導入

GM
心に疵を持つ者
GM
招待状に招かれ落ちる堕落の国。
GM
ここに、新たに招かれた者3人。
GM
周囲は見渡す限りの荒野。
GM
この峠を越えれば、街がある。
GM
この峠を越えれば、人がいる。
GM
この峠を、越えられれば。
GM
GM
――そこに、一体のアンドロイドが立っている。
ミケ
艶やかな黒髪を長く伸ばした、男とも女ともつかない姿をしている。
ミケ
遠くて懐かしい未来、家庭用のロボットとしてつくられたこの『製品』は
ミケ
使用者に危害を加えたことで廃棄されるはずであったところ、
ミケ
いつの間にやらこの堕落の国へ。そうしてこの峠に立っている。
ミケ
人の手によって作られた人ならざる救世主は、人と同じように心の疵を持つ。
ミケ
ひとつは『感情の欠落?』──心を持ちえない『はず』という疵。
ミケ
もうひとつは『不良品』
ミケ
ユーザーの首をもごうとしたので廃棄されました。
ミケ
(4:3のブラウン管の画面に商品を宣伝するCMが流れるイメージ)
GM
――そうして、また少し離れた場所に女性が一人。
イレネ
ナイフでざっくりと切り落としたような金の髪。
左の顎から頬にかけて、傷。
イレネ
薄い色の瞳は冷たい。
イレネ
海の向こうを見晴かしていたはずの目が、今は荒野を睥睨している。
イレネ
かつて、さほど遠くない過去には、祖国の国立軍学校で学年次席を占めていた。
イレネ
今は違う。
イレネ
海の上、商船を襲い、人を攫い、身代金を獲って生きている。生きていた。
イレネ
己は『選良』である。
自ら頼むところも大きかった。なんでもできた。できるはずだった。
そうでなければならない。
イレネ
しかして、『零落』。
敗戦と、生家の没落と。己の手だけでは留められないもの。
届かなかったものがある。
イレネ
そして今また、船の上からここにいる。
GM
――また別の場所に、男が一人。
カズマ
中肉中背、ありふれたサラリーマンの男性。
カズマ
と、出身世界では形容される姿だが、この国ではその言葉も通用しない。
カズマ
スーツにワイシャツ、ネクタイは堕落の国に相応しく今でもフォーマルで、
カズマ
しかし今は礼節を払うべき取引先もいなければ、マナーもない。
カズマ
堕落の国の正しさは、生存によってのみ示される。
カズマ
家のポストから出てきた封筒一つのせいで、
カズマ
今だ帰宅途中の身。
カズマ
妻と子供を愛している。
カズマ
そうした胸中を、カズマは証明せずにはいられない。
カズマ
行動で、結果で示すことができなければ、それはないのも同じ。
カズマ
完璧主義者・自傷癖・強迫観念――心の疵『証明者』。
カズマ
その疵は、幼少期のトラウマから来る。
カズマ
愛を口にする父の暴力を受けて育った。
カズマ
守ると言った妹を守れなかった。
カズマ
幼年期の虐待・愛する者との死別――『降り止まぬ雨』
カズマ
「だから僕は家に帰らないといけないんですよ」
GM
GM
強く風が吹いている
GM
木々の生えない堕落の国の荒野で
GM
ざわざわと、さわさわと
GM
葉のこすれあう音と、何かがぱらぱらとぶつかり合う音が響く
GM
耳鳴りのような、高く甲高い音
GM
そうして
GM
雨が降り始める
GM
ざわざわ
GM
さわさわ
GM
それは、竹のぶつかり合うような音を立ててゆっくりと移動していた
GM
藪のような細かく分かれた足に
GM
太くまっすぐに伸びた竹筒のような首
GM
節には5対の目玉があって
GM
何かを探すようにぎょろりと視線を巡らせていた
GM
伸びた首の元には籠。
GM
丁度腹にあたる部分に、女が一人囚われていた
GM
泣いているようであった
GM
それが、少し離れた場所をさまよっている
GM
しゅう
GM
と、白い煙が立ち上る
GM
それは、地面であったり
GM
救世主の服や、持ち物であったり
GM
それから僅かな刺激臭
GM
雨を掬って触れて見れば
GM
少しぬるりと嫌な感触
GM
酸の性質を持つその雨は、徐々に強くなっていった
GM
追い立てられるように、3人は……
GM
やがて、互いを見つけるだろう。
イレネ
いの一番に、二人を見つける。目が良い。
イレネ
雨も嵐も慣れている。
カズマ
まずいな。屋根がある場所を探して、走る。
ミケ
きょろきょろと雨を凌げる場所を──どこか機械的に探していたその人影は、同様の姿を見つけて笑顔を向ける。
カズマ
イレネがカズマを見つけるのはそうして、泥の中を駆けているところだ。
カズマ
「……!」
イレネ
焦る様子もなく近づいていく。
ミケ
それから女の視線を追うように首を巡らせて、もうひとり。
カズマ
近づいてくる人物に警戒し、ネクタイを腕に巻く。
ミケ
「こんにちは!」
カズマ
「……こんにちは」
ミケ
「何かお役に立てることはありますか?」
GM
周囲に木々はない。
GM
先ほどの亡者の姿も見えなくなってしまった
ミケ
酸の雨の降りしきる中、長い脚で大股に近づいていく。
イレネ
「役に立てると思うか、この雨で」
ミケ
「ただいま降っている酸性雨は、人体に多大な影響を及ぼす場合がございます」
ミケ
「何時間耐えられるか計算が可能です。いかがいたしますか?」
カズマ
こちらの警戒を無視して接近するそれに動揺する。
カズマ
なんだ? こいつ。
イレネ
ミケを一瞥だけして視線を外す。
イレネ
目線はカズマへ。
カズマ
「……この雨、二人の力じゃないようだな」
ミケ
にこにこと微笑んでいる。
ミケ
「V-2451-F "ミケ"はあなたの孤独を完璧に埋める家庭用アンドロイドです」
ミケ
「降雨を発生させる機能はございません」
GM
そうして、3人が集まったころ
GM
す……と。3人を覆うのに十分な影が差す。
カズマ
「少なくともここで争っている余地は――」影に気付く。
GM
背後を見れば赤い赤い、立派な柱を持つお屋敷の門が。
GM
待ち構えていたように、そびえたつ。
ミケ
エラーを検知してビープ音が出ます。
カズマ
メガネの水滴を袖で雑に拭う。
イレネ
「……なんだ、……」
カズマ
「屋敷、か」
イレネ
「……でかいな」
ミケ
「建造物を検知しました」
カズマ
「見ればわかる」
ミケ
「酸性雨から身を護れる可能性があります」
カズマ
「罠、かもしれんぞ」
イレネ
「……まあ、疑ったほうがいいことはそうだろうよ」
ミケ
「罠とは 中にえさを置いたりして鳥獣を誘い寄せ、その足になわ等をからませて捕らえる仕掛け。転じて、人をおとしいれる策略。」
ミケ
「ほかの建造物を捜索しますか?」
GM
雨は強くなる
ミケ
しゅうしゅうとからだから煙が立ち上る。
イレネ
「お前少し黙ってろ」
イレネ
「入るしかないな。ほかを探してる余裕はない」
ミケ
「…………」
カズマ
「……それしかないようだな」
カズマ
カズマが先に行く。
GM
きぃ、と音を立てて門が開く。
GM
広く、暗い玄関が救世主を待ち受ける。
ミケ
後に続いて入ります。
ミケ
無言で。
カズマ
「歓迎されているな」
ミケ
ぐるりを見回す。
カズマ
入っていく。
GM
3人が屋敷の玄関に足を踏み入れると、扉が閉じる。
イレネ
「……ずいぶんな歓迎、だな」
GM
雨音はくぐもり、灯りがともされた。
GM
そうして
GM
奥から少々小柄な男が歩いてくる。
慢月
「やあ、災難だったね」
慢月
武器を構える様子はなく、少し離れた位置に立ったまま。
ミケ
目を向けて、その姿をじっと見つめる。
慢月
「ああ、警戒しなくていいよ。僕は慢月。この屋敷を管理している者さ。」
カズマ
その態度に、手に巻いたネクタイをポケットに突っ込む。
カズマ
「助かりました。僕はカズマ。お招き頂きありがとうございます」
ミケ
「V-2451-F "ミケ"は、あなたの孤独ではない満たされた人生を保障します」
イレネ
左腰の剣の柄を、左手でなぞりながら。
ミケ
5分経ったので『少し黙ってろ』の少しが経過したと判断し、喋り始めました。
イレネ
「イレネという」
慢月
「ああ、よろしく。この雨は厄介だからね」
慢月
「止むまで、ここに滞在するといい」
カズマ
「このあたりはよくあることなんですか」
ミケ
酸性雨の成分組成を読み上げている。
慢月
「ああ。このあたりは耳鳴り峠と言ってね。見たかな……?厄介な亡者が住み着いているんだ。」
カズマ
「なるほど、あれのせいですか……」
カズマ
「お言葉に甘えて、雨宿りをさせていただきます」
心月
「兄上、こちらを……」
心月
屋敷の奥からもう一人、大柄な男が歩いてくる。
心月
その手にはやわらかな布を抱えて。
心月
「皆様に。いくら屋敷の加護があるとはいえ……」
心月
「そのままではお風邪を召されます。」
イレネ
視線だけがゆっくりと、屋敷の二人を交互に見ている。
イレネ
「……そちらは?」
慢月
「心月。僕の弟だ。」
心月
頷いて、その布を3人に順番に差し出す。
カズマ
「ありがとうございます」
ミケ
「心月さま、ありがとうございます」
イレネ
「……ありがたく」
カズマ
何もかもを真に受けるわけには当然いかない。が、示された好意を拒むわけにもいかない。実際にその申し出はありがたいばかりだ。
ミケ
丁寧に雨粒を拭く。
GM
屋敷に入ってからというもの、酸の臭いは消え去り。
GM
雨粒が身体を蝕むことはない。
ミケ
拭いた雨粒をじっと見つめる。
ミケ
ビープ音。
心月
「ここは『神楽耶の屋敷』」
カズマ
隠すことなく、タオルを検分してから使う。
イレネ
一度バンダナを外し、絞って、それから髪をがしがし拭きながら聞いている。
カズマ
救世主が他の救世主を警戒することは当然。この程度は失礼に値しないだろう。
心月
「どうぞ、雨のやむまでおくつろぎください」
カズマ
「どうもありがとうございます」
ミケ
「ありがとうございます。何かお役に立てることはございますか?」
イレネ
「どうも」
GM
渡された布に奇妙なところはなく、あえて言うのならそれは現代のタオルより給水効率は下がるだろう。
慢月
「ふふ、変な事を言うなぁ。僕達は招いた側だよ。」
カズマ
この堕落の国では、これでも上出来すぎるくらいだ。
ミケ
一通り体を拭き終わり、心月と慢月だけではなく、この場にいる全員を笑顔で見つめている。
イレネ
イレネからすればむしろ上等な部類。
慢月
「ゆっくりしていけばそれでいいさ。」
慢月
「でも、そうだな。せっかくだから……」
慢月
「時間があれば、いろいろ話し相手になってくれると嬉しいよ。」
慢月
「救世主の出身地はばらばらだ。」
慢月
「面白い話は、退屈しのぎにもってこいだからね。」
ミケ
「かしこまりました」
カズマ
「その程度でよいのでしたら」
カズマ
頷く。
イレネ
「話ね。聞きたけりゃどうぞ」
慢月
「ありがとう」
慢月
「2人きりだと、話題も尽きるというものだからね」
ミケ
「それではどのようなお話をいたしましょう? アーカイブから選択し、決定ボタンを押してください」
ミケ
決定ボタンがどこにあるかは不明である。
慢月
「あーかいぶ?」
カズマ
「お前、大丈夫か?」
ミケ
「V-2451-F "ミケ"はあなたの孤独ではない満たされた人生を保障します!」
イレネ
「やっぱり黙らせておいたほうがいいんじゃないのか、こいつ」
カズマ
「調子が悪いなら僕が見ますよ」
慢月
「ふふふふ」
慢月
「退屈しなくてすみそうだ」
心月
「…………しかし、兄上」
心月
「彼らもつかれておりましょう」
心月
「部屋を用意いたしましたので、ご案内しても?」
慢月
3人を見る
慢月
「そうだね。」
慢月
「今日は休んでもらって、また明日にでも。」
慢月
「まだ、暫く降り続きそうだからね」
心月
「では」
心月
「お荷物は……多くはなさそうですね」
心月
「ご案内いたします」
カズマ
「感謝します」
イレネ
ただ肩を竦めてついていく。
ミケ
手ぶらのアンドロイドが最後尾に続く。
ミケ
道すがら、時折周囲を見回しては何か書き込み音がした。
カズマ
こいつ、やっぱり機械か……。
ミケ
V-2451-F "ミケ"はあなたのための孤独ではない満たされた人生を保障します。
GM
3人が通されたのは『子安貝の間』。
GM
客室、というには変わっており、大きな部屋に5つの寝室が御簾で仕切られた作りをしている。
GM
畳張りのベッドにはそれぞれに布団が敷かれている。
カズマ
一方、イレネ。肝の据わった女だ。
カズマ
周囲の観察をしながら、同行する救世主を見る。
イレネ
視線にふと笑う。
イレネ
「警戒するなよ」
カズマ
「あなたが一番信頼できそうですね」
ミケ
並ぶ寝台の中央にぼっ立っている。
カズマ
「あれは……」どうなんだ。
ミケ
「防犯機能をオンにしますか?」
心月
室内を見渡し、不備がないかを確認して
心月
「滞在中はこちらの部屋をお使いください。」
心月
「他の部屋も出入りは制限しておりません。」
カズマ
「……厳重に頼むよ」ミケに。
ミケ
「かしこまりました」
心月
「室内のものも使って構いませんし……後程、水瓶と軽食をお持ちします。」
カズマ
「何から何まですみません」
GM
部屋の真ん中には丸いテーブルと、椅子が5つ。
カズマ
頭を下げる。
心月
「気になさらないでください」
心月
「我々も……ここに、ずっとふたり。」
心月
「来客は歓迎したいのです」
イレネ
「同じ面ばっかり見てるのは飽きるからな」
イレネ
「外の風ってのは大事だ」
心月
「ええ」
カズマ
曖昧に微笑む。飽きるという感情は、カズマにはあまり心当たりがなかった。
ミケ
笑顔でやり取りを聞いている。
心月
「…………では、失礼いたします。」
ミケ
「ご用がありましたらお申し付けください」
ミケ
客の発言ではない。
心月
「ふふ……」
心月
「ミケ様は、変わったお方ですね」
ミケ
「『ミケ』は家庭用高機能アンドロイドです」
心月
あんどろいど、という単語になじみはない
ミケ
「統一規格で製作されており、品質が担保されています」
カズマ
カズマの世界には、アンドロイドはまだ実用されていなかった。
心月
家庭用、高機能という言葉から。
おそらく使用人か奴隷の類なのだろうと。
ミケ
「異常や不明な点がございましたら、カスタマーサポートにご連絡を」
イレネ
こちらは完全に聞き流す顔をしている。
ミケ
堕落の国にサポートセンターはない。
心月
「困りましたね」
心月
「ええと……」
カズマ
「要は、勝手に動く人形みたいなものですよ、アンドロイドって」
カズマ
僕が全部説明しないといけない気がしてきたな。
心月
「人形……絡繰ですか」
イレネ
「はあん」
ミケ
「家庭用高機能アンドロイド……」
ミケ
主張している。
イレネ
「高機能には見えねえな」
カズマ
「まあ、変なことをしないか見ておきます」
心月
「破壊などされなければ……問題ないかと」
カズマ
急に家具を囓りはじめてもおかしくなさそうだ。
心月
「では、お食事はふたりぶん……」
ミケ
「『ミケ』の動力は腹部の結晶によってまかなわれております」
ミケ
「エネルギー切れかな? と思ったら、ホームページからお取り寄せを」
ミケ
堕落の国にインターネットはあるのだろうか?
カズマ
未来の技術だな。
心月
「…………」
カズマ
持ち帰ることができたら、金になるかもしれない。
心月
「おふたりぶん。お持ちしますね」
イレネ
「悪いな」
カズマ
「ありがとうございます」
GM
GM
濡れた布を交換し、水差しと食事が運ばれてくる。
GM
味のついた粥と、揚げたパン。
GM
食事をテーブルに並べると、心月は部屋を後にする。
GM
部屋には三人の救世主が残された。
ミケ
テーブルにはつかず立ったまま、傍に控えています。
イレネ
「……燕麦じゃねえな。なんだこれ」
カズマ
「穀物の一種でしょう」
カズマ
「うちのところにも似たのがありましたよ」
カズマ
「イレネさん。先食べていただけますか」
イレネ
「ふうん?」
カズマ
「僕は回復の力があります」
カズマ
「毒が盛られてても、どうにかなりますよ」
カズマ
笑う。
イレネ
「ではわたくしが一匙目をいただきましょうか」
イレネ
遊ぶような声。
イレネ
年齢や服装に見合わぬ、丁寧な手付きで匙を取り。
イレネ
特に恐れる様子もなく一口。
カズマ
それを眺めている。
カズマ
あの家電に毒味させてもよかったかもしれないな、と思いながら。
ミケ
お食事時に合う音楽はいかがですか? などの音声を上げています。
カズマ
ちょっと流してみてくださいよ、とミケに聞いてみる。
GM
少々薄味だが重みのある米粥。
イレネ
「大したもんは入ってねえな。
 塩と若干の油。あとは……ブイヨンじゃねえな。よくわからんがそういう系統の何か」
ミケ
がしゃっ、という異音。
ミケ
「カセットテープを挿入してください」
カズマ
は?
ミケ
「カセットテープを挿入してください」
カズマ
指で押して蓋を閉める。
イレネ
「お前、下手にこいつに構うのやめろよ」
ミケ
かしゃっと音を立てて閉まりました。
カズマ
「……そうですね」
カズマ
僕が悪かった。
ミケ
命令を待つような眼差しであなたたちを見つめている。
カズマ
「毒味には慣れているようですね、イレネさん」
カズマ
同様に粥を啜る。
イレネ
「いいとこの出なもんで」 冗談交じりに。
カズマ
「それじゃあ相応に扱わなければいけませんね」あながち嘘でもなさそうだ。
イレネ
「別に。今は大したことないよ。
 あんたみたいな真面目そうなのをカモるのがお仕事」
カズマ
「ふふ、それはそれは」
カズマ
「カモれたな、と思って頂くのが僕の仕事なので」
カズマ
ぴったりですね。
ミケ
「『ミケ』はあなたのための孤独ではない満たされた人生を保障します」
カズマ
「ミケってうちでは猫につける名前でしたよ、そういえば」
イレネ
「猫のほうがずっとマシだな」
カズマ
「ミは数字の3、ケは体毛のこと。三色の猫ですね」
カズマ
「アンドロイドでカセットテープとは、お前なあ。未来なんだかそうじゃないんだか」
カズマ
「こいつ、救世主なんですかねえ」
カズマ
イレネに向かって。
イレネ
「さあ。コイン持ってるかどうか聞けよ」
ミケ
「2倍録音も可能です」
カズマ
もっと夢のある倍率を言ってくれ。
カズマ
「お前はコインもってるのか?」
ミケ
「はい」
ミケ
「確認されますか?」
カズマ
「では頼む」
ミケ
腹部を開けると、クリスタルではなくコインが十枚入っているのが見える。
カズマ
「ははぁ」
カズマ
「ありがとう。閉めていいよ」
ミケ
「かしこまりました」
ミケ
腹部を閉じた。いちいちガシャっという音が鳴る。
カズマ
「……やっぱりこれ無下にはできなさそうですよ」
ミケ
「何なりとお申し付けください」
イレネ
「……めんどくせえな……」
カズマ
「急に暴れ出したりしたら普通に止められなさそうですよね」
ミケ
微笑んでいる。
イレネ
「どうだろうな。手足のどっか一本落ちると、かなりバランス取れなくなるから」
イレネ
「どっか一本壊して逃げるのが丸い気がするな」
ミケ
「『ミケ』は完璧なバランス機能が搭載されています」
カズマ
そのときは腕1本でももらって帰りたいところだ。
ミケ
「パーツの交換はホームページ記載のメールアドレスまで……」
カズマ
実際、アンドロイドとして機能してるだけですごい。
カズマ
「お前がすごいのはわかったよ」
ミケ
「ありがとうございます」
GM
そうして、食事を終えた頃。
GM
天井の明かりが、徐々に弱くなる。
GM
堕落の国の暗い空の、それよりも暗い雨雲の下。
GM
時間の経過はわかりにくいが、夜が訪れたという事らしい。
カズマ
「……交代で寝ましょう」
イレネ
「あんた、一人で起きてて役に立つか?」
カズマ
「ははは、目覚ましにはなりますよ」
ミケ
「アラームを設定しますか?」
イレネ
「カズマ、長めに寝ていいぞ。あんたより慣れてる」 ミケはスルーした。
カズマ
「でしたら、その分散策の時間を増やしましょう」
カズマ
「僕もこう見えて、結構タフなんですよ」
カズマ
実際にHPが多い。
イレネ
「そうか。慣れねえことしてトチるなよ」
カズマ
「努力します」
イレネ
「じゃあお先。眠くなる前に起こせよ」
カズマ
「おやすみなさい」
ミケ
「おやすみなさいませ」
カズマ
待っている間は、こいつをいじるか……。
ミケ
「寝入りにぴったりの音楽はいかがですか?」
イレネ
無視。
カズマ
無視。
ミケ
……
カズマ
腕とかの作りを触って調べながら、時間が過ぎるのを待ちます。
ミケ
人間らしい皮膚の下に、機械の感触がある。
GM
GM
雨が降り続いている
GM
屋敷の壁は溶けることはないが、だからと言って音まで完全に遮断しているわけではない。
GM
話し相手がいなくなれば、それは一層強く
GM
――
GM
そうして、いくらかの時が過ぎた頃
GM
獣の咆哮、悲鳴
イレネ
「…………」
カズマ
「イレネさん」
GM
そう言ったものが、建物のうちから響く
イレネ
「起きてる」
ミケ
鳴き声から類推される動物をサジェストしています。
GM
大きな物音はなく、それもすぐに止む
GM
では、ミケは気が付くだろう
GM
その咆哮は、呻きは。鼠の発する音に少し似ている。
ミケ
「ただいまの鳴き声はネズミのものと思われます」
ミケ
「…………」
ミケ
「巨大なネズミのものと思われます」
カズマ
「ネズミの亡者か」
GM
部屋には夜間もカギは掛かっておらず、外出も無論制限されていない
カズマ
「行きますか? イレネさん」
イレネ
「……外があの雨だ。やるとなったら逃げられねえ」
イレネ
「行くしかねえな。あの兄弟が飼ってたわけじゃねえことを祈れ」
カズマ
「では、行きますか」
カズマ
「ミケも来てください」
ミケ
「かしこまりました」
GM
物音は既に収まっているが、その方角はミケのマッピングした位置によると
GM
【御石の間】一面が石造りの冷たい部屋
ミケ
声の方角を指し示しつつ、それはそれとして、ネズミの駆除業者の電話番号を読み上げています。
カズマ
「オーケー。そこにピザ注文しといて」
ミケ
「かしこまりました」
GM
部屋の扉は閉じており、内部の様子はうかがえない
ミケ
電話がかからないのでビープ音を発しています。
イレネ
「静かにしろ」
ミケ
「…………」
イレネ
扉に手をかける。
カズマ
すぐ次いで動けるように身構える。
イレネ
「……開けるぞ。備えろ」
イレネ
端的に言って。
イレネ
開く。
GM
扉が開かれる。
心月
丁度、部屋を出ようとしていた心月と、視線が合う。
心月
「…………おや」
心月
血を拭ってはいるが、服には返り血が。
心月
そしてその背後には腹を裂かれた巨大な鼠が横たわっていた。
ミケ
ネズミの駆除業者の電話番号を心月に伝えようとして、止まりました。
心月
「申し訳ございません。起こしてしまったでしょうか。」
イレネ
「……そうだな。あんたがやったのか」
心月
「ええ。」
ミケ
変わって、ネズミが家内に出る原因や経路などについての一般的な知識を垂れ流し始めている。
カズマ
「それ、亡者でしょうか」
心月
「はい」
カズマ
「無事でよかった。怪我はありませんか?」
カズマ
「多少の手当ならできますので」
心月
「お気遣い、感謝いたします」
心月
「ふふ……大丈夫ですよ。」
ミケ
「『ミケ』の収集したデータによると、亡者は動物の姿を模していても、実際の動物とは生態が違う場合があります」
心月
「ええ。しかし、まだ腐り始めてはいませんから……」
心月
「ええと」
心月
「せっかくのお客様ですので……」
イレネ
「……有効活用ってとこか?」
心月
「肉団子でも作ろうかと。」
イレネ
「…………」 心月のことを、矯めつ眇めつ。
イレネ
「屠殺には向かねえ時間だと思うがね」
心月
怪我はなく、服を汚すのは返り血で
カズマ
「それはそれは。どうもありがとうございます」
心月
出血箇所はないように見える。
ミケ
血の染みを洗濯する場合の効率的な方法について──
心月
「朝食に……間に合えばと」
ミケ
オキシドールなどを勧めています。
心月
おきしどぉる
ミケ
オキシドールです。
カズマ
「無事そうでしたら、部屋に戻りましょうか」
心月
「ええ。お騒がせいたしました。」
心月
「次は、昼にいたしましょう。」
心月
「……もう少し、静かに。」
イレネ
「うるせえのは構わねえが」
イレネ
「先に言っておいてくれると助かるね」
心月
「…………」
心月
「そうですね」
カズマ
「まあ、勝手に駆けつけただけですからね」
イレネ
「まあな」
イレネ
「悪いな。客の身で差し出がましいことを言って」
心月
「いえ……」
心月
「私は睡眠が必要ありませんので」
心月
「つい、時間の感覚を忘れがちで……」
心月
「いけませんね」
イレネ
「ふうん……」
ミケ
じっと心月を見つめている。
心月
「みなさんは、よくお休みください」
ミケ
「何か御用がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
心月
「ふふ……」
GM
奥に鎮座する鼠の死体は動かない
カズマ
ここは素直に戻る、か。
GM
新鮮そうな肉と、真っ赤な血。
毛皮の色も赤みを帯びている。
イレネ
部屋の奥を見、それから、ちら、とカズマを見て。
イレネ
「……戻るか。もてなしの心には感謝しとく」
カズマ
頷く。
ミケ
首を動かして、二人のやり取りを見つめる。
心月
「お送りしたいところですが、服も汚れていますので」
心月
「ここで」
イレネ
「……何事もないなら良かったよ」
カズマ
「……しかしやっぱり、寝てるわけにはいかなそうですね」悟られないよう小さな声でイレネに。
GM
そう言って心月は軽く頭を下げる
イレネ
目線だけで頷いて、心月に背を向ける。
イレネ
「ミケ。行くぞ。黙ったままでついてこい」
ミケ
「……………」
ミケ
黙ったままついていきます。
ミケ
何か御用がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ。
ミケ
そういう視線があなたに刺さっている。
カズマ
面白いのは結構なんだがなあ。
GM
心月
「…………」
心月
「…………」
心月
「不安にさせて、しまったかな……」
GM
その夜は、それ以上何も起こることもなく過ぎ去り。
GM
翌朝、運ばれてきた朝食の皿には宣言通り。
筍の入った肉団子と蒸した饅頭が乗っていた。