GM
――そこに、一体のアンドロイドが立っている。
ミケ
艶やかな黒髪を長く伸ばした、男とも女ともつかない姿をしている。
ミケ
遠くて懐かしい未来、家庭用のロボットとしてつくられたこの『製品』は
ミケ
使用者に危害を加えたことで廃棄されるはずであったところ、
ミケ
いつの間にやらこの堕落の国へ。そうしてこの峠に立っている。
ミケ
人の手によって作られた人ならざる救世主は、人と同じように心の疵を持つ。
ミケ
ひとつは『感情の欠落?』──心を持ちえない『はず』という疵。
ミケ
ユーザーの首をもごうとしたので廃棄されました。
ミケ
(4:3のブラウン管の画面に商品を宣伝するCMが流れるイメージ)
GM
――そうして、また少し離れた場所に女性が一人。
イレネ
ナイフでざっくりと切り落としたような金の髪。
左の顎から頬にかけて、傷。
イレネ
海の向こうを見晴かしていたはずの目が、今は荒野を睥睨している。
イレネ
かつて、さほど遠くない過去には、祖国の国立軍学校で学年次席を占めていた。
イレネ
海の上、商船を襲い、人を攫い、身代金を獲って生きている。生きていた。
イレネ
己は『選良』である。
自ら頼むところも大きかった。なんでもできた。できるはずだった。
そうでなければならない。
イレネ
しかして、『零落』。
敗戦と、生家の没落と。己の手だけでは留められないもの。
届かなかったものがある。
カズマ
と、出身世界では形容される姿だが、この国ではその言葉も通用しない。
カズマ
スーツにワイシャツ、ネクタイは堕落の国に相応しく今でもフォーマルで、
カズマ
しかし今は礼節を払うべき取引先もいなければ、マナーもない。
カズマ
堕落の国の正しさは、生存によってのみ示される。
カズマ
そうした胸中を、カズマは証明せずにはいられない。
カズマ
行動で、結果で示すことができなければ、それはないのも同じ。
カズマ
完璧主義者・自傷癖・強迫観念――心の疵『証明者』。
カズマ
幼年期の虐待・愛する者との死別――『降り止まぬ雨』
カズマ
「だから僕は家に帰らないといけないんですよ」
GM
葉のこすれあう音と、何かがぱらぱらとぶつかり合う音が響く
GM
それは、竹のぶつかり合うような音を立ててゆっくりと移動していた
GM
何かを探すようにぎょろりと視線を巡らせていた
GM
酸の性質を持つその雨は、徐々に強くなっていった
ミケ
きょろきょろと雨を凌げる場所を──どこか機械的に探していたその人影は、同様の姿を見つけて笑顔を向ける。
カズマ
イレネがカズマを見つけるのはそうして、泥の中を駆けているところだ。
ミケ
それから女の視線を追うように首を巡らせて、もうひとり。
カズマ
近づいてくる人物に警戒し、ネクタイを腕に巻く。
ミケ
酸の雨の降りしきる中、長い脚で大股に近づいていく。
ミケ
「ただいま降っている酸性雨は、人体に多大な影響を及ぼす場合がございます」
ミケ
「何時間耐えられるか計算が可能です。いかがいたしますか?」
カズマ
こちらの警戒を無視して接近するそれに動揺する。
ミケ
「V-2451-F "ミケ"はあなたの孤独を完璧に埋める家庭用アンドロイドです」
カズマ
「少なくともここで争っている余地は――」影に気付く。
GM
背後を見れば赤い赤い、立派な柱を持つお屋敷の門が。
イレネ
「……まあ、疑ったほうがいいことはそうだろうよ」
ミケ
「罠とは 中にえさを置いたりして鳥獣を誘い寄せ、その足になわ等をからませて捕らえる仕掛け。転じて、人をおとしいれる策略。」
イレネ
「入るしかないな。ほかを探してる余裕はない」
GM
3人が屋敷の玄関に足を踏み入れると、扉が閉じる。
慢月
武器を構える様子はなく、少し離れた位置に立ったまま。
慢月
「ああ、警戒しなくていいよ。僕は慢月。この屋敷を管理している者さ。」
カズマ
その態度に、手に巻いたネクタイをポケットに突っ込む。
カズマ
「助かりました。僕はカズマ。お招き頂きありがとうございます」
ミケ
「V-2451-F "ミケ"は、あなたの孤独ではない満たされた人生を保障します」
ミケ
5分経ったので『少し黙ってろ』の少しが経過したと判断し、喋り始めました。
慢月
「ああ。このあたりは耳鳴り峠と言ってね。見たかな……?厄介な亡者が住み着いているんだ。」
カズマ
「お言葉に甘えて、雨宿りをさせていただきます」
心月
屋敷の奥からもう一人、大柄な男が歩いてくる。
心月
「皆様に。いくら屋敷の加護があるとはいえ……」
イレネ
視線だけがゆっくりと、屋敷の二人を交互に見ている。
カズマ
何もかもを真に受けるわけには当然いかない。が、示された好意を拒むわけにもいかない。実際にその申し出はありがたいばかりだ。
GM
屋敷に入ってからというもの、酸の臭いは消え去り。
イレネ
一度バンダナを外し、絞って、それから髪をがしがし拭きながら聞いている。
カズマ
救世主が他の救世主を警戒することは当然。この程度は失礼に値しないだろう。
ミケ
「ありがとうございます。何かお役に立てることはございますか?」
GM
渡された布に奇妙なところはなく、あえて言うのならそれは現代のタオルより給水効率は下がるだろう。
慢月
「ふふ、変な事を言うなぁ。僕達は招いた側だよ。」
カズマ
この堕落の国では、これでも上出来すぎるくらいだ。
ミケ
一通り体を拭き終わり、心月と慢月だけではなく、この場にいる全員を笑顔で見つめている。
慢月
「時間があれば、いろいろ話し相手になってくれると嬉しいよ。」
慢月
「面白い話は、退屈しのぎにもってこいだからね。」
慢月
「2人きりだと、話題も尽きるというものだからね」
ミケ
「それではどのようなお話をいたしましょう? アーカイブから選択し、決定ボタンを押してください」
ミケ
「V-2451-F "ミケ"はあなたの孤独ではない満たされた人生を保障します!」
イレネ
「やっぱり黙らせておいたほうがいいんじゃないのか、こいつ」
心月
「部屋を用意いたしましたので、ご案内しても?」
ミケ
道すがら、時折周囲を見回しては何か書き込み音がした。
ミケ
V-2451-F "ミケ"はあなたのための孤独ではない満たされた人生を保障します。
GM
客室、というには変わっており、大きな部屋に5つの寝室が御簾で仕切られた作りをしている。
GM
畳張りのベッドにはそれぞれに布団が敷かれている。
カズマ
周囲の観察をしながら、同行する救世主を見る。
心月
「室内のものも使って構いませんし……後程、水瓶と軽食をお持ちします。」
GM
部屋の真ん中には丸いテーブルと、椅子が5つ。
カズマ
曖昧に微笑む。飽きるという感情は、カズマにはあまり心当たりがなかった。
ミケ
「統一規格で製作されており、品質が担保されています」
カズマ
カズマの世界には、アンドロイドはまだ実用されていなかった。
心月
家庭用、高機能という言葉から。
おそらく使用人か奴隷の類なのだろうと。
ミケ
「異常や不明な点がございましたら、カスタマーサポートにご連絡を」
カズマ
「要は、勝手に動く人形みたいなものですよ、アンドロイドって」
カズマ
僕が全部説明しないといけない気がしてきたな。
カズマ
急に家具を囓りはじめてもおかしくなさそうだ。
ミケ
「『ミケ』の動力は腹部の結晶によってまかなわれております」
ミケ
「エネルギー切れかな? と思ったら、ホームページからお取り寄せを」
カズマ
持ち帰ることができたら、金になるかもしれない。
GM
濡れた布を交換し、水差しと食事が運ばれてくる。
GM
食事をテーブルに並べると、心月は部屋を後にする。
ミケ
テーブルにはつかず立ったまま、傍に控えています。
イレネ
「ではわたくしが一匙目をいただきましょうか」
イレネ
年齢や服装に見合わぬ、丁寧な手付きで匙を取り。
カズマ
あの家電に毒味させてもよかったかもしれないな、と思いながら。
ミケ
お食事時に合う音楽はいかがですか? などの音声を上げています。
カズマ
ちょっと流してみてくださいよ、とミケに聞いてみる。
イレネ
「大したもんは入ってねえな。
塩と若干の油。あとは……ブイヨンじゃねえな。よくわからんがそういう系統の何か」
ミケ
命令を待つような眼差しであなたたちを見つめている。
カズマ
「毒味には慣れているようですね、イレネさん」
カズマ
「それじゃあ相応に扱わなければいけませんね」あながち嘘でもなさそうだ。
イレネ
「別に。今は大したことないよ。
あんたみたいな真面目そうなのをカモるのがお仕事」
カズマ
「カモれたな、と思って頂くのが僕の仕事なので」
ミケ
「『ミケ』はあなたのための孤独ではない満たされた人生を保障します」
カズマ
「ミケってうちでは猫につける名前でしたよ、そういえば」
カズマ
「ミは数字の3、ケは体毛のこと。三色の猫ですね」
カズマ
「アンドロイドでカセットテープとは、お前なあ。未来なんだかそうじゃないんだか」
ミケ
腹部を開けると、クリスタルではなくコインが十枚入っているのが見える。
ミケ
腹部を閉じた。いちいちガシャっという音が鳴る。
カズマ
「……やっぱりこれ無下にはできなさそうですよ」
カズマ
「急に暴れ出したりしたら普通に止められなさそうですよね」
イレネ
「どうだろうな。手足のどっか一本落ちると、かなりバランス取れなくなるから」
イレネ
「どっか一本壊して逃げるのが丸い気がするな」
ミケ
「『ミケ』は完璧なバランス機能が搭載されています」
カズマ
そのときは腕1本でももらって帰りたいところだ。
ミケ
「パーツの交換はホームページ記載のメールアドレスまで……」
カズマ
実際、アンドロイドとして機能してるだけですごい。
GM
堕落の国の暗い空の、それよりも暗い雨雲の下。
GM
時間の経過はわかりにくいが、夜が訪れたという事らしい。
イレネ
「カズマ、長めに寝ていいぞ。あんたより慣れてる」 ミケはスルーした。
カズマ
「でしたら、その分散策の時間を増やしましょう」
カズマ
腕とかの作りを触って調べながら、時間が過ぎるのを待ちます。
GM
屋敷の壁は溶けることはないが、だからと言って音まで完全に遮断しているわけではない。
ミケ
鳴き声から類推される動物をサジェストしています。
GM
その咆哮は、呻きは。鼠の発する音に少し似ている。
ミケ
「ただいまの鳴き声はネズミのものと思われます」
GM
部屋には夜間もカギは掛かっておらず、外出も無論制限されていない
イレネ
「……外があの雨だ。やるとなったら逃げられねえ」
イレネ
「行くしかねえな。あの兄弟が飼ってたわけじゃねえことを祈れ」
GM
物音は既に収まっているが、その方角はミケのマッピングした位置によると
ミケ
声の方角を指し示しつつ、それはそれとして、ネズミの駆除業者の電話番号を読み上げています。
GM
部屋の扉は閉じており、内部の様子はうかがえない
ミケ
電話がかからないのでビープ音を発しています。
心月
丁度、部屋を出ようとしていた心月と、視線が合う。
心月
そしてその背後には腹を裂かれた巨大な鼠が横たわっていた。
ミケ
ネズミの駆除業者の電話番号を心月に伝えようとして、止まりました。
心月
「申し訳ございません。起こしてしまったでしょうか。」
ミケ
変わって、ネズミが家内に出る原因や経路などについての一般的な知識を垂れ流し始めている。
ミケ
「『ミケ』の収集したデータによると、亡者は動物の姿を模していても、実際の動物とは生態が違う場合があります」
心月
「ええ。しかし、まだ腐り始めてはいませんから……」
イレネ
「…………」 心月のことを、矯めつ眇めつ。
カズマ
「それはそれは。どうもありがとうございます」
ミケ
血の染みを洗濯する場合の効率的な方法について──
カズマ
「無事そうでしたら、部屋に戻りましょうか」
イレネ
「悪いな。客の身で差し出がましいことを言って」
ミケ
「何か御用がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
GM
新鮮そうな肉と、真っ赤な血。
毛皮の色も赤みを帯びている。
イレネ
部屋の奥を見、それから、ちら、とカズマを見て。
イレネ
「……戻るか。もてなしの心には感謝しとく」
心月
「お送りしたいところですが、服も汚れていますので」
カズマ
「……しかしやっぱり、寝てるわけにはいかなそうですね」悟られないよう小さな声でイレネに。
ミケ
何か御用がありましたら、何なりとお申し付けくださいませ。
GM
その夜は、それ以上何も起こることもなく過ぎ去り。
GM
翌朝、運ばれてきた朝食の皿には宣言通り。
筍の入った肉団子と蒸した饅頭が乗っていた。