェーザレ・アルバーニ
「新たな手駒が入りました。が、あれはこの都市にはあまり向いていないようだ」
チェーザレ・アルバーニ
「外聞のために、地方でモノノケとアラミタマの退治に勤しんでいただきましょう」
上杉睦美
「…………」
上杉睦美
「ひどい方ですね」
GM
月花胡桃
「……綺麗なとこでしょ?」
月花 柘榴
「……すげー」
月花 柘榴
「はじめてきた」
月花 柘榴
「思ったよりめちゃくちゃ広い」
月花胡桃
「迫力あるよね」
月花胡桃
「清浄さっていうのかな。実際、ここには強い結界が張られてるんだって」
月花 柘榴
「つよい……結界が?」
月花 柘榴
「なにするとこなんだっけ」
月花 柘榴
「……清浄さ……なんか、いていいのか不安になってくるな……」
月花胡桃
「祈りを捧げたりする場所だよ」
月花胡桃
「でも、私もあんまり詳しくないんだ」
月花胡桃
「ざくろちゃん。そこに……立って」
月花 柘榴
「……そっか、聖堂騎士団入ったから、なんかそういう……祈りとか? 覚えないと……?」
月花 柘榴
なんて言いながら、歩いて。
月花 柘榴
くるみが指した場所を見る。
月花 柘榴
「…………ここ?」
月花胡桃
「うん」
月花 柘榴
言われるがまま、そこに立つ。
GM
ステンドグラスに囲まれた檀上。柘榴の隣に立つ。
月花胡桃
「ちょっと、式っぽくない?」
月花 柘榴
「…………」
月花 柘榴
「……あ! わかった!」
月花 柘榴
くるみの手を両手でとる。
月花 柘榴
「こういうやつ!」
月花 柘榴
「えーっと……」
月花 柘榴
「"病めるときも、すこやかなるときも"」
月花 柘榴
「…………なんだったっけ。……貧しいときも? ……えっと、そうじゃないときも」
月花胡桃
「……“富めるときも、貧しきときも”?」
月花 柘榴
「……それだ!」
月花 柘榴
「"死がふたりをわかつまで"」
月花 柘榴
「"愛し、慈しみ"……」
月花 柘榴
「ずっといっしょにいることを、誓います」
月花胡桃
「……はい。誓います」
GM
二人の手が触れ合う。ステンドグラスから差し込む光が、二人を照らす。
月花 柘榴
「…………へへ」
月花 柘榴
「母様にね」
月花 柘榴
「いつかあんたもやるんだよって、言われてて」
月花 柘榴
「好きな人とやるやつだって、教わったから」
月花 柘榴
「くるみとできてよかった」
月花胡桃
「うん」
月花胡桃
「ざくろちゃんとできてよかった」
月花胡桃
「……ざくろちゃん」
月花胡桃
「一緒に幸せになろう」
月花胡桃
「辰巳さん夫妻みたいに」
月花胡桃
「いや、それよりももっと!」
月花 柘榴
「……うんっ」
月花 柘榴
「幸せになろう」
月花 柘榴
「いっぱいはなして、いっぱい、いろんなことして」
月花 柘榴
「いっぱい幸せになろう」
GM
これは、家族が育む愛の話。
GM
小さくて大きな化け物がいた。
GM
忌むべき力は、彼女の人生を台無しにした。
GM
だが、この力がなければ、彼女は妹を守れなかったのかもしれない。
GM
あるいは、妹に置き去りにされていたのかもしれない。
GM
その力は今では、人に、組織に、世界に、大事な人に肯定されている。
GM
これからは、新たな場所で、二人の幸せのために。
GM
GM
◆エピローグ⑤:辰巳悠希◆
GM
──2月23日 11:25──
GM
雪が、道を、木を、山を白く彩っている。
辰巳 悠希
冬も終わりが近づいているとはいえ、この時期は未だ冷え込む。
辰巳 悠希
滑るアスファルトの上を、時折チェーンを巻いた車たちがゆっくりと通り過ぎてゆく。
辰巳 悠希
田舎道に、一台の自販機がぽつんと佇んでいた。
辰巳 悠希
車の通りはまばらで、多くの車たちは、その存在を気にも留めない。
辰巳 悠希
けれど、時折だれかの役に立つ時もある。
辰巳 悠希
自販機の側に車が停まる。
辰巳 悠希
ドアを開く音。
辰巳 悠希
1人分の乾いた靴音。
辰巳 悠希
運転席から男が姿を見せる。
辰巳 悠希
ドアを閉じて、財布を取り出しながら自販機に近付く。
辰巳 悠希
これは現金しか使えない自動販売機だ。
何度か利用したことがあるから、知っている。
辰巳 悠希
確か硬貨を持っていない。紙幣を崩さないといけないだろう。
辰巳 悠希
自販機に向き合って、気が付く。
しばらく見ない間に、自販機は電子マネーに対応していた。
辰巳 悠希
変わらないものはないんだな、なんて思いながら、財布をしまいつつスマホをかざす。
辰巳 悠希
温かい焙じ茶。
辰巳 悠希
蓋を開けて一口、二口。
飲みながら周囲を見る。
辰巳 悠希
車を停めた理由。
モノノケの気配がある。
辰巳 悠希
*
辰巳 悠希
──悠希は『明くる日の“再誕” 』を倒した後も、カミガカリを続けていた。
フツミタマに願ったことで、もう記憶障害は引き起こされない。
辰巳 悠希
信頼できる友達もいる。
辰巳 悠希
普通の仕事をして、普通の家庭を築き、普通に死ぬことは、夢ではない。
辰巳 悠希
それでも、この手には力がある。
辰巳 悠希
これは、敵を倒す力。
辰巳 悠希
これは、誰かを守れる力。
辰巳 悠希
変わることもあれば、変わらないこともある。
辰巳 悠希
自分のような子供を増やしたくない、という気持ちは変わらないし。
辰巳 悠希
柘榴のような子供がいれば、一人にしたくないとも思う。
辰巳 悠希
カミガカリを続けることは、全く嫌ではないのだ。
辰巳 悠希
それに、今更普通の仕事で家族を養っていける自信もない。養育費というのは結構かかるものなのだ。
辰巳 悠希
*
辰巳 悠希
悠希の体から、結晶が剥がれてゆく。
辰巳 悠希
出血もなく、記憶の喪失もなく、周囲にはモノノケの躯が転がる。
辰巳 悠希
泥に変わりゆく霊肉を見ながら思う。
辰巳 悠希
自分は間違いなく人間で、龍脈保有体で。
辰巳 悠希
化け物を滅ぼす者──破神伝承者なのだと。
辰巳 悠希
”アークスレイヤー”辰巳悠希
辰巳 悠希
*
辰巳 悠希
コテージの駐車場に車が停まる。
悠希は買い物袋を抱えて車を下りた。
辰巳 悠希
コテージのドアを解錠して、開く。
辰巳 悠希
「ただいま」
GM
エントランスを抜け、扉を開ければ、そこには大きなリビングルームがある。
GM
中の景色は穏やかだった。壁面と床の木目が、部屋に温かみを持たせている。
GM
部屋にはファブリックのソファ。そこで悠希を出迎えたのは……
辰巳果子
「おかえり」
GM
妻の果子であった。
辰巳 悠希
「途中でモノノケを見かけたから、倒してきた」
辰巳 悠希
「買い物もちゃんとしてきたぞ」
辰巳果子
「おつかれ。そろそろ昼飯にするからな」
辰巳 悠希
「おい、あまり無理するなよ」
辰巳 悠希
「昼飯くらい俺が作るから」
辰巳 悠希
「まだ安静にしていた方が……」
辰巳果子
「気にしすぎだよ。もう動けるんだぞ」
辰巳果子
スリムで健康的な体型。
辰巳 悠希
「動けるって言っても、人間は死にかけでも結構動けるから……」
辰巳果子
つい先日まで目を見張らんばかりに膨らんでいたお腹も、今ではすっかり凹んで。
辰巳果子
「やばい時はちゃんと頼るっての。今までもそうしてきたろ」
辰巳 悠希
「それはそうだが……」
若干おろおろとしながらも、強くは止めない。
辰巳果子
「お前こそどうなんだよ。モノノケと戦ってきたんだろ」
辰巳果子
「大丈夫?ケガとかしてない?」
辰巳 悠希
「俺は大体大丈夫だ」
辰巳果子
「ん。えらい」
辰巳 悠希
「……じゃあ、手伝うから」
辰巳果子
「そういうことなら、リビングの掃除でも頼もうかな」
辰巳 悠希
「……果子の手伝いじゃない」
辰巳 悠希
少し不服そうに。
辰巳果子
「……料理でも一緒に作る?」
辰巳 悠希
「作る」
辰巳果子
「よし、おいで」
辰巳 悠希
「いく」
辰巳 悠希
果子の側に行き、手伝おうとスタンバイする。
辰巳果子
二人で厨房に並ぶ。
辰巳果子
流れるような共同作業。
辰巳果子
「……家事、うまくなったな」
辰巳 悠希
「さすがにな」
辰巳 悠希
「果子が妊娠してる間、頑張ったし」
辰巳 悠希
「最初はひどいものだったけど」
辰巳果子
「覚えたことも、忘れずに居られるしな」
辰巳果子
「一年でここまでなったんだ」
辰巳果子
「偉いよ」
辰巳 悠希
「うん」
辰巳 悠希
「それは本当によかった」
辰巳 悠希
「果子の言葉のお陰だよ」
辰巳果子
「……なんか言ったっけ?」
辰巳 悠希
「自分が人であろうとすることを止めない限り、心は人間なんだ」
辰巳 悠希
「柘榴に言った言葉だけどな」
辰巳 悠希
「俺も、あれに結構救われた」
辰巳果子
「……っはは」
辰巳果子
「よく“覚えて”やがる」
辰巳 悠希
「お陰様で」
辰巳果子
「改めて言われると、結構恥ずかしいな」
辰巳 悠希
「いい言葉じゃないか。恥ずかしがる必要なんてない」
辰巳果子
「死ぬ覚悟キメてたから、全部吐き出すつもりで言ったけど」
辰巳果子
「……生きてんだよなあ」
辰巳 悠希
「はは、生きてたなぁ」
辰巳 悠希
「果子の全部が聞けて、得した」
辰巳果子
「くっそ。そういうとこは忘れてもいいんだぞ」
辰巳 悠希
「そういうのは絶対に忘れないようにする」
辰巳 悠希
「これからも恥ずかしい言葉は全部忘れないようにしよう」
辰巳果子
「こいつ!」
辰巳 悠希
笑う。
辰巳果子
「ったく、あれ以来よう」
辰巳果子
「アレからどうにも……弱くなったっつーか」
辰巳果子
「お前の前だと感情が出やすくなっていけねえ」
辰巳 悠希
「そうだな、果子はかわいくなった」
辰巳果子
「……うっせやい」
辰巳 悠希
「ははは」
辰巳 悠希
「前の果子も、今の果子も愛してるよ」
辰巳果子
「……私だって、いつの悠希も愛してるよ」
辰巳 悠希
笑って、軽く額に口付ける。
GM
辰巳 悠希
食事が終わって、後片付けも終わる。
辰巳 悠希
掃除なんかをしたりして、一息。
辰巳 悠希
時計を見上げる。
辰巳 悠希
「そろそろかな」
辰巳 悠希
今日は友人達を家に招いている。
辰巳 悠希
落ち着いたら家に招待する、という約束。
辰巳 悠希
果子も大分元気になったので、連絡を取ったのだ。
辰巳 悠希
スマホを見る。
辰巳 悠希
「そろそろ三善が着くらしい」
三善清次郎
ぴん ぽーーーーーん
辰巳 悠希
「お、来た」
辰巳果子
「お」
辰巳 悠希
玄関に向かい、ドアを開く。
辰巳果子
「いらっしゃーい」手を振る。
三善清次郎
「おーっす」
辰巳 悠希
「直接会うのは久しぶりだな」
三善清次郎
ひらひらと手を振り返す。
辰巳果子
「あの時とは道も景色も違うからな。迷わなかった?」
辰巳 悠希
中に招き入れる。
三善清次郎
「元気そうでよかったよ~」
辰巳果子
「……おかげさまで」
三善清次郎
「ん、だいじょぶだいじょぶ、調べてきたから。でも1年でこんなに綺麗になってるとは思わなかった」
辰巳 悠希
「本当は、別荘地なだけあっていい所なんだ」
三善清次郎
「これはイザンナちゃんのおかげだな~」
辰巳 悠希
「そうだな、イザンナ様々だ」
辰巳果子
「早く見せてやりたいな」
三善清次郎
「そろそろ着くかね~」
イザンナ
コテージの玄関前に闇が開く。
イザンナ
「ほら、ついたぞ。」
逆月衣織
「…………」
イザンナ
「なんだ、緊張しているのか?」
逆月衣織
「……直接の縁がないのは、僕ぐらいのものだろう」
イザンナ
1年前と同じ顔。
異なるのは、露出度が減ったくらいだろうか。
辰巳果子
「いらっしゃい、いらっしゃい」
イザンナ
「おう、カコ。久しいな。」
三善清次郎
「やっほ~」
辰巳 悠希
「お前、またそんな現れ方をして」
辰巳果子
「……直接ここに来るとは思わなかったよ。外の景色まだ見てないだろ」
イザンナ
「ふふん。なれっこであろうが。」
辰巳 悠希
「……そちらは?」
辰巳 悠希
隣の子供を示して。
イザンナ
「おお、そうだ。彼はな、私のパートナーで……」
逆月衣織
「説明してないのか!?」
辰巳 悠希
「パートナー」
辰巳 悠希
子供だよな……?
イザンナ
「必要だったか?」
三善清次郎
「ぱーとなー」
三善清次郎
子供だなあ……
逆月衣織
「必要なんだよ!ご迷惑だろ!」
イザンナ
「迷惑だったか?」
辰巳 悠希
「いや、イザンナのパートナーなら歓迎だ」
イザンナ
「ふふん」
辰巳果子
「よろしく」
イザンナ
「よかったなぁ、イオリ。」
辰巳 悠希
「辰巳悠希です。イザンナには……世話になっています」
三善清次郎
「おにーさんが三善です。よろしくね~」
辰巳 悠希
手を差し出す。
逆月衣織
「……連盟の理論者、逆月衣織だ。突然押しかけて申し訳ない……」
逆月衣織
手を握り返す。
辰巳 悠希
賢そうだ。
辰巳 悠希
「いえいえ。なんとなく無理やり連れてこられたのは分かりますから」
三善清次郎
あんなちっちゃくて理論者か~!なるほどな~!
イザンナ
「教会のはまだ来ておらぬのか?……ふむ、少し早く来たからなぁ。」
逆月衣織
「そう、こいつは本当にひどい奴で!」
辰巳 悠希
イザンナの方を見る。
辰巳 悠希
「まぁ、ひどそうだ」
イザンナ
「お前の方がひどい奴だろうが」
イザンナ
「ヒヒヒヒ」
マリア=ロドリーゴ
チャイムが鳴る。
辰巳 悠希
「イザンナよりひどい奴……?」
三善清次郎
「おっ、噂をすれば」
辰巳 悠希
「お」
辰巳 悠希
扉を開く。
フェアリー・ブルダン
「ど、どうも、失礼いたします。あ、これはつまらないものですが」
マリア=ロドリーゴ
「…………」腕を組んで立っている。
月花 柘榴
「うわーーーっめちゃめちゃきれーになってる!」
辰巳 悠希
「ああ、これはわざわざご丁寧に……」
辰巳果子
「お、サンキュ!みんなで食おうぜ!」
辰巳 悠希
「うわ、柘榴」
月花胡桃
「……う」
辰巳 悠希
「……何だか元気になったな」
マリア=ロドリーゴ
じろじろと悠希の顔を見ている。
辰巳 悠希
「胡桃も、久しぶり」
イザンナ
「おう、クルミも息災そうだなぁ。」
三善清次郎
「えっ、柘榴ちゃん?」
月花胡桃
「……そう、最初はこんなにきれいな家だった……」
辰巳 悠希
「ロドリーゴは相変わらず顔が怖いな」
月花胡桃
「戻すの、大変だったでしょ。ごめんなさい……」
マリア=ロドリーゴ
「お前は間抜けな顔になったな」
辰巳 悠希
「俺もビンタしたからおあいこだ」
マリア=ロドリーゴ
「……まあ、いいことだ」
辰巳 悠希
「……間抜けになったかな?」
月花胡桃
「……うん」
フェアリー・ブルダン
「……皆さん、お元気そうでよかったです」
月花 柘榴
「おじゃましまーす……ひさしぶり」
三善清次郎
「あ、もしかしてみんな揃った?」
マリア=ロドリーゴ
「デリカシーはありそうになった」
逆月衣織
「お、おい」イザンナの服を引く
逆月衣織
「誰が誰だ?」
マリア=ロドリーゴ
大股に入ってくる。
辰巳 悠希
「デリカシー……」
マリア=ロドリーゴ
見覚えのない子供がいるな……
辰巳 悠希
前そんなにデリカシーなかったかな?
なかった気するな……。
イザンナ
「おう、そっちの赤いのが聖モニカ。大人しそうなのが聖ヴェロニカ。」
月花 柘榴
見知らぬひとがいるな~。
フェアリー・ブルダン
マリアと自分の靴を並べて家に上がる
イザンナ
「小さいのがザクロとクルミだ。」
逆月衣織
「聖堂騎士団か……」
イザンナ
「うむ。」
三善清次郎
賑やかだな~
マリア=ロドリーゴ
「お前の関係者か」
イザンナ
「ああ、そうだ。これはワタシのパートナーのイオリだ。」
逆月衣織
「あ、ああ。逆月だ。宜しく頼む」
辰巳 悠希
「パートナーらしい」
フェアリー・ブルダン
「?よろしくおねがいします」
マリア=ロドリーゴ
「おう。前にチラッと聞いたかな……」
月花 柘榴
「パートナー」
イザンナ
「召喚者だ。」
月花胡桃
「パートナーだって」
辰巳 悠希
「召還者?」
三善清次郎
「えっ」
辰巳 悠希
「召還者、でパートナーなのか……?」
イザンナ
「うむ。」
月花 柘榴
「パートナー力なら負けないぞ! パートナーバトルでしょうぶだ!」
三善清次郎
「すごい子じゃん……」
イザンナ
「ヒヒヒヒ」
マリア=ロドリーゴ
パートナーバトルってなんだ?
辰巳 悠希
「パートナーバトルってなんだ?」
三善清次郎
パートナーバトルってなに?
辰巳果子
「お、やるか~!?」
辰巳 悠希
「果子もやるのか!?」
マリア=ロドリーゴ
知っているのか……果子……!
辰巳 悠希
「俺が……戦うのか!?」
辰巳果子
「うちのパートナーは強いぞ!最近常識を覚えてきた!」
イザンナ
「負けぬぞ?」
三善清次郎
俺もバトルできるか……?無理か……?
三善清次郎
「あっじゃあ俺審判で……」
辰巳 悠希
「ちょっと待て!俺一人だけ大人だろ!」
イザンナ
「イオリは大人だなぁ」
辰巳果子
「言われてみればそうだ。全然気づかなかった」
辰巳 悠希
「ええ~……」
マリア=ロドリーゴ
「どういう基準で行われる何なんだよ」
三善清次郎
「イザンナちゃんは大人とか子供とかとちょっと違うからね~」
イザンナ
「なに、子どもあつかいすると怒るでな。」
逆月衣織
「一応、年齢は23だ」
三善清次郎
「えっ」
マリア=ロドリーゴ
「えっ」
辰巳 悠希
「23!?」
イザンナ
「かわいかろう?」
月花 柘榴
「見えねー」
辰巳 悠希
見えないなぁ
辰巳果子
「イザンナさん、何かした?」
三善清次郎
「……もしかしてなんか、複雑なやつ?」
マリア=ロドリーゴ
「そういうあれか」
イザンナ
「ヒヒヒ……」
マリア=ロドリーゴ
誤魔化した。
辰巳 悠希
魔王コワ~
月花 柘榴
そういうアレか~
イザンナ
「まあ、良くしてやってくれ。」
三善清次郎
「あんまり……なんか、無茶なことさせちゃだめだよ……」
イザンナ
「イオリもな。皆いいともだちだろう?」
逆月衣織
「うん……? あ、ああ」
月花胡桃
「…………」
月花胡桃
「人が多い場所で、ざくろちゃんがこんなに喋るのは珍しい」
辰巳 悠希
客人にソファーを勧めつつ、お茶などを用意している。
三善清次郎
「そういえば柘榴ちゃん、なんか……背、伸びた?」適当を言っている。
月花 柘榴
「…………生死をともにしたやつたちだから……」
マリア=ロドリーゴ
茶を用意する悠希の姿を眺めている。
辰巳 悠希
「そうだな、俺達カミガカリ友達だからな」
月花 柘榴
「わかんねー、のびたかな」
月花 柘榴
「くるみとはおなじくらいだとおもう!」
イザンナ
「カミガカリともだちだなぁ」
マリア=ロドリーゴ
見たこともないような笑顔だな……
辰巳 悠希
お茶を一人ひとりに出している。
三善清次郎
「のびたのびた。胡桃ちゃんも大きくなった」
月花胡桃
「…………」
三善清次郎
「ありがとね」
マリア=ロドリーゴ
見たこともない笑顔と言えば、柘榴もだが。
月花胡桃
「このまえ測ったら、伸びてなかった…………」
マリア=ロドリーゴ
「おう」
三善清次郎
「……」
辰巳 悠希
「粗茶ですが」
マリア=ロドリーゴ
社交辞令が言えてすごい。
辰巳 悠希
なんと常識を覚えたからな
三善清次郎
「日に日に変わるものだから!」
マリア=ロドリーゴ
茶を受け取って、飲んでいる。
辰巳果子
「な、常識あるだろ?」
イザンナ
「人間は成長が早いなぁ」
月花 柘榴
「伸びたと思ったんだけどなー」
月花胡桃
「ざくろちゃん伸びたの?」
月花胡桃
「裏切る気……?」
辰巳 悠希
「お陰様で常識を覚えました」
イザンナ
「クルミよ」
月花 柘榴
「…………健康診断サボったからわかんない……」
イザンナ
「友は元気か?」
月花胡桃
「……!」
月花胡桃
「……うん」
月花胡桃
「みんな元気にしてる」
イザンナ
「そうか、そうか。それは良かった。」
三善清次郎
あ、わらった。
辰巳 悠希
「それはよかった」
月花 柘榴
「こないだ一緒にパフェ食った!」
三善清次郎
「ほんと、ふたりも元気そうでよかった」
辰巳 悠希
「仲良くなったんだな」
イザンナ
「仲良くしておるか……」
三善清次郎
「いいねえ!」
イザンナ
「よかった。」
月花胡桃
「三空、運動会で大活躍してたよ」
マリア=ロドリーゴ
「さすが女王様だな」
月花胡桃
「真白は高校受験ものすごく頑張ってる」
辰巳 悠希
「フィジカルが強い」
三善清次郎
「タダ者じゃなかったからね」
マリア=ロドリーゴ
「あいつ本物もあんな感じなのか?」
月花胡桃
「それと睦美は……」
辰巳 悠希
「受験、受験か……」
辰巳 悠希
我が子の将来を考えたりしている。
月花胡桃
「今、騎士団で私とざくろちゃんの上官してる」
三善清次郎
「え」
マリア=ロドリーゴ
「は?」
イザンナ
「ほう、そうか。」
辰巳 悠希
「え?」
三善清次郎
「えっ、あれっ?騎士団」
月花 柘榴
「…………あっ」
辰巳 悠希
「騎士団?」
辰巳 悠希
マリアとリサの方を見る。
マリア=ロドリーゴ
「上司?」
フェアリー・ブルダン
「……?」
三善清次郎
「……気志團?」
イザンナ
「よかったなぁ。近くに仲間がいることは心強かろう。」
マリア=ロドリーゴ
知らねえよ! の顔。
フェアリー・ブルダン
「それって、どういう……?」
月花 柘榴
「上司」
月花胡桃
「睦美が、みんなによろしくって」
辰巳 悠希
なんで知らないの……?という顔。
マリア=ロドリーゴ
「お、おお? おう……」
イザンナ
気にしていない顔
月花 柘榴
「めっちゃ厳しい」
辰巳 悠希
「ええ……?」
三善清次郎
「ムツミちゃんって、……本読んでた子?」
月花胡桃
「そうだよ」
三善清次郎
「騎士団なの?」
月花胡桃
「“聖カタリナ”。騎士団の騎士長」
マリア=ロドリーゴ
「あ?」
辰巳 悠希
「騎士長って、偉いんじゃ……」
三善清次郎
「騎士長」
イザンナ
「騎士長とは、そんなに偉いのか?」
月花 柘榴
「……えっ、あれ」
フェアリー・ブルダン
「……えっ、え!?」
月花 柘榴
「知らなかったの?」
三善清次郎
「えらいよ!ていうか2年前にほら!」
月花胡桃
「ざくろちゃん」
月花胡桃
「今日まで口止めされてたんだよ」
月花 柘榴
「そうだっけ……」
月花胡桃
「これ言って、みんなの反応を後で教えてって言ってた!」
辰巳 悠希
「あ、ああ~……」
マリア=ロドリーゴ
おい!
イザンナ
「ヒヒヒヒヒ」
イザンナ
「やられたなぁ、教会」
マリア=ロドリーゴ
「”聖カタリナ”!!!!」
フェアリー・ブルダン
「…………???????」
三善清次郎
「すっごいな!?あの子が!へえ~!」
マリア=ロドリーゴ
手をわやわや動かして混乱と感情を表現しようとしている。
辰巳 悠希
「中学生の騎士長……?」
マリア=ロドリーゴ
いやまあ……そういうこともあるが……
辰巳 悠希
コワ~
イザンナ
「才能は年齢に寄らんだろう」
イザンナ
「我など、生まれた時から魔王ぞ?」
辰巳 悠希
「それはそうかもしれないが……」
マリア=ロドリーゴ
というか……姿を見せない情報専門の騎士長が……
マリア=ロドリーゴ
「そういう反応を面白がるために正体を明かすか!?」
フェアリー・ブルダン
「あの人のこと、全然わからなくなってきました……」
マリア=ロドリーゴ
マジか~……
月花 柘榴
「あはは」
三善清次郎
会ってみたいな~、というのは流石にまずいと判断した。大人なので。
マリア=ロドリーゴ
そうだぞ。
辰巳 悠希
そうだな~
イザンナ
「しかし……あれから1年か。変わったものも少しはあろうが……」
イザンナ
「皆が皆のまま集えたことは嬉しいものだなぁ」
マリア=ロドリーゴ
「……まあな」
辰巳 悠希
「そうだな」
辰巳 悠希
「本当にそうだ」
月花 柘榴
「うん」
マリア=ロドリーゴ
「一年前……ここの上の階でアラミタマと対峙した時は」
辰巳果子
「だな」
マリア=ロドリーゴ
「こういう風にできるとは思ってなかった」
三善清次郎
「うんうん。イザンナちゃん良いこと言うなあ」
辰巳 悠希
「俺もだ」
三善清次郎
「……もう一年かあ」
辰巳 悠希
「完全に世界の終わりみたいな気持ちになってた」
イザンナ
「ヒヒヒヒヒ」
マリア=ロドリーゴ
「笑顔で言うか?」
辰巳果子
「顔に出てた」
イザンナ
「あの時はイオリも死にそうになっておったなぁ」
辰巳 悠希
「はは、終わりじゃなかったからな」
三善清次郎
「あはは……まあ、そうもなるよ」
辰巳 悠希
「顔に出てたかぁ」
逆月衣織
「本当にひどいんだ、こいつ」
マリア=ロドリーゴ
「お前が苦労してそうってのは分かる」
逆月衣織
「分かってくれるか」
三善清次郎
「いやあ、1年前もすごかったからな、イザンナちゃんは」
辰巳 悠希
「あの魔王のパートナーだしな」
イザンナ
「痛みを和らげてくれたのはそこのミヨシだ。」
イザンナ
「感謝しろよな」
逆月衣織
「あ、ありがとう……」
イザンナ
「うむうむ」
三善清次郎
「お礼が言えてえらい!」
辰巳 悠希
お礼が言えてえらい。
マリア=ロドリーゴ
お礼が言えてえらいな。
月花 柘榴
お礼が言えてえらいなー!
逆月衣織
「……元はといえばお前が無茶するから……」
イザンナ
「あれから少しは気を付けておろうがよ」
辰巳 悠希
イザンナがパートナーを気遣っている……。
三善清次郎
魔王も変わるんだな~
フェアリー・ブルダン
三善さんが逆月さんの痛みを和らげたってどういう意味だろう?
マリア=ロドリーゴ
ぜんぜん分からない。
月花 柘榴
むずかしいはなしなんだな~
三善清次郎
なんか良く分からないけどお礼言われたから……
月花胡桃
「……」ぎゅっと柘榴の服を握る。
月花 柘榴
「ん」
イザンナ
「クロイツもよろしくと言っておったな。出す顔はないとも言っていたが……まあ。」
マリア=ロドリーゴ
だれだ?
三善清次郎
「誰?」
辰巳 悠希
「もしかしてあの、金ピカの人か?」
イザンナ
「そうだ。」
月花胡桃
「……なんでもない」
マリア=ロドリーゴ
「…………そういえばあれ喋ってたな」
月花胡桃
一年前の話が出てから、少し元気がない。
三善清次郎
「あのひとか~!」
マリア=ロドリーゴ
そういう……なんか……意志がある感じのものだって認識してなかったな……
マリア=ロドリーゴ
金色だし……
辰巳 悠希
金色だったな~
辰巳果子
「あー、喋ってた喋ってた。あの時だれかちゃんとツッコミ入れた?」
月花 柘榴
くるみの手をぎゅっとにぎる。
イザンナ
「ヒヒヒ」
辰巳 悠希
「入れてる余裕なかった……」
三善清次郎
「たいへんだったからな~」
マリア=ロドリーゴ
「そういう空気じゃなかった……」
辰巳果子
「知ってる」
イザンナ
「そうだなぁ……あの時のユウキはなぁ」
辰巳 悠希
「果子~!」
三善清次郎
「あはは」
辰巳 悠希
「イザンナも!」
辰巳果子
「ひひっひ」
フェアリー・ブルダン
「大丈夫ですか、胡桃さん」
イザンナ
「覚えておるよ?再現してやろうか。」
フェアリー・ブルダン
しゃがんで二人に視線を合わせる。
イザンナ
「ヒヒヒヒヒ」
辰巳 悠希
「いい!いいから!」
月花胡桃
「……」
マリア=ロドリーゴ
「……」
マリア=ロドリーゴ
リサの方に視線を向けている。
イザンナ
「…………?」
月花胡桃
「私……あなたの首を飛ばした……」
辰巳 悠希
何やらリサと胡桃に注目が集まっているので、そちらを見た。
三善清次郎
同じく、視線を遣る。
月花 柘榴
「……あっ、あたしも毒漬けにした」
辰巳果子
「ああ、一年前のこと?それで気にしてたんだ?」
イザンナ
「聖モニカなど、穴だらけにしおったぞ?」
マリア=ロドリーゴ
「した」
イザンナ
「なあ?」
辰巳 悠希
「してた」
フェアリー・ブルダン
「そうですよ。あれが一番痛かったんですから」
マリア=ロドリーゴ
「お前が襲ってきたからだ」
イザンナ
「調べた時、それ以外は特に大きな外傷もなかったが?」
フェアリー・ブルダン
「気にしてません。せっかくお呼ばれしたんですから、楽しみましょう」
月花胡桃
「……うん」
月花 柘榴
「あのあとめっちゃ怒られてさー」
フェアリー・ブルダン
「えっ」
辰巳 悠希
「そうだな、いじめるために招待したんじゃなくて、仲良くなりたくて招待したんだ」
辰巳 悠希
「俺とも仲良くしてくれ、胡桃」
月花 柘榴
「人生で一番怖かったよね、"聖ガブリエル"」
月花胡桃
「……う、うん」
イザンナ
「ヒヒヒ、そうか。怒られたか。」
イザンナ
「それはいい」
フェアリー・ブルダン
「え、あ、あ……」
三善清次郎
「聖ガブリエル」
三善清次郎
ヤバい名前だということだけがはっきりわかる。
イザンナ
「…………クルミよ。」
フェアリー・ブルダン
「ご、ごめんなさい!」
辰巳 悠希
ガブリエルって偉い天使じゃなかったか?
マリア=ロドリーゴ
リサを見ている。
月花 柘榴
「えっ」
三善清次郎
えらい天使だし、めちゃえらい聖人の名前だなあ
月花胡桃
「……はい」
イザンナ
「怒られて、そこに立っているという事はな」
イザンナ
「立つことを、許されているという事だ。」
月花胡桃
「……」
月花 柘榴
「でもおかげでくるみの護衛になれた!」
月花 柘榴
「超頑張って交渉した」
月花胡桃
「……うん……!」
マリア=ロドリーゴ
「いいようになったんなら、よかった」
辰巳 悠希
「そうか、すごい交渉術だったんだな」
月花 柘榴
「ほんとめっちゃ頑張ったんだよ」
三善清次郎
「交渉を……」
月花胡桃
「あのときのざくろちゃん、かっこよかった」
イザンナ
「ヒヒヒ……ザクロは偉いなぁ」
月花 柘榴
「死ぬかと思った」
辰巳 悠希
「えらい」
フェアリー・ブルダン
「あああああ、ごめんなさい」
マリア=ロドリーゴ
「シスター・テレサが“聖カタリナ”を同席させると言ってたから……」
フェアリー・ブルダン
「すいません……すいません……」
辰巳 悠希
柘榴の頭を撫でる。
月花 柘榴
「殴り合っても絶対勝てないし、あたしあんま喋るのうまくないから……」
三善清次郎
「……まあ、でも。柘榴ちゃんと胡桃ちゃんが仲良くやれててほんとによかったな」
月花 柘榴
「お? へへ」
三善清次郎
「柘榴ちゃん、ずっと胡桃ちゃんのこと心配してたから」
イザンナ
「困った時はよべよな」
イザンナ
「ともだちだからなぁ」
辰巳 悠希
「そうだな、俺もいつでも呼んでくれ」
月花 柘榴
「くるみもなでて、ほら、あたしだけだとアレだろ」
イザンナ
「ふたりを苦しめるやつは。力が戻ったら、消し炭にしてくれる!」
辰巳 悠希
胡桃の方を見る。
「撫でても大丈夫か?」
月花胡桃
「……ん」
辰巳 悠希
「いい子いい子、頑張った」
辰巳 悠希
胡桃を撫でる。
月花 柘榴
「がんばった!」
月花胡桃
「……あり、がとう…………」
月花 柘榴
「くるみはすごい!」
辰巳果子
「ていうか、そっかあ」
月花 柘榴
一緒にくるみをなでる。
辰巳果子
「あの時は、子供たちの国だったけど……」
辰巳 悠希
柘榴と一緒に胡桃を撫でている。わしゃわしゃ。
辰巳果子
「今となっちゃ、すっかり大人の場所だな」
辰巳 悠希
「そういえばそうだな」
イザンナ
「おう、ザクロとクルミも大人の仲間入りか?」
三善清次郎
1年前も、2年前も思いつめた顔ばかりしていた柘榴の笑顔に頬が緩む。
辰巳果子
「ゲームとか置いときゃよかった」
マリア=ロドリーゴ
「つっても、子供のために買った家なんだろ」
辰巳果子
「ああ」
辰巳果子
「見てくか?」
月花 柘榴
「見たい!」
辰巳 悠希
「かわいいぞ、うちの娘は」
マリア=ロドリーゴ
「ん。」
イザンナ
「無論だ。」
三善清次郎
「あ、そうだそうだ、じゃあ、これ」辰巳に大きめの紙袋を手渡す。
月花胡桃
「うん」
辰巳 悠希
「ん、なんだ?」
紙袋を受け取る。
三善清次郎
「お祝い」
イザンナ
「ふふん……ワタシも何か作るぞ?何がいい?武器か?」
辰巳果子
「どれどれ」のぞき込む
三善清次郎
無難にふわふわのタオルとか、ブランケットとか、そういうやつの詰め合わせだ。
三善清次郎
メッフィーちゃんと選びに行ったやつ。
辰巳 悠希
「すごい、気遣いがすごい」
辰巳果子
「お、気が利く!」
辰巳果子
「いや、助かる!」
辰巳 悠希
「こういうのが常識か……」
辰巳 悠希
「ありがとう、三善」
三善清次郎
「あの時お祝い渡すって言ったしね~」
三善清次郎
「大人だから!」
辰巳 悠希
「約束を守る男だな」
三善清次郎
「おうよ」
辰巳 悠希
「大人でえらい」
三善清次郎
「辰巳おにーさんもしっかり家庭守っててえらい!」
辰巳 悠希
「偉い大人組合だ」
三善清次郎
「おっと、ごめんごめん。じゃ、行こうか。お姫様見に」
辰巳果子
隣の部屋を見て、すぐに戻ってくる。
辰巳果子
指に手を当てる。
辰巳果子
「静かにな」
マリア=ロドリーゴ
頷いた。
辰巳 悠希
「ちょっと待て」
辰巳 悠希
アルコールスプレーを出す。
辰巳 悠希
「消毒してからだ」
イザンナ
「?」
月花胡桃
「触っていいの?」
マリア=ロドリーゴ
へ~、という顔をした。
辰巳 悠希
「もちろん」
辰巳 悠希
「イザンナ、とりあえず手を出してくれ」
三善清次郎
大人しく両手を出す。煙草はここ二三日吸ってないぞ。
辰巳果子
「指を出すと握るぞ~」
イザンナ
手を出す
月花 柘榴
「ほんとに!?」
辰巳 悠希
シュッシュッ
イザンナ
「魔除けか?」
月花 柘榴
両手を出して消毒してもらう。
マリア=ロドリーゴ
手袋を外している。
辰巳 悠希
「みたいなものだ」
三善清次郎
「最近はそういうのにも使うらしいね~」
辰巳 悠希
「よく揉み込んでくれ」
月花胡桃
両手を出して消毒してもらう。
イザンナ
もみこむ
三善清次郎
もみこみ…… もみこみ……
フェアリー・ブルダン
手袋を外している。
月花 柘榴
くるみの手をもむ。
辰巳 悠希
シュッシュッ シュッシュッ
マリア=ロドリーゴ
大人しく消毒されて手を揉んでいる。
逆月衣織
戸惑いつつ続く。「自分も……?」という顔
辰巳 悠希
シュッシュッ
三善清次郎
「すっかり良いお父さんだなあ」
イザンナ
「これは……祝福せんとなぁ」
辰巳果子
最後に手を出して、両手を揉みこんで
辰巳果子
スプレーを受け取り、悠希の手に。
辰巳 悠希
「どうかな、ちゃんと父親やれてたらいいけど」
辰巳 悠希
果子にスプレーしてもらう。
辰巳 悠希
もみこむ。もみもみ。
三善清次郎
「うちの兄貴よりちゃんとしてる」
辰巳果子
少し開いたドアから、中へ。
辰巳果子
寝顔を見て、皆を手招きする。
マリア=ロドリーゴ
言われた通りに、静かに。
月花 柘榴
足音を立てないようにそっと歩く。
イザンナ
浮いている。
月花胡桃
ちょっと緊張する。
三善清次郎
少し後ろから。
フェアリー・ブルダン
静かに部屋へ。
逆月衣織
浮いてる……と思っている
辰巳 悠希
浮いてるな……
イザンナ
静かであろうが
辰巳 悠希
静かだな……
マリア=ロドリーゴ
音を立てなくて偉い
辰巳 悠希
えらい
三善清次郎
浮かべるのいいな~
月花 柘榴
しずかでえらいなー!
辰巳 悠希
全員の後ろから、部屋の様子を見守る。
辰巳果子
悠希と目が合う。
辰巳果子
幸せそうに微笑んだ。
辰巳 悠希
果子と目が合う。
辰巳 悠希
微笑まれて、微笑み返した。
辰巳 悠希
幸せだなぁ、と思う。
辰巳 悠希
友達が、娘と遊ぶ様子を見て笑う。
辰巳 悠希
2011年3月29日、父の心臓を喰らったあの日から。
辰巳 悠希
こんなに幸福で、心から笑える時が来るとは思わなかった。
辰巳 悠希
ふと窓の外を見ると、はらりと白いものが過る。
辰巳 悠希
雪が降り始めている。
辰巳 悠希
──雪は美しいが、災厄しか持ち込まない毒婦だ
辰巳 悠希
思い出して、苦笑する。
辰巳 悠希
以前は冒頭しか思い出せなかったが、今なら全文思い出せる。
辰巳 悠希
子供の頃の、ちょっぴり恥ずかしい思い出。
辰巳 悠希
最愛の妻と出会った時の話。
辰巳 悠希
ああ、そうだ。
辰巳 悠希
これは、恋と出会いと、変化の詩だった。
辰巳 悠希
──君の姿が美しいばかりに、僕はこんなにも判断を間違える
辰巳 悠希
「間違えていいことも、あったな」
辰巳 悠希
正しいことができた訳ではない。
辰巳 悠希
でも、運命は誰にも分からない。
辰巳 悠希
生きていこう。
辰巳 悠希
せっかく生まれてきたのだから。
辰巳 悠希
自分が望むことを止めない限り、希望はあるから。
GM
箱庭で、目が覚めた。
GM
どこか懐かしく、
GM
どこか優しく、
GM
どこか寂しくて、
GM
どこか不気味な安息の地だった。
GM
夢を見る愛しい人。
GM
孤独に泣く血縁者。
GM
迷い込んだ妖精。
GM
人を愛した亡者達。
GM
愛さえなければ、誰も死なずに済んだのに──
GM
のに
従僕たち
けど
従僕たち
けどー?
従僕たち
後悔はしているか?
従僕たち
いやー
従僕たち
してない!
従僕たち
してないねー
従僕たち
ね!
従僕たち
そうだな
従僕たち
人の
従僕たち
ママの
従僕たち
パパの
従僕たち
かこの ゆうきの
従僕たち
愛に触れることができた
従僕たち
じゅーぶんだね!
従僕たち
だねだねっ
従僕たち
うん うんっ
従僕たち
ああ──
従僕たち
我々は満足だ。
GM
みな、戦っていた。
GM
愛と共に生き、愛のために戦うことを選んだ。
GM
人は美しい。人は愛しい。
GM
だから彼らは、祝福と共に生まれ、祝福と共に死に、人々の明くる日を祝福する。
辰巳 悠果
赤ん坊が、笑った。
GM
武装伝記RPG『神我狩』──モノプレイシナリオ『在りし日のリバース、明くる日のリバース』
GM
──終──