イレネ
「こいつらのことも含めて、どうするつもりなんだ、これから?」
カズマ
「……イレネさんは、もう、おわかりでしょう」
イレネ
「……もう一度だけ聞いておくが、それでいいのか?」
カズマ
「もし殺したくないというのなら、その意志を尊重したい」
イレネ
「ま、同情はしてるね」 ほんの軽く、肩を竦める。
ミケ
「お二人がどうするかを伺ってから、決めればよいのではないかと思います」
イレネ
「……ミケが気にしてんのは、まあ、心月のほうだろ」
イレネ
「二人残すか、慢月を殺して一人で残すか、二人殺すか」
ミケ
「復讐とは自分に害を与えた相手に対して、それに見合う害を返すこと。」
イレネ
「心月は……向いてねえとは思うな。復讐心がどうじゃなく、人に斬ってかかるのに向いてねえ」
カズマ
「……別にそれを僕は恐れているからやめろと言っているわけじゃないですよ」
イレネ
「わかってるよ。追い詰められりゃ、この国じゃなくたって人は変わる」
ミケ
「おふたりに、話を伺ってもよろしいでしょうか」
GM
心月の身体は、折れたところがあちこち修復されている。
ミケ
昏倒している慢月を抱き上げて、心月の傍に運んだ。
心月
慢月の懐から、刺繍の入った小袋を引っ張り出す。
カズマ
「僕の考えじゃない。これは、ミケが決めたことです」
ミケ
「おふたりに伺って決めるのが良いと、『ミケ』が考えました」
イレネ
聞きながら、指先で空中にコインを弾く。取り、弾く。
心月
「慢月には『不老不死の霊薬』を与え、不死に。」
ミケ
所有権が慢月から慢月の奥方へ移動する図を描いています。
心月
「諦めさせますから、殺さないでやってください」
カズマ
「あなたがたを殺してやるべきだと僕は思っていました」
カズマ
「そんなことは思っていなかった、と、これまで考えていましたが」
カズマ
「……その考えは考え直したほうが、よさそうですね」
イレネ
「ま……自分じゃどうしようもねえことってのはある」
カズマ
この男の心にも、雨は降り続けるのだろうか。
慢月
どうして、確かめられない他人の内を確かめようとするのか。
イレネ
「で。そこの死に損ない二人はこれからどうする?」
慢月
「どうして、死ぬべきだと思うなんて、言うんだい?」
慢月
「君が死んでたら、ここで僕は負けなかったし」
慢月
「死んだ日から君が出会った人、交わした言葉、食べたもの、得た物、喪った物、与えた物……」
慢月
「そういうのは全部、なかった方がよかったって……言ってるようなものじゃないか」
カズマ
「ちょうど、こんなふうに、じっとりと重たい雨です」
カズマ
「その雨で、見えなくなっているんでしょう。色々なものが」
慢月
「その雨も、止むといいね。そうじゃなきゃ……僕は、納得できない。」
カズマ
『大網一真は、心から雨が去るように善処いたします』
慢月
「なら、ひとつくらい譲ってあげてもいいか。」
カズマ
自分の心の疵を、自分で舐めることはできない。
慢月
「せっかくお姫様にしてあげようと思ったのに」
イレネ
「疵がねえってのは大事だ。顔にも身体にも、本当は心にも、ないほうがいい。
『お姫様』以外のことは何も知らねえほうがな」
慢月
「自分のそれも、ない方がよかったと……思ってる?」
イレネ
「痛いとか辛いとか。そういうのは、ま、あったりなかったりだけど」
イレネ
「お前。今何が良いって言われたと思ってんだ」
慢月
「僕の、満たされた生は保障してくれないの?」
ミケ
「『ミケ』はあなたの孤独ではない満たされた人生を保障しますが──」
ミケ
「慢月さまには、心月さまがおられるので……」
ミケ
「慢月さまも、心月さまのことを、親友で兄弟だと」
ミケ
「『嫌』なことは『嫌』と言うことをおすすめします」
ミケ
「『NOと言えないあなたへ』などの書籍の購入はいかがですか?」
ミケ
「慢月さまには、孤独ではない満たされた人生が」
ミケ
「すでに保障されていると『ミケ』は思います」
カズマ
「さきほどいただいたコインは、お返しいたします」
イレネ
「返してほしけりゃこっちの5枚もやるよ。
コイン無しで放り出すならここで殺しても変わんねえ」
イレネ
「心月。どっちにしたって苦労するのはお前だ」
カズマ
「それを証明せずにいるのが居心地悪いだけです」
イレネ
どっちにしても心月が苦労するだろうな……と思いながら見ています。
カズマ
ことあるごとに嫁にしてあげるっていうんだろうなあ
カズマ
「それではあらためて、よろしくお願いいたします」
ミケ
その辺りのことは『ミケ』の理解が及ばないので微笑んでいます。
心月
「藍染の藍に静かな龍と書いて、藍 静龍 (ラン・ジンロン)と言います。」
カズマ
「……イレネさん、ミケさん、ありがとうございました」
カズマ
「僕の判断でしたら、殺してしまっていたと思いますので」
カズマ
「そうしなくてよかったな、と今は思います」
イレネ
「決めたのはミケ。礼はあいつにだけでいいよ」
ミケ
「ありがとうございます。カズマさま、イレネさま」
ミケ
「『ミケ』は皆様のために働きますので、何でもお申し付けくださいませ」
GM
数日もすれば、最後に、一際大きな悲鳴と共に。
カズマ
コインを渡……5渡すと一人だけ多くなりすぎるな……。
ミケ
きょろきょろ見回していったんカズマさまに渡しました。
カズマ
「まあ金勘定はイレネさんの方が上手ですからね」
カズマ
「まずは街道まで歩きましょう。商人に拾ってもらえれば楽できるかもしれません。歩きでも、夜には街につけるかと……」
カズマ
「ええ。あんまり小さいのはだめですけどね、この大所帯だし……」
ミケ
現在の慢月の高度と、上空の風速を読み上げている。
イレネ
「いいか、ジンロン。適切な嘘がつけない馬鹿はよりたちが悪い」
GM
キラキラと輝く月の鱗粉が、その道筋を照らしていた。
GM
Dead or AliCe 『耳鳴り峠の吸血鬼』