華やかな表通り。行き交う酔っ払いたち、足早にどこかの店へと向かうサラリーマン、手を繋いで歩く親子ほども年齢差のある男女。
そこから一本横道へ入れば、きらびやかなネオン街を運営する人間たちの、その下であくせく働く者たちの姿が目に入る。
そこでしか生きていけないものたち。あるいは、そこでうまく生きていけないのに、ほかの場所へいけないものたち。
狭い道。室外機がうなりを上げる下で、男が二人向き合っている。
片方は店の責任者だろうか。壮年の男で、眉間に皺を寄せて胸を張り、相手を威圧している。
管原陽翔
もう一人は、深く頭を下げた男。脂汗をかき、視線は泳いでうろついている。
足元には割れたビール瓶が転がって中身をぶちまけ、饐えた裏通りの匂いに交じって、アルコールの香りを漂わせている。
「そもそもさ、頭下げて、どうにか雇ってくださいって言ってるから置いてやって、金も払ってるわけじゃん」
「それなのにいまだにこんなミスするの、どうなの。どうすんの」
「謝るのはいいからさ、これからどうするか聞きたいわけ」
管原陽翔
頭を下げたまま、質問に答えずただ謝罪を繰り返す。
管原陽翔
なにかもっと、別の言葉を求められているのは分かる。
管原陽翔
相手の言うことはもっともだと思うし、こんなミスをする自分はどうしようもない愚図だと思う。
管原陽翔
改善案と言われても、何も思いつかなかったし、言葉も何も出てこない。
管原陽翔
ただ、壊れた人形のように、同じ言葉を繰り返すだけだ。
わざと声にどすを聞かせて、男を壁に押し付けるように肩口を手で押す。
管原陽翔
謝ることをなじられて、しかし代わりの言葉は出てこない。
管原陽翔
頭を下げたまま、沈黙するばかりになった。
管原陽翔
痛みに眩暈がして、ごめんなさい、と反射的に謝った。
もはや、改善案を言わせるという当初の目的はどこかへ行って、ただ怒りを晴らすための場になっていた。
管原陽翔
なじられ、叩かれて、謝るのを繰り返すことしかできない。
天使みお
重苦しい暴力の空気にドアの開く音が交じる。
天使みお
ホストの男が一人空気も読まずに出てきて、二人の姿を──正確には、責任者の姿を認めると一直線にそちらに歩いてきた。
裏通りでこの手の暴力が振るわれるのは、言ってしまえば日常茶飯事だ。
第三者が入ってきたところで、男が手を止めることはなかったが。
声をかけられれば、さすがに動きを止めて、胡乱な視線が向けられる。
まさに……何を止めているんだ、空気を読め、というような顔をしていた。
殴りながら詰っていたために、多少息が上がっている。
管原陽翔
殴られていたほうは、顔も上げられず、身を丸めて震えていた。
天使みお
「石坂さん来ましたよ~。裏に通してますんで~」
天使みお
殴られている男に対して特に興味があるわけでもない。来客を伝えに来ただけだ。
その名前を聞けば、さすがに待たせておけ、とは言わずに、はあ、とため息をついた。
扉は乱暴に閉められて、バックヤードからの明かりは消え、裏通りに暗さが戻ってくる。
天使みお
「めっちゃ怒っててウケる」
扉の閉まる音にかき消されるかどうかの呟き。その後に丸まった男の方に視線を向けた。
管原陽翔
頬に殴られた跡が残っている。ほかにも顔以外の場所を殴られた様子だったが、病院に行くほどではなさそうだ。
管原陽翔
口の中を切っているのか、喋りにくそうに答えた。
天使みお
この男はおおよそ誰に対してもこのような軽い態度を取っている。
管原陽翔
相手の顔は覚えていた。ホストの、人気のある人だったと思う。
天使みお
「ティッシュいる?」ポケットから取り出して与えるのも、特に意図もない。
管原陽翔
助けられたのだろうか。礼を言ったところでティッシュを差し出されて、受け取った。
天使みお
舐められがちな菅原という男にも、その評判を知らないのかなんなのか、フラットに接していた。
管原陽翔
そのフラットさが、見下されることが常となっているこの男には、据わりの悪さを与える。
管原陽翔
ただ、不快なわけではなく、慣れていないだけだ。
天使みお
目の前でミスをする様子を見たこともあるし、こうして殴られているところだって見た。
管原陽翔
受け取ったティッシュを口に含む。取り出すと唾液に交じって血が染みている。
天使みお
ただ、菅原の不出来さに、この男はなんら思うところがないらしかった。
天使みお
割れた瓶たちをちらっと見て。
「そだねえ」
管原陽翔
頷いてすっと戻っていった相手に驚いて目を瞬かせたが、瓶を割ったのは自分で、相手に手伝ってもらうつもりももともとなかった。
天使みお
そして少しの後、ゴミ袋とちりとりと箒。お掃除三点セットを持って戻ってきた。
管原陽翔
店長に話を伝えて、用事は終わったから戻っていったのだろう、と手で拾い始め……たところで。
天使みお
「手危なくね?」拾い上げる様子にフランクに笑っている。
管原陽翔
戻ってきたのを見上げて、戸惑うように声を上げる。
管原陽翔
「す、すいません、俺、どんくさくて、こういうの、思いつかなくて……」
管原陽翔
特に責められたニュアンスもないのに、背を丸めて謝っている。
天使みお
「アハハ。だからって手で拾うの、もう口も切ってんのに切り傷増えるよ~」
天使みお
どこかズレたところに笑いどころを見出しながら、ほい、とちりとりと箒を渡す。
管原陽翔
ぎこちない礼の言葉とともに受け取って、瓶を片付け始めた。
天使みお
それからこいつ自身はゴミ袋を広げ、入れやすいように待機して。
管原陽翔
さすがにほうきとちりとりの使い方は知っているのか、手つきに危なげはない。
管原陽翔
しゃがむときや立ち上がる時に、殴られた跡が痛むのか顔を顰めて止まってはいたが。
天使みお
まあ一人でゴミ袋に突っ込むのは難儀だろう、と菅原を眺めながら、特に急かすこともない。
管原陽翔
ちりとりの上の瓶の破片を、広げられたごみ袋に落としていく。
管原陽翔
ビールと土の匂い。ちゃりちゃりと破片がぶつかる音がした。
天使みお
回収される破片を見ながら、この後適当な段ボールに詰めて、マジックで書いて……とゴミ捨ての方法について考えて。
天使みお
ゴミを捨てる男の生きづらそうな様子については、ただニコニコと見守るばかりだ。
管原陽翔
割れていない瓶も、ラベルがアスファルトで傷ついて、店には出せないだろう。
管原陽翔
冷蔵庫に入れて、だれかが持って帰って家で飲むぐらいか。
天使みお
そりゃあのおっさんも怒るよなあ、とへらへらしたまま思う。
もっとも、この男を殴った店長は、クビの二文字を言ってはいなかった。
もともと、この男が裏で雑用めいたことばかりをしているのは、ホールスタッフとして使い物にならなさ過ぎて、辞めさせられそうなところを頼み込んで置いてもらっているからだ。
下に見られてなじられるこのポジションの代わりがすぐに見つかるとは思っていないのだろう。
管原陽翔
そういったことを理解している顔では明らかにない、生きづらそうなこの男は、ただ瓶を片付けることだけに集中していた。
管原陽翔
あなたの助けもあり、ほどなくして瓶は片付け終わる。
天使みお
一方この男は、人気があるがNo1というわけでもない、ちょうどいい位置でフラフラしているがその分便利な男として店内では重宝していた。身内相手に礼儀の欠けるところはあるが、少なくとも大きなミスをすることのない男だったから。
天使みお
目の前のかわいそうな男のポジションについても理解は及んでいる。
天使みお
ただまあ、それは自分も菅原をなじる理由にはならない。
管原陽翔
「て、手伝ってくれて、ありがとうございます」
天使みお
「いよいよ~」ゴミ袋片手に手をひらひら。
天使みお
「おっさんねえ、しばらく応接室居るからそこ避けて歩きなね」
管原陽翔
応接室の場所はさすがにこのどんくさい男も知っている。
天使みお
「俺の予想ではね~~」スマホを取り出し「もう20分ぐらい話したら裏口から出てくね。そんで系列店の方に行く」
天使みお
あのおっさんら大体そうなんだよね、と笑いながら。
管原陽翔
いつも自分を怒鳴る、けれど行き場所のない自分を雇ってくれる人。
管原陽翔
店長に対するこの男の狭い視界での認識はそんなもので、行動パターンなど把握しているはずもない。
管原陽翔
あなたの言葉に、ちょっと目をまたたかせて、意味自体も少しのあいだ取れないような顔をした。
天使みお
向いてないよ、と思うけれど。多分この男はここ以外にもいけないんだろう。
管原陽翔
「よ、よく、分かりますね、店長のこと……」
管原陽翔
繰り返す男の目に、劣等感と羨望のないまぜになった色が帯びる。
管原陽翔
「俺、そういうの、ぜんぜん分からないんですよ」
天使みお
その視線を受けて、へらへらと笑う。誇るでもないし、教えてやるわけでもない。
管原陽翔
教えたところで、この男にそれを見抜く力が身につくわけでもないだろう。
天使みお
まあ、それをこの男に言ってもよりどうしようもないことだ。
管原陽翔
分からないことが多すぎて、茫洋とした世界の像を恐れ、背を丸めて生きているような男だ。
管原陽翔
いまは、あなたが危害を加えてこない、ということだけをぼんやり感じて、へらへらと笑っている。
天使みお
さっきまで殴られていたくせに、卑屈に笑っている様は少しかわいそうだね、と思う。
管原陽翔
頬はまだ腫れていて、熱を持っていそうだ。腫れたほうの口だけ、開きづらそうにしている。
天使みお
「え、いいよいいよ。それより顔冷やしてきなよ~」
天使みお
「それにこれこっから段ボール巻かないとだし」
ゴミ袋の口を縛りつつ。
天使みお
段ボール巻いてガムテで巻いてマジックで割れたビンとか書いて……これ俺んちの捨て方かも……まいっか。
天使みお
そしてチャラチャラした男がチャラチャラ音を立てながら店内に戻る……
天使みお
酒はまあ、そのうち雨とかで流れるっしょ!
天使みお
そうして事務所に戻って来た。遠くからコールが聞こえる。
華やかなホールに比して、バックヤードはやや無機質だ。
一歩外に出れば冷やす前の酒や乾きものが積まれているし、少し先には店長のいる応接間もある。
天使みお
他のホストも居ない中、回収日待ちの段ボールを取り出してゴミ袋を巻いている。
天使みお
顔を腫らして店の氷でも取っていたらもう少しあざが増えることになっていただろう。
天使みお
事務所にあってよかったね、と思いつつガムテープでぐるぐる巻きにして。
天使みお
サインペンを取って段ボールに書き込んで、じゃまにならない隅に一旦置いておく。
管原陽翔
そのへんに放り捨てられていたビニール袋に氷を入れて、頬に当て、休憩用の椅子に腰を下ろした。
天使みお
マジックを置いて手を払いながら菅原の方へ。
管原陽翔
「いつもは、顔はいかれないんで、なんもしてないんですけど」
天使みお
「いつもは。」
思ったより定期的に殴られてるんだなあこいつ……
管原陽翔
ちょくちょく殴られているということは、ちょくちょくミスをしているということのため。
管原陽翔
「……その、つまみの、ビニール開けたやつ勢いで落としたりとか……」
天使みお
そういうことをホールで何度もしていたらまあ、裏に回される。
管原陽翔
その裏方の仕事もうまくできずに、殴られているというわけだ。
天使みお
「なんか……別の職場とかにしないの?夜型ならネカフェとかいけんじゃね?」
[ 管原陽翔 ] がダイスシンボルを4 に変更しました。
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[ 管原陽翔 ] がダイスシンボルを3 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを3 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを5 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを5 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを4 に変更しました。
管原陽翔
*使用していないダイスもこのタイミングで振り直せます
管原陽翔
3B12 (3B12) > 8,10,10
[ 天使みお ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
[ 管原陽翔 ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
[ 管原陽翔 ] がダイスシンボルを2 に変更しました。
天使みお
*距離を測る効果を間違えていたがやっていくぜ
天使みお
2D6+2>=5 (2D6+2>=5) > 6[2,4]+2 > 8 > 成功
管原陽翔
2d6+2=>8 (2D6+2>=8) > 8[2,6]+2 > 10 > 成功
[ 天使みお ] 情緒 : 0 → 1
管原陽翔
「俺、あの、ほかのとこじゃたぶん雇ってもらえなくて……」
管原陽翔
「ここにも頭下げて置いてもらってるし……無理なんじゃないかって……」
天使みお
天使みおがなぜホストクラブで働いているかというと、おおよそ人間の事が好きだからだ。
天使みお
この人にはこう言って、こういう態度で接すればこういう反応がある……そういったものを見るのが好きだからだ。
天使みお
ホストクラブにはいろいろな"終わっている"人間が来るが、この男はこの辺ではあまり見ない角度のダメさを供えているな、と。みおはその点で興味を持った。
管原陽翔
その点で見れば、この男は全くあなたと人間の見方が対極に位置していそうに思えた。
管原陽翔
人間に対しても仕事と同じ、何をどうすれば”うまくいく”のか。望む反応の引き出し方なんて想像もしたことがない顔をしている。
管原陽翔
背を丸めて卑屈に振る舞えば振る舞うほどむしろ殴られやすくなるのだと、相手から言われていても分からないのだ。
管原陽翔
あなたがこちらに笑みを向けている理由もよく分からず、店長相手とどう態度を変えるか、なんて考えも頭に浮かばない。
天使みお
あなたのことを面白がっているなんていうこともわからないだろう。
天使みお
もっとも面白がられているのはあなただけではないし、周りの人間もなんかいつもへらへらしてるやつ、程度にしかこの男を見てはいないんだが。
管原陽翔
自分はダメだとか、他ではやっていけないとか、この男を良く知らない人間も評価を下げるだろう自虐的なことを言いながら、背を丸めていた。
天使みお
ただ、今この場では二人きりで、目の前に菅原がいて、興味の対象であるということ。
管原陽翔
あなたの観察欲を満たす反応、ここではあまり見られない反応を、この男は今のところしている。
管原陽翔
2d6=>5 (2D6>=5) > 9[5,4] > 9 > 成功
天使みお
2D6>=9 (2D6>=9) > 8[3,5] > 8 > 失敗
天使みお
「え~案外行けるってえ、一度やってみたら~?」
天使みお
「人間無職期間あってもなんとかなるなる」
天使みお
給料から差し引かれてそうだな……と今思った。こういうところの給与は手渡しだったり無法だから。
管原陽翔
いちまんえんとか……(それは貯金というのか?)
[ 天使みお ] 情緒 : 1 → 2
天使みお
ギリギリの生活にドキッとしたみたいになった。
天使みお
「コ、ンビニ~……」言いながらダメそう……となる。
天使みお
「コンビニ、即受かるけどキツいもんねえ」
管原陽翔
中国人の高学歴学生とかに採用で負けてるかもしれない。
天使みお
「工事現場は……肉体労働どう?いや……」
天使みお
言ってからヒヤリハット事案がどんどん浮かんだ。
管原陽翔
安全第一という言葉とは程遠い男に見える。
管原陽翔
この店にホールスタッフとして雇われたの、もしかしたら奇跡だったのかもしれないです。
管原陽翔
めちゃくちゃ次の職場について考えさせている……
管原陽翔
網に引っかかって瓶を割り、殴られています。
[ 管原陽翔 ] がダイスシンボルを2 に変更しました。
[ 管原陽翔 ] がダイスシンボルを6 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを6 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを3 に変更しました。
天使みお
2D6>=5 (2D6>=5) > 6[1,5] > 6 > 成功
管原陽翔
2d6=>6 (2D6>=6) > 10[4,6] > 10 > 成功
天使みお
ヒモとか……って言おうとしてたところだった
管原陽翔
「俺、仕事できないから、邪魔ですよね。瓶も割るし……」
天使みお
「え?いやいや、いいよ全然」
卑屈だ……
管原陽翔
どうもあなたがほかの仕事を考えてくれているのを、邪魔にされて追い出されかかっているように受け取っているらしい。
天使みお
全人類に邪魔だと思われてるって思ってそうだ……と思ったら、この男……どうやらより悪い方に考えている!
[ 天使みお ] 情緒 : 2 → 3
管原陽翔
仕事ができずに殴られなじられ、卑屈になった人間は善意さえ悪い方に捉える。
天使みお
「もっと合ってる職場あんじゃねえの?ってちょっと考えてみたくなっただけでぇ」
管原陽翔
「い、いや、いいんス。マジで、その……だめなんで、俺……」
天使みお
電気柵に天井を塞がれたラットの実験が心に浮かんでいる。
天使みお
2D6>=5 (2D6>=5) > 4[3,1] > 4 > 失敗
管原陽翔
2d6=>9 (2D6>=9) > 9[5,4] > 9 > 成功
[ 天使みお ] 情緒 : 3 → 4
天使みお
「いや……きっとなにかあるはず!アンタが向いている職業……」
天使みお
「そこで威圧されずに仕事ができれば、そのヨワヨワな態度もいずれマシになるはず……」
天使みお
「いやいいよ全然、この辺だとあんまりいないから珍しいし」
天使みお
「この辺皆オラオラ系かメスのメンヘラだらけだから」
天使みお
「たまには知らない野菜も食いたいみたいな感じなの、わかる?」わからないことを言い出す男。
天使みお
「メスのメンヘラつっても種類あるから楽しいし金になるけど、やっぱり飽きるワケよ」構わず説明するこいつも難があるのかも。
天使みお
「フライドポテトも野菜だから大丈夫大丈夫」
天使みお
「そうそう、うまい野菜もあるってワケ」?
[ 天使みお ] がダイスシンボルを5 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを5 に変更しました。
[ 天使みお ] がダイスシンボルを4 に変更しました。
管原陽翔
こんなに卑屈なのに一歩引いたところを一押しする男になってしまう
管原陽翔
*というわけで……手番をもらって……一押しします
[ 天使みお ] 情緒 : 4 → 5
[ 管原陽翔 ] 情緒 : 0 → 1
管原陽翔
「……そ、そっか。やっぱ、ホストの人だと、女の扱いとか全部分かってんスよねえ」
管原陽翔
「羨ましいス、俺、彼女とかいたことないし……」
天使みお
「わかんないとね~、ミスったら刺されたりするし売掛残して飛ばれるし!」
管原陽翔
「だって、彼女いたらいつでもヤれるじゃないスか」
管原陽翔
飽きるぐらいヤってるんだなこの人……となっている。
天使みお
飽きる方面がちょっと違うがそれはさておき。
天使みお
「ないんだ」そうか……そっち方面からのアプローチはできないな……と落ち着く。
管原陽翔
「いや、童貞とそんな変わんないかもですけど」
天使みお
いや……でも愛情などのケアがあればもう少し生きやすくなるかも……しかしこの環境の女とか共依存女だらけだしな……
管原陽翔
「一回だけ、柴咲さんの彼女さんがヤらしてくれたことあってえ……」
天使みお
あの人童貞食いの噂マジだったんだな~と思いながら頷いている。
管原陽翔
柔らかくて気持ちよかったな……というプリミティブな回想をしている。
天使みお
「じゃあまあ彼女がいた事自体はないと……」
管原陽翔
その彼女にイけるかな、と思ってイけるはずもないのにアタックして振られたことは伏せている。
天使みお
となると、彼女が出来るのがいいんだけど、そうすると今度は貯金が不安だな……愛を育てるのは金だから……
天使みお
距離感ド下手くそ男であることをまだ気づいていない。
管原陽翔
出費を抑える自炊とか節約とかいう概念もぜんぜん知らないので、金が貯まらない。
天使みお
こいつに合う職業……う~~~んヒモぐらいしかないんじゃないか?まさか……
管原陽翔
「やっぱ、顔が良くて背が高くないとだめなんすかねえ……」
天使みお
「いや~そこはやっぱ好みによるんだけど」
天使みお
「金がなくてもいいってタイプの女で付き合ってくれる女……多分すごいヤバい女が寄ってくるから……」
天使みお
「いやでもヒモ、案外向いてるかもなんだよな……」
管原陽翔
「話面白くないねってよく言われるし……」
天使みお
ヒモはまあ、細やかな気配りが必要とよく言われるが……
天使みお
「えっそうなの?俺はこんなに楽しんでるのに……」
天使みお
こんな……どこからでもヘコめる人そうそういないから……
管原陽翔
「確かに、言われてみたら、俺も楽しいス……」
天使みお
卑屈なところがかわいいじゃないか、そういう小動物みたいで……
管原陽翔
「こ、こういう感じの話、落ち着いてするの、あんまないんで……」
管原陽翔
氷が解けてきてぶよぶよになった袋を、頬に当てたまま笑う。
天使みお
「あ~ここの従業員同士、そんな仲良い訳でもないもんね~」
管原陽翔
気遣われると、戸惑うような様子を見せる。
天使みお
当然のように手を出して、よこしなよというように。
管原陽翔
恐る恐る、というのがふさわしい動作であなたに手渡した。
天使みお
自分の方が冷凍庫に近いからというだけの理由だ。
管原陽翔
慣れていない以外にも、気遣われるのに戸惑った様子を見せるのは理由がある。
管原陽翔
気遣ってくれる相手が、やがて自分のあまりの卑屈さやできなさに呆れて、冷めた態度に変わっていくのを、この男は何度か経験している。
管原陽翔
いつこの助けてくれる期間が終わるのか、というのを不安に思う心があった。
天使みお
受け取ると、中の水を捨てて新しいのと入れ替える。結露を手で拭って流しに捨て、菅原の元に戻ってきて。
「俺も皆と仲いいとかでもないけどね~」
雑談の続きを続ける。
天使みお
どの相手とも仲が良さそうに見える男だった。
管原陽翔
「なんていうか、うまくやってるように見えるスけど……」
天使みお
それこそ、今の状況を他の従業員が見たら、菅原と仲が良かったのかと思われるような。
天使みお
「うまくやるのが楽しいからうまくやってみてるだけだよ~」
管原陽翔
「うまくできたら、きっとそう、楽しいんスよね……」
天使みお
さあ、どうかな……と思ったけれど口には出さない。
管原陽翔
『うまくできた』という経験がなければ、その虚無感には想像が及ばない。
管原陽翔
「辛いことばっかスよ。俺、マジでなんもできないから」
天使みお
その日一日を必死に、ただ生きるために生きているんだろう。
天使みお
「ここで10万ぐらいあげたら楽しくなるかな人生」
天使みお
ものは試しと言わんばかりに財布を取り出して中を改める。紙幣を指で数え……るのをやめて、そのまま取り出す。
天使みお
「この4万でパーッと遊んでみる?風俗にでも行くとか」
天使みお
はい。と氷嚢と同じような気楽さで二つ折りの紙幣を差し出しながら。
管原陽翔
もちろん四万ぐらいの金額なら、給与を手渡される時にそれ以上の額を見ているのだから、ものすごい大金というわけではない。
管原陽翔
だが、それを何の対価もなく、ぽんと手渡される経験はこの男にはない。
管原陽翔
おろおろと視線を泳がせる。本当に?という目が、ちらちらとあなたと金を行き来する。
天使みお
へらへらと、あなたの反応を見るためだけに金をやる。
天使みお
どれぐらいのいいことがあればどれぐらい持つのだろう?そんな気持ちで。
管原陽翔
ばくばくと心臓が鳴って、視界がくらくら揺れる心地がある。
管原陽翔
こんなことがあるだろうか? 何の理由もなく、俺の人生を楽しくするために金を渡すなんてことが?
天使みお
要らないと跳ね除けるプライドが残ってるんだろうか、それとも卑屈に受け取るのか、それとも泣き出す?
天使みお
きっとそんなに優しくされてこなかった人生で、急に幸運を投げ渡されたらあんたはどんな反応をするんだろう?
管原陽翔
確かに、この人が稼いでいるのを知っている。4万なんてきっとはした金だ。
管原陽翔
躊躇っているのは、自尊心からなどではなかった。
管原陽翔
こんな幸運が、わけもなく訪れるはずがないという疑いだ。
管原陽翔
あなたの言葉に、びくりと肩が揺れて、手が持ち上がる。
天使みお
返さなくて良心が咎めたりするんだろうか?それとももっと金をせびってくる?戸惑う様子に心がはずんでニコニコとしてしまう。
管原陽翔
差し出された指先は、ビニール袋の結露で濡れている。
管原陽翔
これをもらったら、人生は楽しくなるだろうか?
天使みお
この金が無くなったあとの虚しさを、この人は俺に話してくれるかな?
管原陽翔
4万でだめなら、10万だったら、もっと大きい額だったら?
管原陽翔
……金がないから、人生楽しくないんだっけ?
管原陽翔
回りの遅い頭で、そんなことをぼんやりと考える。
天使みお
この金を受け取ることは、果たして幸運なのか?
天使みお
この男が差し出しているのは本当にただのラッキーなのか?
管原陽翔
けれど、幸福かどうか以前に、この男はそもそも金がなかった。
管原陽翔
気まぐれに金を施されることの意味について、深く考える頭もない。
天使みお
今日一日を過ごすことで必死の人間に、明日のことを考えられるはずもない。
管原陽翔
幸福になれるかどうかなんて難しいことは分からない。
天使みお
それこそ他のホストが見たのなら、悪趣味なことをしていると判断出来たかもしれない。
管原陽翔
けれど、幸福になれる、ということにすれば、金がもらえるのだ、と理解はできる。
管原陽翔
だから、おっかなびっくり差し出された手は、震えながら折りたたまれた札に、長い時間をかけた末にそっと触れた。
管原陽翔
「お、俺も、いつでも! なんか、あったら言ってください」
管原陽翔
「はい! あっ……パシリはけっこう、できるッス!」
天使みお
「頼むかも~」やった~嬉しい頼っちゃう~、みたいな声色。
管原陽翔
聞き間違い、思い込み、メモを取らずに一個商品を忘れるなど、バリエーションに富んでいます。
天使みお
今度無害なおやつでも頼んでみるか~ぐらいは思ってる。
天使みお
どのように使い果たすか、今から楽しみだなあ。
天使みお
まあこれで少し明るくなって帰って来たらそれもそれで面白い。その気分がいつまで持つか気になるし。
管原陽翔
生活費に充てるかもしれないし、欲しいものを買うかもしれない。風俗に行ってみるかも。
管原陽翔
しかしいずれにしろ、あぶくのように消える金だろう。
天使みお
精々が欲しいものを少し買うか、遊びに使うか。
管原陽翔
未来に役立てられるような使い方ができるような男には、とても見えなかった。
天使みお
乾いて死にそうな人間に少しだけ水をやって、もう一度乾くまでを見る。
管原陽翔
すぐに使い切るような金だということは分かっても、その行為の意味を理解することはできていない。
管原陽翔
殴られているところから助けてくれて、自分のへまを処理するのを手伝ってくれれて、自分と話すのを楽しいと言ってくれて、金まで渡してくれた。
管原陽翔
そのひとつひとつをぼんやりと受け取って、あなたへの好感がふわふわと残る。
管原陽翔
それは果たして、金を使いきった後も残るだろうか?
管原陽翔
金を使いきったあとに、あなたを恨む可能性もあるだろう。
管原陽翔
恩を与えた相手を恨むのも、人間にはまたよくあることだ。
天使みお
そうなれば、辞めさせる口実になるだろう。
天使みお
そうしたらどうしようかな、一緒に生活保護の申請でもついていってやろうかしら。
管原陽翔
あなたがそんなことを考えているとも知らず、へらへらと男は卑屈に笑う。
天使みお
あなたのことを楽しい楽しいと笑顔を向ける。
天使みお
もし興味を失うことがあるとすれば、これでまともに生きるようになってしまうことだから……
管原陽翔
たった4万の金で、人は急にうまく生きられるようになったりはしない。
管原陽翔
それが10万でも20万でも、100万でもそうだろう。
管原陽翔
1億や2億だって、それが降って湧いた何の努力もせずに得た金だったら、逆に遊び呆けて身を持ち崩す可能性もある。
管原陽翔
教科書にだって載っている話だ。……この男がその話を読んだことがあるかは分からないが。
天使みお
この男はもはや人との関わりぐらいにしか楽しみの無い男であるくせに、人にすぐ飽きる。
天使みお
ただ、この菅原という男の哀れさには、久々に感じ入るものがあった。
管原陽翔
仕事もできず、行き場所もなく、生きづらく、プライドもない。
管原陽翔
はした金を施されて、それが悪い遊びであることにも気が付かず、卑屈に笑っている。
天使みお
かわいいものだ、誰かに対して久々にそう思う。
天使みお
だから、この日は適当に別れ、後日この男から声を掛けた。
管原陽翔
「はい、あの……実は、欲しかった服あって……」
管原陽翔
「そのために金ちょっと貯めてたんですけど、買えました!」
管原陽翔
「……あっ。買い物とか行きますか? お礼に、何でもしますんで……」
管原陽翔
お釣りを返せばいいだけだし、……もしかしたら、くれるかもしれない。
管原陽翔
そういう期待が、明らかにその顔にはある。
天使みお
そこに浮かんだ卑しさを”かわいい”と思う。今はまだ。
天使みお
自分に寄せる期待のわかりやすいことと言ったらない。
管原陽翔
ずっと分かりやすいままなら、あなたはこの男にいずれ飽きるだろう。
天使みお
今はだから、ペットの犬をお試ししているような気分だ。
天使みお
飽きたら捨てればいい。問題が出れば移籍してしまえばいい。
管原陽翔
この男と違って、あなたはほかに行く場所があった。
管原陽翔
男はあなたの金を受け取って、元気にコンビニへと走っていった。
天使みお
頼んだものを見つけられず、飲み物だけ買って帰ってきても、見当違いのものを買ってきてもこの男は怒りも失望もしない。
管原陽翔
そうしたあなたを、管原は信頼してのめり込んでいく。そういう気配を、あなたは感じ取っただろう。
天使みお
わかりやすい。扱いやすい。卑屈な笑顔が今はまだかわいい。
天使みお
最近菅原構ってるね、と同僚に言われて、"良さ"を語って引かれたりしつつ。
天使みお
お小遣いをまた上げて反応を見たり、話を聞いたりして信頼を積み上げたり。
管原陽翔
あなたと話すとき、管原は楽しそうな顔をしている。
管原陽翔
しかし、あなたに優しくされたからと言って、世界が変わるわけではない。
管原陽翔
管原が怒鳴られて殴られたりする頻度は、減ったりはしなかった。
天使みお
その出来なさを遠くに見かけて、暇なら少しちょっかいを出して場の空気を壊したりして。
管原陽翔
助けられ、慰められればあなたに感謝をする。
天使みお
菅原の世界は変わらない事を知りながら、気休めの慰めを与える。
管原陽翔
なにかが解決するわけでもなく、ただ鎮痛薬を与えられている。
天使みお
そうして哀れさを搾り取るように、子犬を可愛がるようにただ楽しむ。
天使みお
けれど鎮痛薬にはいずれ慣れ、楽しみにはいずれ飽きが来る。
管原陽翔
あなたに向ける笑顔はだんだんと生気がなくなって、慰めの効果も減じていった。
天使みお
自分だって忙しいわけだから、オフで誘うようなことをするわけでもなく、慰めもその場しのぎのことばかり。
天使みお
金だってそう何度もやる理由もない。パシリのお駄賃だって慣れてしまうだろう。
管原陽翔
痛みの鈍っていた時期があったぶん、その痛みをより強く感じるようになった。
天使みお
そうすれば慰めるものも助けるものもいない。
管原陽翔
そのころにはもう、天使がたまに助けに入ってくることも周囲には把握されていたから、いない日はより手ひどくなじられたりもした。
天使みお
天使は誰にだって気安くするけど、もうちょっと空気読んでほしいよなあ。菅原が俺らと過ごす時間がなくなっちゃうからねえ、と。菅原がストレス解消役であることを暗にせせら笑ったり。
天使みお
しこたま殴られた日に、当のこの男は女の横であなたに向けるのと同じ笑顔を女に向けていたり。
管原陽翔
助けを求めるように視線を彷徨わせるのを、待っているんじゃねえぞと殴られたりもした。
天使みお
この男は、殴られた傷を面倒見てはくれるけど。
管原陽翔
殴られる前に庇ったりもしてくれない。でもそれは、当然だった。ミスをするのは、俺が悪いのだし。
管原陽翔
天使さんは、できることをしてくれているだけだ。
天使みお
説明の足りない、ただ要求だけを引き出そうとする言葉。
管原陽翔
その日の管原は、あなたに笑顔を向ける余裕さえなさそうだった。
管原陽翔
俯いて、憔悴した様子で視線を彷徨わせている。
天使みお
潰れて死にそうな人間が、何を求めるか聞いてみたくなった。
管原陽翔
うまく眠れていないのか、目の下に隈も濃い。ストレスを何とかしようと飲みすぎて、出勤したあと吐いている様子もあった。
天使みお
「な~んでもいいんだよ、妄想でも。アイツ死んでほしいとか、店燃えちゃえとか」
管原陽翔
問いの意味が分からずに、ぐるぐると言葉を頭の中で回す。
天使みお
苦しんで苦しんで苦しんで苦しんだ、今苦しい人間の声が聞きたい。
管原陽翔
そうすると、ふと最初に助けてもらった、あの夜に問われたことを思い出した。
管原陽翔
「……いや、何でも、ないです…………大丈夫、です」
管原陽翔
できるはずのないことを相手に言うことすら苦痛になるほど、管原は疲れ果てている。
天使みお
「どうすれば菅原ちゃんは幸せになれる~?」
天使みお
その苦痛を、たしかに感じ取っているくせに。
管原陽翔
幸せという状態が、どういうものなのかもわからない。
管原陽翔
幸せという言葉自体、天使が言っていたのをそのまま使ったに過ぎない。
天使みお
休みたい?一発ヤりたい?帰って寝たい?誰にも殴られたくないようになりたい?
天使みお
遊びに行きたいとか思う余裕もないだろうな。女と会いたいとかどころじゃない。となると休みたいとかかな。
飽きもせず、使えない男を手元に置いて、怒鳴って殴って、ストレスのはけ口にしている。
天使みお
殴るのが楽しいわけでもないくせに、無駄にストレスを貯めてその原因を置きっぱなしにしてるんだから。
管原陽翔
あなたの前にふらりと現れた管原は、小さい声で言った。
天使みお
あなたの憔悴を我関せずとでも言うように、いつも通り楽しげに。
管原陽翔
「今から、何か、良くなるようにも思えないし、何かできるようになるとも思えないし」
管原陽翔
「だから、みんな俺のこと怒って、それは当然だと思うし」
管原陽翔
この男がいなくなったら、誰か別の人間が標的にされて殴られるようになるだろう。
天使みお
この男も、それを教えてやるような優しさはない。
管原陽翔
理解できたとして逃れられるわけではない。
管原陽翔
…いや、理解できているなら、そもそもこういうことにはなっていなかったかもしれないが、それはあり得ざることだ。
天使みお
その愚鈍さに周囲はいらついて、ただこの男だけが楽しんでいた。
管原陽翔
息をするのさえ苦しいというように、喘ぎ喘ぎ男は言う。
管原陽翔
げほ、と咳き込んで、管原はあなたを見上げた。
管原陽翔
「だから、一緒に、死んで、くれないですか」
天使みお
「え、ヤバ……びっくりして即OKしちゃった」
天使みお
「あ!びっくりしたつったけど全然オッケーだから!」
管原陽翔
「生きている意味、あんまなくて、でもその」
管原陽翔
「だから、こんなこと、天使さんにしか頼めなくて」
管原陽翔
びっくりして会話をするのではなく事前に用意した言葉を言っている。
天使みお
「いや~!頼られてるとは思ったけど~。そこまで頼られていたとはな~!」
天使みお
背中をさする手が犬を撫でるようなわしゃわしゃとした動きになる。
管原陽翔
「……もう、頼れる人、天使さんしかいないス……」
管原陽翔
頷く。俯いた頭の下から、涙がパタパタ落ちた。
天使みお
「ああ、よしよし」
スーツが汚れる事なんて気にしないで、子供にするように泣く男の頭を抱きしめた。
天使みお
「俺に断られたらどうするつもりだったの?」
管原陽翔
分からない、というように首を横に振った。
天使みお
実際のところ、菅原の行動は予想の範囲内に収まっていて、少しずつ飽きていくのだろうと思っていた。
天使みお
けれど、犬を捨てるのはかわいそうだからね。
天使みお
別に、捨てない選択をしたって、そっちのほうが面白い気がするから。
とは言え、ただ日々の辛さに希死念慮を募らせて、逃れるようにそこに飛び込もうとしている男が、好きな死に方なんて希望があるわけもなく。
天使みお
それなら少しだけ休んで、それから考えようと提案する。
天使みお
家に来れば良い。家賃のことは考えないでいいし、食費も娯楽も。
天使みお
死ぬまでの間、できるだけのことを叶えてあげよう。
管原陽翔
それは管原にとっては受けたこともない歓迎だったろうが。
管原陽翔
それで、死への希求が消えるわけでもなく。
天使みお
従順なさまをまだ可愛く思う。死にたいと思い続けることは、なおのこと。
管原陽翔
あなたはいっしょに死んでくれるのだと、疑いもなく信じているようだった。
天使みお
家ではできる限りに優しくして、たまには外に遊びに連れていったりなんかして。
天使みお
そうして家に帰れば、どうやって死ぬかのプランを話す。
天使みお
この方法は半身不随で生き残る可能性があるから。この方法は意外と意識があるし、この方法も失敗したら悲惨だとか……
管原陽翔
管原は逐一怯えて、それ以上にあなたの知識の深さに感心している様子だった。
管原陽翔
あなたが少し調べればわかることが、この男にはわからないのだ。
天使みお
その哀れさに抱く心の動きは、愛情と言っても差し支えはなく。
天使みお
恐怖すれども変わらずに、与えた安全な生活に甘えることもなく、自分と死ぬ事を望み続ける。それが一番良いと思った。
天使みお
どうやって死ぬかを語る間、それをあなたが聞く間。この男の笑顔はいつもとは違った喜びに満ちていた。
管原陽翔
その喜びように、違和感を抱くこともなく。