ジャン
自分の生まれが嫌いだった。
ジャン
末裔という存在自体、とりわけイモムシの末裔とか言う連中のことが。
ジャン
隠れるようにキノコの中にまとまって住んでいる里に、子供のころから馴染めなかった。
ジャン
子供の頃こそ叱られて止められたけれど、何事もなく帰ってくるようになると、里を離れて荒野をうろつくのも咎められなくなった。
ジャン
それがまた、どうも気に入らない。だが、行動を咎められないのはありがたい。
ジャン
その日もいつも通り、荒野を少し散歩して、なにか自分の中にあるほとぼりが冷めたら、里に戻るつもりだった。
ジャン
しかし──
ジャン
「うっ、うわあああああッ!」
ジャン
こちらに襲い来る亡者を目の前に、悲鳴を上げることしかできない。
ジャン
その鋭い牙が自分に届くまでの間、むしろどうして自分が無事だったのか、ということを考えていた。
ジャン
たぶん、偶然でしかなかったのだろう。今日たまたまここに亡者がいて、自分はそうして死ぬのだ。
ジャン
里の連中をバカにしていたけれど、結局俺がいちばんの愚か者だったというわけだ──
ジャン
そうして、亡者に喰われて死ぬ。そのはずだった。
ペペル
まさに襲いかからんとする亡者。
その巨体を、横合いから一条の紫の光線が撃った。
ペペル
いや、光線に見えたものは、
小さな人影が音の速さで接近し、剣で裂く一連の動きだった。
ペペル
「…………」
ジャン
視界に飛び込んできた一閃に、思わず目をつぶっている。
ジャン
何が起こったかなど分からない。
ジャン
ただ、いつまで経っても自分を食いちぎる牙は到達しない。
ペペル
亡者を蹴り飛ばし、跳ねて着地し、ざり、と荒野の砂を踏む。
ジャン
「………………」
ペペル
稲妻のような殺意と戦意をたたえたこども。
その手には、返り血に濡れた一振りの剣が握られている。
ジャン
「…………、?」
ジャン
恐る恐るに。やがて目を開ける。その姿を、青年もまた捉えた。
ペペル
末裔の青年には一瞥もくれない。
助けの手を伸ばすことも、害することもない。
まるで興味がないように見えた。
ペペル
ただ剣を構え、亡者と一定の距離を保つ。
互いに、動くタイミングを測っていた。
ペペル
「……」
亡者
緊張に耐えかねたかのように、亡者が濁った吠え声を上げて
剣を構えた闖入者に襲いかかり──
ペペル
次の刹那、紫電の光が円弧を描く。
ペペル
跳躍。剣閃。
それと同時に、目を潰す眩い魔法の稲妻が落ちる。
ジャン
(すっ……すげえ………!)
ジャン
コインと心の疵が成す奇跡を、里に引きこもり、そこからつかず離れずにくさっていたこの末裔は見たことがない。
ペペル
亡者の身体が弾ける。腐った血の臭気。
そして、空気が焦げるにおい。
ジャン
話には聞いていたが、実際に見ればその凄まじさに圧倒されることしかできない。
亡者
「──…………。」
亡者
それらを残し、亡者は荒野に地響きを立てて倒れ伏す。
ジャン
尻餅をついたまま、呆然と見つめている。
ペペル
宙を駆けていたこども──救世主が、再び
とん、と着地する。
ペペル
「………………」
ジャン
「………………」
ペペル
「………………」
ペペル
「あ……」
ジャン
「…………っ?」
ペペル
「……あ~~~~~、怖かったああああ!!!!」
ペペル
めいいっぱい叫んだ。
ジャン
「!?」
ペペル
「…………こ、今度こそ死ぬかと思った…………」
ペペル
緊張状態を脱したらしく、
全身からぼたぼたと汗を垂らしている。
ペペル
剣を地面に突き刺してしばらくそうしていたが、
ペペル
ふいに顔を上げて、末裔の青年のもとにつかつかと歩み寄る。
ジャン
「あっ」
ペペル
「ちょっとそこのキミ!
 なんで襲われてるの!?」
ジャン
「ありがっ……えっ」
ペペル
胸ぐらを手で掴んで、やや理不尽な詰問を始めた。
ジャン
亡者を打ち倒した救世主の手である。めちゃくちゃ怖いがさすがに質問の理不尽さの方に目が行く。
ジャン
「いっ、いや、いつもはこの辺亡者とか出なくて……初めてで……っ」
ジャン
おろおろと弁明を試みる。
ペペル
「も~そんなのあてにならないでしょ。
 こんな場所、いつ亡者が迷い込んできても
 おかしくないのはわかってるじゃん……」
ペペル
「まったく…… 助けるこっちの身にも……」ブツブツ……
ジャン
「す……すいません……」
ジャン
「いや、あの……はい、助けてくれてありがとうございました……」
ジャン
神妙に言う。
ペペル
「あ、うん、わかってくれれば……」
ペペル
「……あっそうだ!
 ケガとかない? 大丈夫!?」
胸ぐらを掴んでいた手を離した。
ペペル
順番が変な気がする。
ジャン
「は、はい」
ジャン
「え~と……そっすね。大丈夫です。こけた時に擦りむいたぐらい……」
ジャン
ここは堕落の国。いつも亡者が現れないからと言って、今日現れないとは限らない……
ジャン
自分はそんなことも分かっていなかったのだと思いながら、うろうろと目を泳がせる。
ペペル
「そっか~ よかった
 ぼくは回復魔法は使えないからねえ……」
ペペル
ホッとした様子で息をつく。
……どうやら、青年を助けるつもりで亡者と戦ったらしい。
ジャン
救世主には、力を頼みに末裔を虐げるものもいると聞くが、自分を助けることに何か意味があるとは思えない。純粋に助けてくれたのだろう。
ジャン
……今日たまたま襲われた自分を、今日たまたま善良な救世主が助けてくれるとは……
ジャン
逆に言えば(?)これは……運命なのでは?!
ペペル
「ぼくはペペル。ここの人たちには救世主、って呼ばれてる。
 なんてまあ……もうバレてるかな?」
ジャン
「はっ、はい! あんなことできるの、救世主さま以外にいませんから……!」
ペペル
「ちなみに前の世界だと、勇者ペペル……なんて呼ばれてた。
 勇者と救世主、まあ似たようなものかな……」
ペペル
「キミはこの近くに住んでる末裔かい?」
ジャン
「あっ、あの、俺はジャンって言います。イモムシの末裔で、まあ俺以外のイモムシの末裔ってけっこう感じ悪いんで救世主さまに紹介するのもあれなんですけど……」
ジャン
「あっ、でも助けてもらってお礼もできないのもあれなんで、うちに来てのみものでも飲んでってください。家にはだいたいキノコのポタージュがあるんで。俺は嫌いなんですけど……」
ジャン
「救世主さまがご入用なら水パイプもあります! まあ俺は嫌いなんですけど!」
ジャン
「どうか家に来ていただけませんか!!!!!」
ペペル
「行く行く~!」
二つ返事。
「どのみち、キミを送ろうって思ってたところだからね。
 よろしくね、ジャン」
ジャン
「はっ、はい! よろしくお願いします! 救世主さま!」
ジャン
舞い上がった返事をした末裔は、先導して勇者を里へ招いたのだった。
ペペル
「ペペルでいいよ~
 救世主様って、なんか落ち着かない呼び方だし」
ペペル
そんなわけでついていったのだった。
 
***
 
イモムシの末裔は、街や村ではあまり見かけない。
 
イモムシはイモムシ同士、隠れ里でひっそりと暮らしていることが多いからだ。
 
ペペルが足を踏み入れたのもそんな里のひとつ。
キノコで組み上げられた家が荒野の真ん中で狭苦しそうにひしめいている。
ジャン
「狭いとこっすけど……」
ペペル
「ほんとに狭いね~」
ジャン
「ですよね。もうちょっと広くしてもいいと思うんすけど、親はこれでいいんだとか言って……」
ジャン
親と同居しているらしい末裔は、台所でポタージュを器に注ぐと、あなたを自分の部屋に連れてくる。
ジャン
冷めたポタージュをテーブルに置いて、あなたに席を勧めた。テーブルも椅子もキノコ製だ。
ジャン
「どうぞ」
ペペル
「いただきま~す」
ペペル
ほんとにキノコづくしだな~と物珍しげに
きょろきょろ見渡している。
ジャン
「まあなんか……こういう場所で息が詰まって……散歩とかよくしてて……」
ジャン
「救世主さま……あー……ペペルさんがいなかったら死んでました。ほんとに」
ペペル
「ん~……別にいいよ。さっきはあんなこと言っちゃったけど……」
ペペル
「確かに荒野ぐらいしか、散歩に繰り出せる場所なんてないよね」
ジャン
「そっ。そうなんです……まあ、昔は危ないって止められたもんですけど……」
ジャン
「…………」
ジャン
「ペペルさんは、旅の途中……って感じですよね」
ペペル
「うん、そうだね。あてもない旅のさなか」
ペペル
「救世主って言われても、何をすればいいのかわかんなくてさ……
 こうしてあちこちほっつき歩いてるってわけ」
ジャン
「……そうすか……」
ペペル
「いやまあ、させたいことはわかるけど
 そんなことで世界が救えるなんて思えないしなぁ……」
ペペル
救世主の責務のことを言っているようだ。
ジャン
「あっ、いや、文句とかそういうわけじゃないんです。
 そっすよね。いきなり呼ばれて落とされたわけなんだから、戸惑うっすよね」
ペペル
「でっしょお」
ジャン
「でも、さっきのはすごかったです」
ジャン
「あんなすごい力があったら、世界、救えちゃうんじゃないすかね……?」
ペペル
「それほどでも~」
ペペル
「いや、でもほんとに大したことはないと思うな……
 結局今の力だって、六ペンスコインのものなわけだし……」
ジャン
「でも、六ペンスコインの力を引き出せるのは救世主だからだし、それに力があっても身のこなしとか戦い方とかはペペルさんのものなわけで、さっき飛び込んできた時速すぎて光線にしか見えなくて何が起こったか分からなかったって言うか……!」
ペペル
「えっえっえっ」急に早口に!
ジャン
「感動しました!」
ペペル
「え~~~~~」
ペペル
~かけひき開始~
ペペル
イニシアティブは才覚だっけ……
ジャン
才覚ですね
ペペル
1d6+1 じゃあ振ります (1D6+1) > 4[4]+1 > 5
ジャン
まあこのジャンコイン持ってないから脅威度も才覚もないのでは?という気もするが
ペペル
まあ……いいんじゃない?そこは
ジャン
1d6+3 振るか (1D6+3) > 6[6]+3 > 9
ジャン
やる気です
ペペル
ほう……
ペペル
カードをひきたまえ
ジャン
*h4,dQ,jo
ペペル
*c4 c7 d8
ジャン
*joでアピールをするぜ
ジャン
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 8[4,4]+1 > 9 > 成功
ペペル
普通に成功 誘い受けがない……
ジャン
誘い受けのないところに飛び込んでいくぜ。
ジャン
あっ、ハプニング。
ペペル
ほんまや!
ジャン
1d6 (1D6) > 6
ペペル
我に返らないで
ジャン
そんな……
ペペル
でもこれ何も起こらないでは?
ジャン
確かに
ペペル
ハプニングの処理→アピールの処理よね
ジャン
そのはず 元から我に返っていた
ペペル
なるほどな
ジャン
「ペペルさんは元の世界では勇者だったんですよね。勇者ってのが何だか分かんないけど、元からすごかったんだろうなって……」
ペペル
「すごい無責任に褒められてる!」
ジャン
「すごかったんだろうなって思います!!!!」
ジャン
力押しか?
ペペル
「いやまあ、もとの世界では確かに頑張ってたし……
 ぼくにしては頑張ってたし……
 全然駄目ってわけじゃあ……ないと思うけど……」
ペペル
グラグラ……
[ ペペル ] 情緒 : 0 → 1
ジャン
「やっぱり!!!」
ペペル
「やっぱりじゃないよぉ~」
ペペル
え~
ペペル
*まずc4距離を測り
ペペル
*d8でアピールしたいな
ジャン
*dQで誘い受けをします
ジャン
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[3,3]+1 > 7 > 成功
ペペル
ハプニングやん
ジャン
目標値が変わらないうえにまたハプニングになりました
ジャン
1d6 (1D6) > 4
ジャン
何気ない所作にドキッ!ランダムな対象1人の情緒+1。
ジャン
choice[ペペル,ジャン] (choice[ペペル,ジャン]) > ペペル
ペペル
そんな……
[ ペペル ] 情緒 : 1 → 2
ジャン
これが才覚の戦術ということ?
ペペル
才覚要素なし
ペペル
気を取り直して、アピールの判定します。
ジャン
はい
ペペル
2d+1+1>=7 (2D6+1+1>=7) > 7[1,6]+1+1 > 9 > 成功
[ ジャン ] 情緒 : 0 → 1
ペペル
余裕ですね
ジャン
グワーッ
ペペル
「本当の救世主になれ、って言葉の意味
 キミはわかって言ってる……?」
ジャン
「えっ」
ペペル
「さっき倒した亡者の比じゃないぐらい、
 強い亡者や……悪い救世主と戦えってことなんだよ?」
ペペル
もちろん、戦う必要があるのは
“悪い”救世主だけとは限らないのだが。
ジャン
「もっと強い亡者や……悪い救世主と……」
ペペル
「いままでうまくいってたからって……
 これからもうまくいくとは限らないじゃん」
ジャン
「そ……それは……」
ペペル
「うまくいかなかったのが、
 まさに今日のキミだろ……?」
ジャン
「はい……そうですね、その通りです……」
ジャン
舞い上がっていたところを戒められてシュンとなったが、情緒は上がっています。
ペペル
いろいろな情緒があるからね
ジャン
*カードを捨てるか…… h4を捨てます
ペペル
*c7捨て
ジャン
*c9,s9,dJ
ペペル
アピール引けないん人VS誘い受け引けないん人
ジャン
*パスッ……
ペペル
*c3 h6 h9
ペペル
*c3で距離を測ってh6アピールするか……
ジャン
*s9で誘い受けをするぞっ
ジャン
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 6[4,2]+1 > 7 > 成功
ジャン
また目標値変わらん人
ペペル
脅威度1、誘い受けしないほうがいい説ある
ジャン
悲しいね
ペペル
2d+2>=7 うお~ (2D6+2>=7) > 6[5,1]+2 > 8 > 成功
ペペル
余裕
ジャン
クッ……
[ ジャン ] 情緒 : 1 → 2
ペペル
「まあ、キミも悪気があって言ってるわけじゃないと思うからいいけど……」
ジャン
「は、はい……いや、反省してます」
ペペル
「ボクのことを持ち上げるのまでは、わからなくもないけど……
 そんなふうに積極的にそそのかしてくる末裔は
 はじめてなんだよね……」
ペペル
「……なにか、企んでたりしない?」
ジャン
「えっ!? い、いやっ……そんなことは……!」
ジャン
露骨に声が動揺する。実際べつに痛くはない腹……いや、そうだろうか?
ペペル
じ~~~~っ
ジャン
俺は……なにかこの人にして欲しくて、それで褒めまくっているのでは……!?
ジャン
ううっ、だめだ、緊張してちょっと腹が痛い!
ジャン
「な、ないです! 企みなんてぜんぜん! 素直に……素直にすげえって思って!」
ペペル
「………すごい顔してるけど……大丈夫……?」
ジャン
「大丈夫です!!」
ペペル
不安……
ジャン
*c9とdJを捨てます!
ペペル
*h8を……
ペペル
おいおい
ジャン
まちがえました
ジャン
*cQ,CA,dA
ペペル
*c6 d9 cJ
ペペル
一押しが急に三枚
ジャン
急にめちゃくちゃになった。
ジャン
*一押し cJ,dA を使用し、お互いの情緒を4まで上げます
ペペル
勝負に来た
[ ペペル ] 情緒 : 2 → 4
[ ジャン ] 情緒 : 2 → 4
ペペル
このアピールの成否がそのまま勝敗を分かつということ……
ジャン
*そしてcKアピール!俺は勝ちに行く!
ジャン
2d6+1=>7 (2D6+1>=7) > 5[2,3]+1 > 6 > 失敗
ジャン
バカ
ペペル
そんな・・・
ジャン
うおおっ
ジャン
「俺は……俺はっ……!」
ペペル
俺は……?
ジャン
頭がぐらぐらする。そう、さっき助けてもらって、あり得ないと思ったのだ。ただのバカな末裔である自分が、たまたま亡者に襲われたところを助けられるなんて、運命以外にあり得ない……
ジャン
もともとこの里が嫌いだった。だがこの外に出ることが今までできないで来た……
ジャン
「おっ……俺は! ペペルさんの旅についていきたいと思って……!!!!!」
ジャン
「それだけなんです!!!」
[ ジャン ] 情緒 : 4 → 5
ペペル
「ヒィ!! 顔近いよぉ!!」泣いちゃった…!
ジャン
「お願いします!!! 俺を連れて行ってください!!!!!!」
ジャン
力押しだ。
ペペル
「わかった……!わかったから落ち着いて……」どうどう
ジャン
ぜえっ、ぜえっ…………
ジャン
「ありがとうございます……! えっ? ありがとうございます……ゲホッ」
ジャン
「絶対役に立ちますんで……!」
ペペル
「いや、今のわかったっていうのは
 そういう意味じゃなくて」
ジャン
「そんな……」
ペペル
また盲腸炎患ってるみたいな顔に……
ジャン
叫び過ぎて腹筋が痛い……
ペペル
はあ~~~とため息をつく。
ペペル
「人の話聞きなよ。
 別に駄目なんて一言も言ってないでしょ」
ジャン
「…………! そ、それじゃあ……」
ペペル
情緒が忙しそうなジャンの顔の前に指を突きつける。

「でもOKとも言ってない!」
ジャン
「どっ…………どっちですか!?」
ペペル
「だから話を聞きなって。
 ボクたちは出会ったばかりで、
 お互いのことを何も知らないでしょ」
ジャン
こくこく頷く。
ペペル
「ボクだって……いい救世主に見せかけて
 イモムシからなんか……搾取するとかが大好きな
 悪い救世主だったりするかもしれないじゃん」
ペペル
指を引っ込めて、狭い部屋の中で脚を伸ばす。
ジャン
「それは……いや、でも、そんなことはないと思うっすけど……」
ジャン
断言できるものでもなく、むにゃむにゃと言いながら視線をうろつかせる。
ペペル
「だからさ……しばらくここに泊めてよ」
ジャン
「!」
ペペル
「それで話をして、お互いのことを知って、
 それから決める。ってのはどう?」
ジャン
「は……はい!」
ジャン
「それがいいと思います! 俺、親が帰ってきたらペペルさんのこと言ってきます!」
ジャン
ぱあっと顔を輝かせた。親と同居しているのである。
ペペル
「決まりだね!よろしく」
決まったことにした。
ジャン
そのようになった。
ジャン
「よろしくお願いします!」
ペペル
狭い家だということがわかっているうえでの提案なので、
なにげに無茶振りな気もする。
ジャン
末裔の方はすっかり舞い上がってうきうきとしている。
ペペル
「やった~ 久しぶりの屋根のある場所だ~」

早速勝手知ったる顔でくつろぎだした。
ジャン
そのうち帰ってきた親にジャンは事情を説明し、無事にペペルを自室に泊めることとなった。
ジャン
狭い自室の隅にはキノコで作られた小さなベッド。ジャンはそれをペペルに明け渡して、自分は床に毛布を敷いている。
ジャン
イモムシの末裔としての自分、イモムシの末裔たちがひしめく里、キノコの家に水パイプの香り。どれもこれも好きではなかった。
ジャン
そこから出るのだと決意をした時、世界が拓けたような気がした。
ジャン
……もちろんこの時は、まだ連れて行ってもらうと決まったわけではなかったけれど。
ペペル
~三日後~
ペペル
旅の支度を済ませたペペル……そしてジャンが、
末裔の里の出口へと立っている。
ペペル
「ボクの提示した三つの厳しい試練……
 よくぞくぐり抜けてくれたね……」
なにやら神妙な口調。
ペペル
“好きなタイプの異性について話す試練”
“ペペルの髪をうまく手入れする試練”
“岩を斬る試練”……どれも過酷なものだったという。
ジャン
「はいっ……!」
ジャン
全身から喜びという感情を放射している顔で立っている。
ジャン
好きなタイプについて話すのは自意識の高い末裔には厳しく、
勇者ペペルの髪は癖がついており整えるのは大変なもので、
岩は斬れなかった。
ペペル
過酷だったね……
ジャン
それらを俺は乗り越え、あるいは乗り越えたことにしてもらった。
ペペル
でもキミならやれるって信じていたよ。
ジャン
ありがとうございます、ペペルさん……!
ペペル
「なんか、落ち着かないな。
 誰かが旅の道連れになるの、久しぶりだから……」
ジャン
「俺、旅なんてはじめてなんで……!
 足手まといにならないように頑張ります!」
ジャン
この三日間、同じようなことを何度も言ってきた男である。
ペペル
「それはいいけどさ。
 ……本当に後悔しない?」
ペペル
里を振り返る。
ペペル
「旅についていくなんてやめたほうがよかった、
 って思うときが来るかもしれないよ」
ジャン
「……いいえ、後悔なんてしないっすよ」
ジャン
「昨日まで安全だった場所が、今日も安全だとは限らないのはこの里も荒野も同じだし」
ジャン
「俺はそれだったら、ここにいるよりペペルさんについていって、いろんな場所を見てみたいです」
ジャン
「ペペルさんなら世界を救えるかもって、やっぱり俺思ってるんで……」
ペペル
「あはは……」
ペペル
ジャンの言っていることは正しい。
でも、ちょっとわかっていないと思った。
ペペル
堕落の国でも、そうでなくても、
戦いの中に身を投じたものは、
いずれ死ぬよりも恐ろしい目に遭うことがある。
ペペル
それを、今は口にはしない。
ペペル
「……わかったよ。
 じゃ、行こうか」
ジャン
「はい!!!!」
ペペル
「それに、
 案外世界を救うのは……
 キミのようなやつだったりしてね」
ペペル
冗談めかして言うと、先んじて数歩駆け出していく……
ジャン
「え?!」
ジャン
「あっ!」
ジャン
その言葉を噛み砕く前に、末裔は慌てて救世主に続いた。
ペペル
~103号室 前日譚 おわり~