ヴァルチャー・グリフィス
ぎらつく瞳だけが、燃えるように救世主たちを睥睨する。
ヴァルチャー・グリフィス
だが、畢竟そこにはもはや何もない。
ヴァルチャー・グリフィス
亡者となったものは、生前の繰り返しをするしかない。
ヴァルチャー・グリフィス
その凶暴性も、その姿も、生きていたころの何かを反映して動いていたにすぎない。
ヴァルチャー・グリフィス
それも、救世主たちの手によって止まる。
ヴァルチャー・グリフィス
苦しむように暴れまわっていた巨体は頽れて、
ヴァルチャー・グリフィス
炎の中に倒れ伏し、動かなくなる。
ショチ
脅威として立ちはだかっていたものが、動かなくなる。
ショチ
踊り、呪殺し、そして最後に亡者に判決を下す。
ショチ
すでに、二度したこと。行程そのものは、今までと特に変わった事はない、が。
ディエス
ディエスのやることは変わらない。亡者のおそるべき爪を払い、翼を逸し、その動きを制限する。その後に続いて亡者を打ち倒すものがいる。いるはずだった。
チトセ
いつも人を守るために使っていた疵の力を、今日は。
ディエス
命をつなぐその力を、あのように転用できるのは流石と言う他無かった。
チトセ
ただ意識を集中させて、振るう。それの繰り返し。
ショチ
自分たちに必要だと思っていた『爪』を失って。
ショチ
それでもまだやっていける。いけてしまうことが分かった。
ディエス
暴力の担い手が居なくなってどうなることかと思ったが、みんな死んでしまうかと思ったが、大丈夫だった。
ディエス
きっとこれならこの先も大丈夫だろう。けれど。
ディエス
ディエスの表情筋はこういった時に適切な表情を取れないで、馬鹿みたいに笑ったままぽろぽろと涙を零した。
ディエス
ただ、昔知っているくるしみやかなしみの味を思い出して、涙がぽろぽろと出るのであった。
ディエス
「……食べましょうか、ゴーストペッパー!!」
ディエス
「わたしたちは、それをしにきたんですから」
ショチ
ロルドゥラの周りに、唐辛子の亡者たちが倒れている。
ショチ
儀式用のナイフをその身に突き立て、剥いでいく。
GM
8割ほどを瓶へと詰めて、2割ほどをそのままに。
ディエス
堕落の国ではとてもお目にかかれない、艷やかで新鮮なその果肉。
チトセ
「まさか病院食より美味しそうな食事がこの国にあるなんて」
ディエス
「基本的に救世主様から見てヤバい肉と水しかない世界ですからねっ」
ディエス
「しかもこんなにいっぱい!暫く困りませんね!」
ショチ
役立たずのごみを自称した者の体が炎に包まれている。食べられそうな部位は見当たらない。
ヴァルチャー・グリフィス
骨と腐り落ちた肉は、堕落の国のものでさえ口に入れることは躊躇うだろう。
ディエス
炎に照らされて魅惑的にきらめく赤い果肉を見つめている。
ショチ
嚙めばほんのりと甘みが広がり、新鮮な果肉が乾いた口の中を潤す。
ショチ
耳まで響く、しゃきりとした繊維の食感。皿に添えた塩故障とあわせて、もう一口。
ディエス
殆ど末裔の肉といって差し支えないその果肉を、齧り、咀嚼する。
ディエス
新鮮で瑞々しくて、末裔のディエスにとってはとても甘く、人生で得たことのない"美味しい食べ物"だった。
ディエス
内臓がぐるりとねじれてひっくり返ろうとするような衝撃。
ディエス
食道を通った後の喜びが胃の中で亡者が足掻くような苦痛に変わる。
ディエス
『これを食えばきっとお前もあの白兎のように子だくさんの体になれる』
ディエス
死体を、亡者を、土を水を、およそ食べ物と言えないようなものを。詰め込まれた記憶。
ディエス
それらが全部腹の中で蘇り、ぎゃあ、と悲鳴を上げてのけぞって、けれどそれでも吐き出そうとはしなかった。
ディエス
美味しそうに食べていたディエスが叫び、もんどりうって丸くなる。
ディエス
吐くわけにはいかない、吐くわけにはいかない。
ディエス
いつもは食べてすぐトイレに行くと席を外したり、そもそもあまり食べなかったり。
ディエス
けれどディエスは皆の前ではいつも食べ物をおいしいおいしいと食べていた。食べるフリをしていた。
ディエス
美味しいと思っていた。ただ、はらわたがこれ以上受け付けないだけで。
ディエス
それでも、強引に口を押さえて吐くのを止める。
ディエス
これはロルドゥラが残したものなのだから。
ディエス
これだけ叫んで暴れても、体の周りに溢れるのはディエスの体液ばかりで、ゴーストペッパーの破片は一つもなかった。
ディエス
ディエスの腕が震え、地を突いて、ゆっくりと顔を起こす。
ディエス
ぼんやりとするディエスの髪は、ぼさぼさと伸びていた。
ディエス
髪の毛のところどころにちらちらと、白や黒の毛が交じる。
ディエス
「その……っわたし、は……いま、まで……かくしごとを、していました……」
ディエス
「じつは、あんまり、ものがたべられないからだでして……」
ディエス
「ただ、ずっと、いろんなものをたべてきて……」
ディエス
「……食べたものを、なんでも吸収して、俺の成長は、他の末裔とは違っておかしいらしくて……」
ディエス
「なのでこれはそういうことです!フー!おいしかったですね!」
ディエス
ぱっと顔を上げ、いつものようにニコニコと。
ディエス
その体は、この村に来る前よりもわずかに成長して見える。
ディエス
その髪だけが、まるでロルドゥラのようにわさわさと伸びていた。
ディエス
……その体もオスかメスかもわからない体のままだろう。ロルドゥラがどっちかわからなかったから。
ショチ
「……けっこう……イメージ変わったな……」
ディエス
「ちょっと胃?はもちょもちょしてますけど……大丈夫です!ちょうしいいです!」
ディエス
やったー!と手を上げる様は今までと変わりない、やや子供めいたアクション。
ディエス
「……ロルドゥラ様が、食べてねとおっしゃいましたので」
ディエス
「……ロルドゥラ様の最後の頼みですから……」
ディエス
「私達はロルドゥラ様の命をいただきましたからね」
チトセ
「じゃあ私が死ぬときは私に似るってことですか? それは楽しみかもしれませんねえ!」
ディエス
「わーっ、女性……というやつになってしまう!でも死なないでくださいね!」
ショチ
「そういうの今言われると想像しちゃうだろうがよ」
ディエス
「でかいおっぱいの……ディエスをですか!」
ショチ
「違……いや……そっちの方がまだマシだな。そっちを想像して気を紛らわすか……」
ディエス
「……がんばりましょう。ロルドゥラ様がいなくなったとしても」
ショチ
「キャパは一人が限界だ! 二人目は忘れられると思え!」
ショチ
食事という気分ではなくとも、持ち物は減らすべきで、ここで食材を無駄にしたくはなくて。
ショチ
それはつまり、明日以降を生きぬくための選択だ。
ディエス
食事を済ませ、僅かな荷物を持ち、村を発つ。
ディエス
3人で歩いていく。今度はもう変な亡者に会ってもはぐれないように気をつけないと。
ディエス
もうあんな辛くて悲しい食事はごめんですからね!
GM
疵を晒し、疵を残し、一晩のパーティーは終わった。
GM
四人の仲間たち。一人が欠けて、残る三人で、疵を分け合い生きていく。
GM
終わってしまった世界で、終わってしまった村を後にして、