GM
ヘルブラムは動かない。だが、死んでいるかは分からない。
コウキ
手をついて起き上がって、ふらりと歩み出る。
コウキ
スクエアのほうではなくて、ヘルブラムのほうへ。
ヘルブラム
這いつくばり、血の海の中に倒れている。
ヘルブラム
その体は、わずかに震え、動いているように見える。
ヘルブラム
血が飛び散り、ヘルブラムの体が跳ねる。
ヘルブラム
まだ死なない。まだコインの力はヘルブラムを生かしている。
ヘルブラム
首を殴られながら、息の根を止められようとしながら、血まみれの笑う顔がコウキを見つめる。
ヘルブラム
「末裔は、俺の役には立たねえ。
だから、死んでおいたほうがいい」
ヘルブラム
「救世主は、いずれ俺に楯突く。
だから、みんな殺しておいたほうがいい」
ヘルブラム
笑い声は、殴られるたびにうめき声とともに途切れる。
ヘルブラム
それでもまだ、しばらくは笑い続けている。
コウキ
言葉が途切れてもしばらく、殴り続けていた。
GM
ヘルブラムの身体は、もうほとんど原型を留めてはいない。
スクエア
本当は、お前にまだ、伝えていないことがある。
スクエア
救世主のもとに末裔が辿り着くまで。
長いようで、その実は束の間であったかもしれない。
スクエア
膝を折って、辛うじて身を起こして、声を掛ける。
スクエア
救世主は、他の救世主を殺さなければ、生き永らえることができない。
スクエア
言葉はなく、ただ、傷が痛むのも構わないで、強く。
GM
ヘルブラムの配下は、彼の死とともに散り散りになり、姿が見えなくなった。
GM
あなたたちや、村人たちからの報復を恐れたのだろう。
GM
だが、荒野に逃げたかれらの、何人が生き延びられることか。
GM
一方で、火は消し止められ、略奪が止められて、村人の生存者は少なくなかった。
*
「蓄えも燃やされず、ほとんど無事で済みました」
*
「救世主さま、あなたがいなければどうなっていたことか」
*
村人たちは、口々にあなたを褒めたたえ、礼を言う。
GM
そして、もしかしたら、その中にある彼らの恐れに、気づいてしまったかもしれなかった。
GM
あれほど残虐の限りを尽くし、戯れに末裔たちを殺し、村を燃やそうとしたヘルブラム。
GM
それほど恐ろしい救世主を、あのような変わり果てた姿になるまで打ち据え、殺したあなたを、末裔たちが恐れないはずはなかった。
GM
あなたを温かく歓迎し、嬉しそうに声をかけ、食べ物を振る舞ってくれた村は全く空気を変え、どこかよそよそしく。
*
『末裔は、俺の役には立たねえ。
だから、死んでおいたほうがいい』
コウキ
あのときのヘルブラムの声が頭から離れない。
*
『救世主がいなきゃ何にもできねえ、末裔が……』
*
『俺様を戦わせて、見ているだけの末裔が……!』
GM
あるいはあのヘルブラムも、いつかはこんな風に、よそよそしい感謝を捧げられたのだろうか?
コウキ
ヘルブラムの言う通り、みんな見ているだけだった。
GM
あなたの隣にはただ一人、共に戦った末裔の姿がある。
スクエア
口数は少なく、何を考えているかなんて分からないような顔をして。
GM
かれらはあなたに殺されたくないから、笑うのだ。
GM
もしかしたら、あなたの持つ力の恩恵にあずかるために。
コウキ
その体は言葉とは逆に、ちいさく震えている。
GM
村人たちは、ヘルブラムに殺された遺体を弔い、生き延びたことを祝い、喜んでいる。
GM
それが、あなたにとって価値のあるものなのだったのか、今はもう分からない。
GM
あなたは、この堕落の国に落ちて、はじめての裁判を生き延びた。
コウキ
村人たちの笑い声が、どこか遠くで聞こえる。
コウキ
それはじぶんが勝ち取ったものなのに、他人事みたいで。
GM
Dead or AliCe シナリオ
『人間の子供』